愛される学校づくり研究会

私の心に残る授業

★これまでのリレーコラム「授業のある風景」から、「私の心に残る授業」に切り替えて、自分が受けた授業、実施した授業、参観した授業等々、強く印象に残っている授業について、それぞれの主観をもとに示して頂きます。印象に残っているのには、きっと理由があるはずです。

【 第4回 】つい口から出てしまった「先生は一人しかいないんだから…」
〜一宮市立西成中学校 安藤 誉〜

今から5年前、本校に赴任して2年目のことになります。もともとは理科の教員である私が、ある事情で技術の授業を担当することになりました。機械いじりが好きで、日曜大工などにもまめに取り組む性格でしたから、何とかなるのではないかと思っていました。そんな軽い気持ちで引き受けてしまったのが、大きな失敗の始まりでした。授業を進めていくうちに、教科によって、指導の際の留意点がこんなに違うのかと驚かされたり、悩まされたりすることがたくさん出てきました。そんなある日、私にとって、忘れることができない出来事が起きました。

それは、1年生の授業でした。木材や金属などを用いて、いろいろな作品や商品を製作する際、設計者の意図を、作業する人たちに伝えるために図がとても重要なはたらきをすることを説明しました。その後、立体を図に表す方法についての学習に入りました。ご存知の方も多いかと思いますが、キャビネット図や等角図などと呼ばれる作図の方法についての学習です。

作図の授業

理科の授業で行う実験は、途中で手を止めさせて説明をしなおしたり、付けくわえたりすることは、あまりよいことではないと思っておりましたので、いつも実験の前にすべての実験内容を説明するとともに、その手順を黒板に分かりやすく示していました。それと同様に、図の描き方を最初にすべて説明し、その手順を黒板に示してから、図を描く作業に取り組ませました。

自分のイメージでは、スムーズに授業が進み、多くの生徒が正しい作図をすることができるはずでした。しかし、自分の予想に反して、生徒たちから「先生、分かりません。」「先生、描けません。教えてください。」などなど、次から次へと手が挙がり、個別の対応に追われることになってしまいました。そんな状態が長く続いたため、私はつい「先生は一人しかいないんだから、慌てないで待ってなさい。」と言ってしまいました。その時、教室の前を通りかかった先輩の先生がいらっしゃいました。夕方、その先生から「安藤さんは、面白いことを言うねえ。技術の授業は、どこの学校でも、だいたい一人でやってるよ。一人しかいないのは当たり前だよね。」こんな言葉をかけられ、顔から火が出るほど恥ずかしい思いをしました。今思えば、生徒の状況(技能の習得具合)を正確に把握していなかったために、教師の都合を優先した無理のある授業の展開を考えていたのだと思います。ポイントごとで、適切な指示をすることができていなかったのだと思います。もちろん、教材研究も不十分であったと思います。何よりも、自分自身の授業に対する姿勢が横着になっていたということに気づかされました。

大きな失敗でありましたが、自分にとっては、とても貴重な体験となりました。今でも、この授業のことを思い出し、自分自身の授業に対する姿勢を振り返るようにしています。

(2016年9月5日)

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執筆者プロフィール

●安藤 誉
(あんどう・ほまれ)

平成元年4月より岐阜県の私立中学校で教員生活を開始。平成3年4月より、愛知県に戻り、小学校で5年勤務後、中学校に赴任。平成23年4月より、5つ目の勤務校である一宮市立西成中学校で校務主任となる。今年度より同じく西成中学校の教務主任を拝命。仲間とともにお互いの授業力の向上を目指して奮闘中。