愛される学校づくり研究会

授業改善

★愛される学校づくり研究会では、昨年度までの授業研究に引き続き、より広い視点で授業改善についてこの1年間研究していくことになりました。「楽しく授業研究をしよう」と同じく、研究会と連携しながら学校の授業改善を日常的に行う方法について考えていきます。今回は「楽しく」だけでなく、いかに「手軽に」行うかという点でも提案できることを目指します。授業改善を通じて、学校経営や学校の活性化についても触れていくことができればと思っています。

【第6回】大きく進化した「授業検討ツール」

改良された「授業検討ツール」を使って、授業検討を行いました。以前のバージョンはサーバーを用意する必要があったために準備にかなりの時間がかかりました。当然普通の先生では、簡単に設定等はできません。しかし、今回のものは、iPadやiPod touchだけで構成されていて、カメラやサーバーは必要ありません。ルーターなどを使ってネットワークを構築することも必要なく、iPadやiPod touchのカメラとWi-FiやBluetoothの機能だけで利用可能です。そのおかげで、準備とテストの時間は約10分で済みました。私たちの目指す「手軽に」が実現できました。
 iPad1台をメインカメラとして、iPod touch1台をサブカメラとして利用し、参観者用の端末にはiPod touchを使いました。これまでの反省からボタンの設定も変更しました。「心が動いた」という曖昧な基準で生徒や教師、黒板と分けるのではなく、「いいね!」「疑問?」「生徒」の3つに絞ってみました。

今回の模擬授業は友情をテーマにした道徳です。システムの関係で全員が端末を持つことができませんでしたが、授業検討は全員で行いました。授業終了後すぐに検討に入りました。ここでもムダな時間はありません。iPadの画面をプロジェクターに映します。どの時点でどのボタンが押されたかが、グラフ化されます。数字だけが並んでいる以前のものと違って変化がよく見えます。明らかなピークとプラトー(一定の高さが続くところ)がありました。それぞれ、「いいね?」だけでなく「疑問?」もあります。ここが話題とすべきところだろうとすぐに判断できました。まず、ピークのあるところから検討に入ります。iPadの画面をタッチするとその場面がすぐに再生されます。ストレスは全くありませんでした。

この場面は、授業者が全員を起立させて、3人の登場人物のうち自分の考えが誰に近いか、理由も含めて考えさせた場面でした。ここで、一人だけ誰に近いか決めることができない子ども役がいました。授業者は話をじっくり聞いて、それ以外という選択肢をつくりました。まさにこの場面が浮かび上がったのです。今回のシステムは、再生時に自分がボタンを押した場面で同じボタンが光ります。どこで押したのかがわかるので、その時のことを思い出しやすくなり、司会も指名しやすくなります。この新しい機能も有効に活用できました。ボタンを押した人を指名するとすぐに考えを言ってくれます。「考えを決められないことを受容した、子どもに寄り添ったよい対応」という意見と、「いや、ここは客観的な根拠がないのだから、時間をかけずに無理やりにでも決めさせるべき」の2つに分かれました。素早く論点にたどり着けました。ここで、端末を持っていない方にも考えを聞いてみました。「子ども役の考えを決められなかった理由は、どのようにするのが正しい行動か判断するための材料が足りないからというものだった。友だちとしてどうすべきかという心情面ではなく、何が正しいのかという規範意識に問題がすり替わった」という意見が出てきました。場面が絞れたことで、考えをつなぎやすくなり、話し合いが深まっていきました。

もう一つ取り上げたところは、子どもたちに選んだ理由を述べさせてから、「みんなの意見に共通なことは何か」と質問した場面でした。子ども役からはなかなか答えが出ません。授業者はじっと待ちます。やっと一人が発言してくれました。授業者はこの答にすぐに飛びつかずに、もうしばらく待ちます。今度はまた違った答えが出てきました。授業者はちょっと扱いに困りましたが、何とか子どもの発言をまとめました。子どもたちがなかなか発言できない状況が、話し合いのまな板に載せられました。
  ここは、この状況が予測されていたものか授業者に確認すべきだと考えました。たずねたころ、授業者はすぐに意見は出ないと考えていたようです。そうであれば、質問をした後「考えてくれる?」といった言葉をかけ、時間を明確に与えるべきだったという意見が出ました。そもそも、子ども役は質問を理解して考えていたのだろうかという疑問も出てきました。今回は模擬授業なので子ども役に確認することができます。「何を答えていいかわからなかった」「選んだ人物に自分が入り込んで考えていたので、いきなり共通と言われても困ってしまった」といった答がかえってきました。子ども役にとってはこの発問はそれまでの活動とつながらないものだったのです。ここでも密度の高い話し合いができました。

話題になった場面以外にも、資料の内容把握を素早くしたり、子どもの発言に対して「ありがとう」と受容したりと取り上げる価値のある場面がたくさんありました。だからこそ、この授業で話題にすべき場面が、グラフが特徴的で、かつ「いいね!」だけではなく「疑問?」も混在していたところとして現れていたと思います。上手く視覚化できたことで、話し合うべき場面をすぐに取り出すことができ、短時間で密度の濃い検討を行うことができました。このシステムの可能性の手ごたえが得られました。
  今回は「いいね!」と「疑問?」の混在、グラフのピーク、プラトーといったところから、話し合うべき場面を抽出しましたが、今後このシステムをだれでも活用できるようにするためには、このボタンの設定と押された結果をどのように関連付けて場面を選ぶかの指針をつくって行く必要があると思います。そういう視点で見ると、「生徒」ボタンの位置づけがまだ定まっていないと感じました。また、検討を進めていく中で、授業者か、ボタンを押した人か、それともボタンを押さなかった人か、誰に聞くべきかといった判断が重要だとも感じました。これは授業技術と非常に近いものです。司会者の力量と言ってしまえばそれまでですが、システム的に判断を助ける方法も考えたいと思います。グラフの特徴から誰に問いかけるべきかの判断ができるような基準が見つかれば、授業検討の質を担保できるからです。

システムが大きく進化したおかげで、いよいよ授業検討の本質的な面について研究するフェーズに入りました。今後は、実際の授業で活用することで、話し合うべき場面をどのようにして抽出できるか、どのように進めていくと話し合いが深まるかについて研究していきたいと思います。

次回は、模擬授業ではなく実際の授業で「授業検討ツール」を活用した実践報告をしたいと思います。

(2014年9月29日)

大西貞憲

●大西 貞憲
(おおにし・さだのり)

愛知県で公立中学・高校教諭を経て、民間企業で学校向けソフト開発に携わる。2000年教育コンサルタントとして独立。現場に出掛けての学校経営や授業へのアドバイスには「明日からの元気が出る」との定評があり、愛知県を中心として、全国の小中学校や自治体から応援を求められている。また、NPO法人「元気な学校を支援し創る会」理事として「教師力アップセミナー」「愛される学校づくりフォーラム」を通して実践に役立つ情報の共有化・見える化に注力している。