愛される学校づくり研究会

地域とともにある学校づくり

★このコラムは、愛知県一宮市の公立小中学校長を歴任された平林哲也先生によるものです。平林先生は「発信なければ受信なし」の理念のもと、校長としての思いを学校ホームページに毎日発信していらっしゃいました。アクセス数が増えるのに伴って強くなる保護者や地域との絆。さまざまな実践を工夫されてきた平林先生に、学校と家庭・地域との結びつきはどうあるべきかについて語っていただきます。

【 第6回 】地域の人材活用を意識した学校づくり

地域は人材の宝庫

前回は、コミュニティ・スクールとしての学校経営のあり方についてふれました。
 コミュニティ・スクール指定の有無にかかわらず、学校と地域との連携を深めるためには、児童生徒が地域へ出ていく活動と地域の人々を学校に招き入れる活動の両面が必要となります。今回は、地域の人々をいかに学校に招き入れ、学校経営に活かしていくか、これまでに実践してきたいくつかの方法について述べます。
 どのような学校であっても、保護者や地域の人々の中には、学校の求めに応じて児童生徒と関わっていただける人が多く存在します。学校が積極的に求めていけば、それに応えていただける方は学校が思っている以上にたくさんみえます。年齢や職業は違えども、それぞれに貴重な人生経験を積んでこられた方ばかりで、いわば「地域は人材の宝庫」でもあるのです。それを活かさない手はありません。

地域の方との「おしゃべり広場」

私が在職した一宮市立木曽川中学校では、毎年、地域の方と生徒が直接対話する「木中おしゃべり広場」を開催しています。これは、学校運営協議会委員、地域コミュニティ役員、民生児童委員、PTA役員・委員、おやじの会などの方々40名が、3年生1学級の生徒と1対1で対話するものです。1回の対話の持ち時間は8分間程度。生徒はローテーションでおしゃべり相手を変えながら移動し、これを6回繰り返します。

地域の方との「おしゃべり広場」

生徒たちは自分の家族以外の地域の大人と対話する機会をそれほど持っているわけではありませんので、初回は緊張した表情を見せます。しかし、参加者の上手なリードもあって、現在頑張っていることや学校生活の様子、将来の夢や希望など、時間経過とともにどんどん話し込んでいきます。持ち時間の8分はあっという間に過ぎてしまいます。
 始まる前には、大人たちからは「最近の中学生は、何を考えているのかよく分からない」という声も聞かれましたが、話し込んでいくうちに、「中3ともなると、しっかりした考えを持っている」という感想に変っていきます。時には、人生の先輩として、家族の気持ちを代弁していただくような話も飛び出します。
 また、「何を話してよいのか分からない」と言っていた生徒たちも、「自分の話を真剣に聞いていただいた」「自分の頑張りを認めてもらえた」「進路についてアドバイスをいただいた」「見かけたことのある近所の方が、こんなに気さくな人とは知らなかった」などの感想を漏らすようになります。また、自分の考えをアウトプットする機会を得ることによって、より確かな考えに変えていくことができます。
 この「おしゃべり広場」は、生徒にとっては教室や家庭ではできない貴重な体験となりますし、地域の方にとっても今どきの中学生の考え方の一端を知る手掛かりとなります。ぶっつけ本番のおしゃべりですが、コミュニケーション効果は抜群なのです。是非お試しあれ。

地域の方による「キャリア教育」

一宮市立木曽川中学校では、「木中おやじの会」の会員による「キャリア教育」の授業が行われています。その道のプロを講師にお招きし、進路選択の参考になるお話をしていただく機会を設けている中学校は多数ありますが、「おやじの会」会員が卒業生として、保護者や保護者OBとして、地域人として生徒に語る中学校は少ないと思います。

地域の方による「キャリア教育」

さまざまな職業に就いている会員が、進路を意識し始める2年生を対象に、自身の職業について語ります。多くの会員は、話の導入として、自身が木曽川中学校の生徒であったころの話をされます。時代は異なっても、同じ学校で過ごした方の話というのは、否応なく生徒の興味が高まります。
 コミュニケーションができたところで、中学生当時、自分がなりたかった職業の話をされますが、多くの方が実際に就いた職業は異なります。最終的になぜその職業を選択したのか、多くは青少年期での人との出会い、ものとの出合いがもとになっているものです。多感な中学生時代にどんな人と出会うのか、どんなものと出合うのか、それがその後に与える影響が大きいことを生徒たちは話を聞きながら感じていきます。実際に近隣事業所や商店などの協力で行う「職場体験学習」と並んで、おやじの会による授業も「キャリア教育」の重要な部分を占めています。
 また、校区内で自営をしている会員も多く、この授業が終わった後も、生徒と会員の関係は続きます。地域の人であるからこそ、再び出会った時にはあいさつもするし、授業の続きとして進路相談にも乗ってくれます。私は、そこに地域の人材活用の大きな意義を感じるのです。

人材は活用してこそ宝

校長は、こまめに地域に顔を出し、さまざまなチャンネルで地域の方々とコンタクトをとることが重要です。「木中おしゃべり広場」や「おやじの会キャリア教育」の発想は、そういった機会の何気ない会話の中から生まれたものです。
 地域の人材を学校教育にどう活かすか、その場を創出するのも学校経営マネジメントの一つと考えたいものです。地域は人材の宝庫、しかし、宝の持ち腐れにしないセンスを。

(2015年9月14日)

平林先生

●平林 哲也
(ひらばやし・てつや)

1977年一宮市にて小学校教諭となる。小学校教諭・教頭・校長18年、中学校教諭・校長20年を経験し、2015年3月定年退職。校長在任中は、「発信なければ受信なし」をモットーに、学校ホームページを通して児童生徒の様子、学校や校長としての思い・考えを、趣味の写真とともに365日掲載。現在、一宮市教育センター・副センター長として各種の教員研修をコーディネートしている。