愛される学校づくり研究会

授業改善

★愛される学校づくり研究会では、昨年度までの授業研究に引き続き、より広い視点で授業改善についてこの1年間研究していくことになりました。「楽しく授業研究をしよう」と同じく、研究会と連携しながら学校の授業改善を日常的に行う方法について考えていきます。今回は「楽しく」だけでなく、いかに「手軽に」行うかという点でも提案できることを目指します。授業改善を通じて、学校経営や学校の活性化についても触れていくことができればと思っています。

【第5回】授業(子ども)を見る視点を育てよう

授業改善に授業研究が果たす役割は大きいですが、毎日の授業から課題を見つけそれを改善していくことができれば、より確実に力がついていきます。ここで問題は自分の授業からどのようにして課題を見つけていくかです。目指す子どもの姿がはっきりしていれば、その姿と実際の子どもの姿とのずれが課題として見えてきます。しかし、この目指す姿が具体的でなく漫然と子どもたちを見ていると、目の前に課題や改善のヒントがあってもそれに気づくことができません。どこを見るかという視点を意識する必要があります。

例えば、子どもに発表させている場面では、発言者だけを見ている若い先生が多いのですが、発言していない他の子どもたちを見ることもとても大切です。友だちの方を向いて話をしっかり聞いていればいいですが、自分には関係ないとぼんやりしている子どもが多いようでは改善の余地があります。発言者ではなく授業者を見ているようであれば、その理由がきっとあります。そこに改善のヒントがあるはずです。

授業を見る視点を「子どもたち全員をよく見る」と言ってしまえばそれまでですが、実際には具体的な場面ごとにどこを見るかが明確になっていなければ、必要な情報を得ることができません。授業を見る視点を育てることが必要になるのです。

育てると言っても、授業中にここを見なさいと外部から指摘するわけにはいきません。「子どもの発言中には発言者以外も見るようにしましょう」と事前に伝えても、そればかりを意識して授業をしているわけにはいきません。発言を聞いて次の展開を考えることも必要です。経験の少ない若い先生ではいっぱいいっぱいでなかなかそんな余裕はありません。授業後に「子どもがこんな行動をしていたね。理由は何だと思う」と質問しても、子どもの行動に気づけていないことがよくあります。では、経験の豊富な方はなぜそこを見ることができるのでしょうか。理由の一つに、友だちの発言中に子どもたちが具体的にどのような行動をとるかそのパターンを知っていることがあります。こういう行動があるかもしれないと予測することで、素早く気づけるのです。「こういう姿を見たい」「こういう姿があるかもしれない」と意識していないとなかなか見えないのです。

では、具体的にどのようにすれば授業を見る視点が育つのでしょうか。子どもたちが授業中にどのような行動をとるのか、客観的に見る経験が必要になります。自分の授業を見る力をつけるためには、まず他の先生の授業で子どもたちを見る経験を積むのです。この時、あらかじめ視点を持って見ることで、今まで気づかなかったことに気づけるようになります。

  • 「特定の子ども、グループを1時間継続して見る」ことで、子どもたちが授業中のいろいろな場面でどのような行動をとるかを知ることができます。
  • 「発言中の他の子どもの動き、課題に取り組んでいる時の学力の高い子どもの動きというように場面ごとにポイントを決めて見る」ことで、ある場面での子どもたちの動きにどのようなものがあるかを知ることができます。
  • 「集中力を失くしている子どもがどこで集中力を取り戻すか、逆に子どもたちの集中力がどこで切れるかといった特定の観点で子どもの変化を見る」ことで、子どもたちの行動に影響を与える要因を知ることができます。

授業研究の場を活用するのであれば、事前にこのような視点を与えておくことになります。全体で視点を決めて授業を見た上で互いに見た事実を報告し合うことで、自分一人では気づけなかったことに気づけます。また、若い先生を育てるのであれば、教務主任などの指導的立場の者が授業を見ながら解説や質問をすることも有効です。授業研究の場にこだわらず、空き時間に一緒に授業を見に行ってもいいでしょう。子どもたちを中心に見るのであれば、授業のじゃまにならないように廊下から教師を覗くことで十分です。リアルタイムで「あの子どもを見てごらん」と見るべきポイントを指摘したり、「次にこの子ども(たち)はどのような動きをすると思う?」と予測させたりするのです。いずれにしても、一人で授業を見るのではなく、自分以外の目と比較できるようにすることが大切です。同じものを見ても自分に見えていないものがあることに気づくことで、授業を見る視点が育っていくのです。こういう経験を積むことで、子どものいろいろな動きを予測できるようになり、今まで自分の授業で気づけなかったことに気づけるようになっていきます。気にならなかった子どもの動きに注意するようになるのです。

ただ「子どもをよく見なさい」では授業を見る視点は育ちません。意図的に授業を見る視点を共有することで、授業を見る力が育ち、授業を改善する力がついていきます。学校内で授業を見る視点を意識して、共有することが先生方の日々の授業改善につながっていくのです。

次回は、手軽に使えるように改良した「授業検討ツール」の実践報告をしたいと思います。

(2014年8月18日)

大西貞憲

●大西 貞憲
(おおにし・さだのり)

愛知県で公立中学・高校教諭を経て、民間企業で学校向けソフト開発に携わる。2000年教育コンサルタントとして独立。現場に出掛けての学校経営や授業へのアドバイスには「明日からの元気が出る」との定評があり、愛知県を中心として、全国の小中学校や自治体から応援を求められている。また、NPO法人「元気な学校を支援し創る会」理事として「教師力アップセミナー」「愛される学校づくりフォーラム」を通して実践に役立つ情報の共有化・見える化に注力している。