愛される学校づくり研究会

地域とともにある学校づくり

★このコラムは、愛知県一宮市の公立小中学校長を歴任された平林哲也先生によるものです。平林先生は「発信なければ受信なし」の理念のもと、校長としての思いを学校ホームページに毎日発信していらっしゃいました。アクセス数が増えるのに伴って強くなる保護者や地域との絆。さまざまな実践を工夫されてきた平林先生に、学校と家庭・地域との結びつきはどうあるべきかについて語っていただきます。

【 第5回 】コミュニティ・スクールとしての学校づくり

コミュニティ・スクールとは?

コミュニティ・スクールとは、法律(※「地方教育行政の組織及び運営に関する法律」)に基づいて「学校運営協議会」と呼ばれる学校、地域、保護者の代表者から成る組織が置かれた学校を指します。「学校運営協議会」は、定期的に会合を開き、学校の教育目標、予算活用などあらゆることがらについて話し合います。協議会の委員は、学校経営に関わる事項に「意見」を述べ、さらには「承認」をする権限を持つという点で、「学校運営協議会」は意思決定機関としての機能を有します。
  国は第2期教育振興基本計画(平成25年6月14日閣議決定)において、コミュニティ・スクールを全公立小中学校の1割(約3,000校)に拡大するとの推進目標を掲げています。平成27年4月1日現在、全国で2,389校が指定されていますが、まだまだ全国に広がっているとは言えません。なお、愛知県では、わずかに一宮市立全小中学校61校、北名古屋市立小学校10校のみの指定となっており、全県的に浸透しているわけではないのが現状です。

学校運営協議会

私が勤めた一宮市立木曽川中学校は、私の在職中にコミュニティ・スクールとして指定されましたが、それまでの「学校評議員制度」を発展解消し、新たな「学校運営協議会」委員を地域代表7名に学校代表5名(校長・教頭・事務長・教務主任・校務主任)を加えた12名で構成しました。
 地域代表委員の構成は、地域ネットワークの代表者を学校運営協議会長とし、校区の町内会長代表者、民生児童委員の代表者、校区内の幼稚園長、PTA会長、保護者代表、保護者OBとしました。年間6回ほど会合を持ち、学校の教育目標や校長の学校経営方針の承認、それぞれの立場で学校に対する提言や学校評価をしていただきました。
 日頃から学校ホームページを使って情報発信に努めたお陰で、委員の方々には学校がどんな方向に向かって歩もうとしているのか、そして歩んでいるのかをよく理解していただいており、どの方も「おらが街の学校」をよりよくしたいという熱意にあふれ、毎回、非常に建設的な話し合いが行われました。もちろん、理に適った学校への辛口のご意見やお叱りもたくさんいただきました。
 「学校運営協議会」の内容は、全職員に伝えるとともに、個人情報を除いてその都度学校ホームページに掲載し、外部への透明性も確保しました(※一宮市内全小中学校が同様にホームページ掲載をしています)。時には、委員から伺った話をもとに、学校集会で生徒たちに地域の願いや期待を伝えることもありました。

コミュニティ・スクールとしての学校

前回のコラムでは、学校支援ボランティアの重要性について取り上げました。それは、学校経営上、保護者や地域との連携は不可欠であると同時に、「おらが街の学校」を作り上げるためには極めて重要な要素となるからです。
  「学校運営協議会」の有無にかかわらず、「コミュニティ・スクールは、公立学校の必然的な姿」(※『校長の実践経営術25の鉄則』貝ノ瀬滋著・学事出版刊より)です。コミュニティ・スクールの指定を受けなくとも、価値観の異なる人々の流入の少ない地域には、もともとコミュニティ・スクールの体をなしている学校はいくらでもあります。

私がかつて在職した一宮市立黒田小学校は、1873(明治6)年開校の歴史ある学校です。もともと「おらが街の学校」としての色彩が強く、指定を受ける以前から学校と地域とのつながりが強く、日頃から地域の意見や要望を学校経営に採り入れるコミュニティ・スクールとしての性格を持っていました。
 前任校長が発足させた「黒田小サロン」は、月に一度、地域の高齢者に学校を開放し、さまざまな取り組みを通して児童との触れ合いを進めるものです。サロン会員の大半は黒田小の卒業生であり、母校や地域への愛着の強い方ばかりです。
  孫や曾孫世代にあたる小学生との語らいは、高齢者の方にとっては潤いの時間となるとともに、核家族で生活している児童にとっては、地域の高齢者、しかも母校の大先輩である方々と直接触れ合う貴重な体験となります。

黒田小サロン1

黒田小サロン2

校長としても、地域の方々の願いや思いを直接聞くことができ、学校経営を進める上での参考になります。このような取り組みは、まさに先見性のある学校経営マネジメントであり、コミュニティ・スクールの一つの方向性を示していると思います。

校長の経営姿勢が問われるコミュニティ・スクール

やがてはその地域の担い手となる人材を育成するのが小中学校の使命の一つです。校長自身がその地域を知らずして人材育成の基礎を築くとはできません。校長はその地域の歴史、風土をよく理解し、その上で学校経営を進める責任を負っているのです。
 私は幸運にも、現に自分が暮らしている地域の小中学校、しかも母校である小中学校の校長を務める経験をしました。校長であると同時に、卒業生の一人、かつての保護者の一人、地域人の一人として学校をとらえ、それぞれの立場で自身の学校経営を見つめる日々を過ごしました。
 そこで見えてくるのは、校長としての説明責任です。校長は、学校経営の方向性や日々の教育活動の価値づけ、児童生徒の活動評価など、地域への説明責任を負っています。さまざま地域行事や会合に顔を出し、さまざまな立場の人と意見交換をするのは当然です。しかし、日々の様子を積極的に情報発信しなければ、一つの出来事や単なる風評だけで学校を評価されてしまうものです。
  コミュニティ・スクールとしての学校は、情報発信の機会の確保、そしてその内容と質が重要であると思います。その点、私は学校ホームページの積極的活用が学校経営の大きな支えとなることを学びました。

(2015年8月17日)

平林先生

●平林 哲也
(ひらばやし・てつや)

1977年一宮市にて小学校教諭となる。小学校教諭・教頭・校長18年、中学校教諭・校長20年を経験し、2015年3月定年退職。校長在任中は、「発信なければ受信なし」をモットーに、学校ホームページを通して児童生徒の様子、学校や校長としての思い・考えを、趣味の写真とともに365日掲載。現在、一宮市教育センター・副センター長として各種の教員研修をコーディネートしている。