愛される学校づくり研究会

【第1回】〜春日井市立丸田小学校〜
自然体のIT活用 ひとのふれあいが学校を育てる

丸田小学校は開校2年目の新しい学校。ITの環境は市内でもトップクラスです。子どもたちとのふれあいを最優先に考える同校では、ITを学校生活を支える「道具」として使っています。あたたかい雰囲気の中で展開される「自然体」のIT活用をご紹介しましょう。
 

1.ふれあいの時間をつくる
〜連絡掲示板で変わる学校の朝〜

◆朝の打合せがない職員室

丸田小学校には、朝の職員打合せがありません。校内ネットワークの連絡掲示板を確認した先生は、始業のチャイムが鳴るとすぐ教室に向かいます。
 「おはようございまーす」職員室の席についた先生は、まず校内ネットワークの連絡掲示板を開きます。「じっくり見るのは自分に関係がある連絡だけなので時間はかかりません(西浦先生)」。掲示板チェックは、朝の習慣としてすっかり定着しているようです。

 しかし、すべての連絡が掲示板で終わるわけではありません。欠席連絡の電話を担任に伝えたり、となりの先生と授業進度を確認したり、プリントを手に話しこんだり…。掲示板チェックを終えた先生は、文字では伝わらない情報交換に忙しそうです。


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◆朝学習にゆとりとふれあいを

始業のチャイムの後、担任の先生はすぐに職員室を出ます。教室では15分間の朝学習に取り組む子どもたちを最初から見守ります。

 3年2組の朝学習は、2週間後の漢字コンクールをめざした漢字プリントです。
「ちっちゃい子なので、できるだけ近くにいてやりたい」―担任の西浦先生は、子どもたちの間をゆっくり歩き、時折かがんで声をかけていきます。
 その後は、答合わせを終えた子ども一人ひとりと、正しくできたかどうかを、確かめていきます。きちんと取り組めるこのような朝学習であれば、読み書きや計算の力を無理なく伸ばしていけそうです。 連絡掲示板は、職員打合せの見直しを通して、先生と子どもたちがふれあう「時間をつくり出す道具」として使われています。
 


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2.一人ひとりにやさしい学校
〜共有データを使いこなす〜

丸田小学校のIT活用のもう1つの柱は、ネットワークで共有された子どもたちの名簿データです。学年・組・名前のデータは、出席簿や学習記録のためだけでなく、子どもたち一人ひとりに向けた「名前入り」の文書やカードづくりに幅広く使われています。

◆「一人ひとりを見守る姿勢」を見える形に

例えば、入学式の日では、名簿データを活用して作った「ひらがなのクラス名簿」が掲示され、通学団ごとに集合するための「名前入りの通学団カード」が配られました。
 また、大雨や台風で子どもたちを早めに帰宅させる時には、保護者アンケートと名簿データから作成した「待機児童名簿」を使い、学校に残した子どもたち一人ひとりについて、時間帯ごとに判断しながら下校させる体制ができています。
「危機管理は安心のために行うもの。あたりまえのことが、きっちりできることが大切。(名簿担当の松平先生)」集中管理した名簿データは、一人ひとりをきちんと見守る学校の姿勢を「見える形」にすることを通じて、保護者との信頼関係づくりにもつながっています。
 

3.進んだ事例よりも広がる事例に
〜学校が育つしくみへ〜

丸田小学校で広がるIT活用。次のテーマは「学習の場面でどのように活用できるか」です。ここでも自然体のスタイルは変わりません。

◆学習場面での活用を

総合的な学習の時間では今年度から「学年たて割り班活動」が始まります。名簿データには、新たに子どもたちの「たてわり班」が追加され、活用される場面を待っています。また、学習での活用では、全校で共有する「授業で使えるリンク集」づくりが始まっています。

◆学習指導のために事務部門を強化

また、H15年度から1名増員されパワーアップした事務部門は「学習指導のための事務部門強化」をテーマに、学級担任が抱える事務的な業務や学習へのIT活用をサポートする基盤づくりに取り組みます。

◆「関わる」人から「できる」人がふえていく

どれも1年目にやりとげた成果があってこそできる「積み上げ」の取り組みです。去年ネットワークに「関わった人」が今年は「できる人」となって、広がる仕事を支えます。
 「今年はチェック役に回ります」と語る松平先生は、ネットワークが広がるほど、全体を見渡す仕事の大切さを実感しています。仕事の広がりと共に、学校全体で仕事を進める「しくみ」も育っているようです。

「ハードに頼った活用は他校ではできないので、どこでもできる=他校に広がるモデル事例を作りたい」自然体であたたかいIT活用を支えているのは、木股校長の強い思いです。将来、丸田小学校から地域に広がっていくのは、一つひとつの事例だけでなく、全体としての仕事のやり方なのかもしれません。

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▲木股哲夫校長

※取材を終えて
 保護者や地域が学校に期待しているのは、特色を競い合うことだけではなく、こうした「学校としての基礎基本」への取り組みを学びあうことではないか、と強く感じた学校訪問でした。快くお話をお聞かせいただいた教職員の皆様、本当にありがとうございました。
 

ドキュメント丸田小−1 職員室の朝

7:50 職員室では数名の先生がパソコンを開いていました。教頭先生の背後の黒板には「現職研修15:00〜」など最小限の連絡が。詳しい内容は連絡掲示板で確認します。 doc1_1.jpg
8:00 先生は6名に。席についたら、まずパソコンを開け、連絡掲示板を確認しています。本日の連絡事項板は、2時間目の授業研究と現職研修、コンピュータアドバイザーの来校、そして学校視察が1件。 doc1_2.jpg
8:10 事務スペースに「エデュコムマネージャの掲示板を立ち上げたままにしておいてください」と書かれたデスクトップが1台ありました。パソコンを閉じた後でも、すぐ確認でき、時間がないときには重宝しているそうです。 doc1_3.jpg
8:25 連絡掲示板を確認する先生の姿があちらこちらに見られます。 doc1_4.jpg
8:30 始業のチャイム。 doc1_5.jpg

※もう一つの連絡掲示板「スクールネット」
 校内にはもう一つ「スクールネット」という連絡掲示板があります。行事予定などのほかに、部活動の連絡事項なども載っていて、子どもたちが毎朝、教室のパソコンからチェックしているそうです(残念ながら現場に立ち会えませんでしたが)。そういえば職員室の外にあるはずの連絡黒板がありませんでした。

 毎朝の連絡事項はパソコンの連絡掲示板でみる。これをきちんとやりきることで、先生にとっても、子どもたちにとっても、学校の朝の風景が変わりそうです。

ドキュメント丸田小−2 3年2組の朝

8:31 まず15分間の朝学習。今日は漢字プリント。「できた人はワークで、あってるかどうか確かめてください」担任の西浦先生は子どもたちの列の中をゆっくり歩きながら、何人かの子どもに声をかけています。 doc1_6.jpg
    ▲漢字プリント学習中
  「確かめが終わったら先生のところへいいに来てください」。ワークを見て○つけをした子どもたちが教卓の前へ。先生はプリントを確かめながら「○○が違う」「かんぺきです」と、一人ひとりに声をかけていました。 doc1_7.jpg
    ▲漢字プリント確認中
8:45 チャイムが鳴って、漢字プリントを後ろから集めたら、朝の会です。司会は子どもたち。昨日、学校が終わってからの生活について発表します。 doc1_8.jpg
    ▲朝の会をはじめます
8:55 先生からのお話。出張で不在だった昨日の様子について子どもたちに尋ね、今日の2時間目の自習時間について指示して終了。1時間めは体育のため校庭へ。 doc1_9.jpg
    ▲さあ、体育の時間だ!

朝の打ち合わせがないので、確実に教室に行ける。朝学習の時間に最初から立ち会えるので、一人ひとりのプリントを確認できる。「ちっちゃい子なので、できるだけ近くにいてやりたいです(西浦先生)」。打ち合わせ廃止で生まれた時間は、子どもたちとのふれあいにつながっているようです。

(2003年7月7日)

後藤真一さんcolumn3_title.gif

●後藤 真一
(ごとう・しんいち)

教育コンサルタント。教材出版社で中学校向け教材作りに16年間たずさわった後、独立。学校と地域や専門家をつなぐ「学校の裏方」をめざす。現在は、学校現場を歩き、自分を磨く修行の日々を送っている。岡山県在住。