愛される学校づくり研究会

今、愛される学校づくりは

★研究会の名称にも関連するこのコラムは、校長の立場で実際にどのように取り組んでいるのかを事例等をもとに、ビジョンや考え方、想いを示して頂くものです。もちろん成功例もあれば、失敗例もあるはず。それぞれの実情に応じた生の情報が、学校づくりの参考になると思います。

【 第2回 】閉校に立ち会って
〜新城市立八名小学校長 岡山雅仁〜

平成26年4月、2年後の閉校が決定している新城市立連谷小学校へ、第35代校長として赴任しました。全校児童4名の愛知県下最小規模校でした。翌年には、1年生・3年生・6年生が一人ずつの全校児童3名で、複式指導どころか完全な個別指導という、希に見る体制になりました。担任3名の他、校長・教頭・養護教諭・事務職員・給食調理員の計8名の職員と子どもたちで総勢11人、連谷イレブンで閉校の年を迎えました。

学制発布された明治5年に、本地区に「第28番小学身平橋学校」が設置されました。それから144年間、学校制度や校名の変更、敷地の移動も何回かありましたが、一地区に唯一の学校として存在してきた連谷小学校は、地域の核であり、「おらが学校」として地域と共に歩んできました。
 新城市は、文部科学省に先んじて、平成21年に「6学級以下の学校を再配置の対象とするが、地域からの要望に基づいて再配置を行う。」という学校再配置方針を出しました。連谷地区としてもいろいろな議論があったようです。しかし、子どもたちの未来を考えて閉校・統合という苦渋の決断、断腸の思いの決断をすることになりました。
 そんな本校に赴任した私の最大の使命は、地域の人々と共に本校の幕引きをすることでした。早々に閉校記念事業実行委員会を立ち上げ、「記念行事部会」「記念誌部会」「記念式典部会」の3つの部会を組織して活動を開始しました。終わることを盛り上げるのは、デリケートな部分を多く含んでおり、かなり不安なスタートでした。しかし、毎月1回の全体会や、それぞれの部会の活動に取り組む中で、委員の方々をはじめとした地域の方々との交流が深まり、閉校が近づくにつれ学校と地域がより一体化していきました。

閉校記念誌は、本校のあゆみのみならず地域の歴史書としての内容も含ませ、明治以来の卒業生・職員の名前や卒業写真、そしてドローンを使って学区内の全地区をくまなく俯瞰写真に納めるなど、記念誌「地域と共に歩んだ144年間」が完成しました。
 記念行事部会が企画した最後の運動会は、前年度の100名という記録を大幅に更新して200名以上が集まりました。マーチングバンド部の復活や消防隊の小隊訓練の披露、地区対抗の競技種目や園児と小学生が共にこなしたパフォーマンス等々、地域の一大イベントとなりました。その他にもふるさとウォーキング、ふれあい教室など、記念行事に多くの方々のご参加をいただき、地域が大いに盛り上がりました。
 マスコミも度々来校しました。この2年間でテレビ局と新聞社合わせて10社以上が、複数回にわたって取材に訪れました。本地区には日本棚田百選に選ばれた四谷千枚田があり、全校児童3名という県下最小規模校であり、そして閉校と、ニュースバリューにあふれていたのでしょう。何となくマスコミ慣れしている子どもたちの姿がありました。
 そして平成28年2月7日、閉校記念式典を挙行しました。市長はじめ多数の来賓を迎え、厳粛かつ盛大な式典となりました。実行委員をはじめとした地域住民はもちろん、地元を離れた同窓生や旧職員にも多数お越しいただき、連谷小学校に関わった多くの方々と感動を共有することができました。最後の校長として、歴史の大きな変換点に立ち会わせていただいたことは、私の教員人生の中で貴重な体験であり、この上ない光栄なことでした。

毎年6月第1土曜日は「灯そう千枚田」といって、四谷千枚田におけるお田植え感謝祭が行われます。昨年までは全校で参加していた地域行事ですが、今年は一人で出かけました。久しぶりに地域の方々とお会いし、「校長先生、よくきたのん。」と歓迎していただきました。対話の中で、「学校の前を通っても電気はついていないし、寂しいもんだのん。」という声を聞きました。覚悟はしていたことでしょうが、地域の人たちの寂しさが改めて伝わってきました。愛され続けてきた学校が消滅したのです。
 新城市は平成17年の市町村合併後、11の小学校が閉校しました。現在、小学校13校、中学校6校です。少子高齢化や学区の広域化が進む中で、学校が地域に存在する重要性を再認識し、学校が地域で果たすべき役割を協議・実践していくことが求められています。

(2016年7月19日)

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執筆者プロフィール

●岡山 雅仁
(おかやま・まさひと)

初任地は豊田市、その後は故郷の新城市において、中学校勤務27年(内教頭4年)、小学校勤務3年、東三河教育事務所新城設楽支所勤務1年を経た後、昨年度まで2年間、新城市立連谷小学校長として閉校業務に携わった。本年度より新城市立八名小学校長として勤務している。「わかる・できる・おもしろい」をテーマとした数学指導と、生涯スポーツの楽しさを教えるためのソフトテニス指導に力を入れてきた。本研究会に入会して4年目、愛される学校をつくる力を少しでも身につけたいと願い、学ばせていただいている。