愛される学校づくり研究会

私の心に残る授業

★これまでのリレーコラム「授業のある風景」から、「私の心に残る授業」に切り替えて、自分が受けた授業、実施した授業、参観した授業等々、強く印象に残っている授業について、それぞれの主観をもとに示して頂きます。印象に残っているのには、きっと理由があるはずです。

【 第3回 】超えられない「タバコの授業」
〜群馬県太田市立九合小学校 塚田 直樹〜

えっ! タバコ

私の「心に残る授業」が行われたのは今から30年以上前の田舎中学。
 授業者は、3年C組担任でベテラン教師の片山昭三先生。(お名前の通り昭和3年生まれです)
その片山先生が、ある日教室でタバコに火を点けて吸い出したのです。時間にして、ほんの3分ほどの場面だったと記憶しています。

心に残る授業3-1

今なら問題になるでしょうが、当時は職員室や教室のベランダで休み時間に一服する先生方の姿が当たり前に見られる時代でした。
 タバコに火を点けた先生に、私たちがあっけにとられていると、タバコ(「ゴールデンバット」というフィルターのない「両切り」タイプ)を口に咥えて煙を吸い込み、勢いよく右手に持っていた雑巾に、口に大きく含んだ煙を「プ〜ッ」と吹き付けたのです。そして、その吹き付けた面を生徒の私たちに向けて見せたのです。

「見ろ」と言わなくても、嫌でも茶褐色に変色した雑巾に注目が集まります。多くの女子生徒だけでなく、男子からも「うわぁ〜」「おぇ〜」などと思わず声が上がりました。

先生は再度タバコを吹かして同じようにやに脂(やに)を雑巾に吹き付け、「これが一番身体に悪(わり)ぃんだ」と言いながら、その雑巾にタバコを押しつけて消し、茶褐色の汚れが広がった雑巾をもう一度私たちに掲げて見せてくれたのです。
 昔のことなので、授業のほとんどは覚えていないのですが、35年以上たった今でもあの光景だけは忘れられないのです。

体験を語る力強さ

次は、野口芳宏先生からご教示戴いたお話です。

ある小学校の公開研でのこと。中堅教師による「宿題は、ありがとう」という道徳の実践発表があったそうです。家族に感謝の言葉かけをした数と場面を子供に書かせる「宿題」を出したという授業報告で、とても分かり易かったのですが、時間の都合で授業のまとめ部分がカットされてその発表が終わってしまったそうです。

そこで、質疑時間に入り、講師のお一人だった野口先生が参加者の意向も汲んで、その「説話」を是非披露して欲しいと再現してもらったそうです。

詳細は割愛をさせて戴きますが、その「説話」は、発表者の先生が大学時代に所属していた野球部の優勝祝賀会で、レギュラーメンバーが自分たち二軍へかけてくれた感謝の言葉について述べられたものでした。
 参加者は、その説話にも大きな拍手を送られたそうです。

野口先生は空かさず、「発表の大部分を費やした部分をA、最後の説話部分をB、皆さんが心を打たれたのはどちらか?」と、例の如く問われたそうです。すると、参加者全員がBに手を挙げたそうです。
 教師が趣向を凝らした授業の大部分である40分が、最後の5分に敵わなかったというこのエピソードを例に挙げ、野口先生は教師の実感を伴う「語り」の重要性を説いてくださいました。〔詳しくは、野口芳宏先生の最新刊『教師に必要な3つのこと』学陽書房、p.22〜25をご参照ください。〕

心に残る授業3-2

時代の背景からの気付き

昭和55年の思い出の授業に話を戻します。当時の時代背景を振り返らせてください。人気歌番組が「ザ・ベストテン」で、ドラマが「金八先生」といった方が、失礼ながら年配の方には分かり易いでしょうか。

次のグラフは、警察にお世話になった当時の「少年」に関するデータになります。(法務省「犯罪白書」サイトより)
 年齢により「年少(14-15歳)」、「中間(16-17歳)」、「年長(18-19歳)」となるので、当時「年少少年」の中学生だった我々はオレンジ色になります。

心に残る授業3-3 ⇒拡大画像

当時は、学生服の太目のズボンや長めのスカートだけでなく、タバコやシンナー、恐喝や暴走などの問題行動が一種の「流行」になった時代でした。恐らくタバコに関する問題事案が近隣の学校から出て、田舎の母校にも波及することを恐れていたものと思われます。そこで急遽、特別活動の時間枠を利用し「タバコの害」について、先生なりにストレートにご指導くださったのではないかというのが、思い出の授業に対する私の推察です。(片山先生は既に鬼籍に入られ、確かめることができません)

保健体育が専門の自分は、中学校での「保健」の授業で「喫煙が及ぼす健康被害」の単元を指導する度に、片山先生のあの型破りな3分間のインパクトある場面を思い出すことになりました。そして、教材研究を重ねても、自分の心に残るあのタバコの授業を超える実践を作り出すことは、結局叶いませんでした。

今回の「思い出の授業」について振り返る中で、授業についていろいろ思いを巡らすことも大事だが、「素朴に教師の想いや願いを、目の前の子供にぶつけることも大事だぞ」と、改めて気づかされたように思います。野口先生の説話のエピソードも、同様の指摘を自分にしてくださっているように感じました。
 恩師への感謝を胸に、残り10年の教師生活を引き続き楽しんで参ります。(多謝!)

(2016年8月8日)

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執筆者プロフィール

●塚田 直樹
(つかだ・なおき)

太田市立九合小学校・教諭。群馬県公立中学校にて昭和63年教員スタート。専攻は保健体育科ながら特別支援の担当経験が増え、国立特別支援教育総合研究所での長期研修中に発足した特別支援教育ネットワークMLの管理人を務める。
また、「鍛える」というキーワードから国語・道徳の授業名人である野口芳宏先生に師事し、授業道場野口塾ネットワークの管理人も任務。
学生時代に体操競技をはじめた(詩画家の星野富弘さんは群馬大学の大先輩)ことから、体操教室講師も長年継続中。その他、地元NPO等でのトイレ掃除やまち映画制作、H29年度に地元開催となる「第16回日本群読教育の会全国研究集会《群馬大会》」の準備にも奮闘中。
著書には、昨年3月発売ながら既に3版と大好評の編著『全時間の板書で見せる『私たちの道徳』小学校5・6年』(学事出版)やTHE教師力シリーズ『THE教室環境』『THE特別支援教育〜通常学級編』『THE学級開きネタ集』(明治図書)など共著多数。