愛される学校づくり研究会

★人間には誰にも知的好奇心があります。仕事のため、趣味のため、実益のためなど、様々な目的で我々は学びます。学校のころから勉強が好きだった人も、社会人になってから学ぶ楽しさを感じた人もあるでしょう。ここでは、その楽しさを感じることになったきっかけを振り返り、学ぶことの楽しさを教えてくれた人やことについて紹介します。

【 第16回 】経験から学ぶことの大切さ
〜株式会社EDUCOM 小林泰平〜

私にとっての学びは、昔から座学で得られるものよりも実践から得られる知識や経験が大きな部分を占めてきたように思います。まず自分で実践し、成功・失敗体験を積み重ねて初めて身につくものがある、それはかけがえのない自分の成長の糧となるということを一人の先生との出会いで教えていただきました。
 そのような私なりの捉えで、学ぶことの楽しさを教えてくれた人、経験についてお話しさせていただきます。

私が小学3年のころの話ですが、当時の担任であったI先生が自分と数人のクラスメートを、数回、渓流釣りにつれて行ってくれたことがあります。なだらかな川辺で釣りをするのでなく、岩がごろごろと転がっているような山奥の渓流です。初めてつれて行ってもらった時のことです。現地につくと、車を道路沿いに止め、川まで道の無い岩場を皆で手を取り、下ってゆきます。数メートル下ると、そこには川底までが見通せるほど透明感の高い水が流れており、それまで本格的な渓流という場に行ったことのなかった私は、それだけでもかなり興奮した記憶があります。
 少し広いスペースを確保できる場所にベースキャンプを作り、釣りの仕掛けの作り方や魚がいるポイント、魚がどのようにえさに食いつくのか、食いに合わせるタイミングなどを丁寧に教えてもらいました。

上流に上ってゆくと、流れが留まる小さな滝壺のような場所があり、そこでアマゴ、ヤマメを狙って竿を出します。水の流れに逆らわず、餌を上流から滝壺に落としては、5メートルくらい流す、その繰り返しを何度も何度も、その時、これはビギナーズラックですが、一匹の魚が私の仕掛けにぱくりと食いついてくれました。魚が食いついた時の感触は、竿を通して伝わり、ぶるぶるというとても鋭い反応が来るのですが、今でも釣りを続けている要因になっています。釣り上げてみると25センチには満たないアマゴでした。

この日の帰り道、興奮冷めやらない私は助手席に乗せてもらい、その日の出来事を繰り返し話をし、すべてが初めての経験であること、それまで経験したことのあった釣り堀とは全然違うということなどを子どもながらに語り、そのすべてをよくやったと褒めてもらったことをよく覚えています。それからも何度か渓流釣りにゆき、川ではBBQをしたり、魚のさばき方を通して、ナイフの使い方を教えてもらったり、火の起し方や飯盒でのお米の炊き方など、経験のないことをいろいろと教えて頂きました。

私が「やったことが無いからやらしてくれ」というとなんでもやってみろとチャレンジさせてくれることに、いつも期待し、興奮し、経験することの楽しさを貪欲に追いかけるようになっていたと思います。そういう私を常に自分の趣味は犠牲にして(担任はほとんど坊主でしたから、きっと自分が釣りをすることは避けていたのだと思います)見守ってくれていました。

そんなときですが、担任にも、親にもかなり叱られることをしました。 ある時、渓流釣りで使う自分の竿がとてもほしくなったことがあります。それまで玩具やプラモデルなどにしか興味を示したことが無かったのですが、初めて分野の違うもの、「釣りがうまくなりたい」そのために自分で道具をそろえたいという物への欲求が生まれた時だと思っています。

愛知県の瀬戸市にエースという釣具屋があったのですが、そこにはI先生と何度か行った記憶があり、駅からの道のりなどは何となく覚えていたのだと思います。ある日学校が終わり、ありったけのお金を握りしめた私は、だれにも言わず、自転車で駅に向かい、愛知環状鉄道線に乗り、その釣具屋に行きました。道中はうきうきです、自分が危ないことをしているなどとは何も考えていませんでした。

ココは、お笑い話なのですが、店について目当てのカーボンロッド4.5m(小学3,4年生には長すぎます)を手に取り、レジでお金を出したのですが、1円足りないのです。 必死に価格交渉しましたが、お父さんは?お母さんは?というだけで、まったく交渉に応じてくれませんでした。当たり前です。(もし交渉に店員が応じてくれたら、帰りの電車代もなく、さらに途方に暮れていたと思います。まあ、行く道中に交番の位置は確認していましたが)。この時にものを買うときにはちゃんと金額を調べておかなければ、ダメだということも刻まれました(余談です)。

このことは内緒で終わらせるつもりだったのですが、店で1時間近くも交渉した結果、家に帰る時間が夜遅くなってしまったことで、母にすべてを話すことになりました。「あんたは、あほか!」と一喝され、張りビンタ。しかし1時間の交渉の末に、1円を値引きしてくれなかった店員にはもっと怒っていました(笑)。その夜のうちに釣具屋に連れて行ってもらい、自分のほしいそれとは違いましたが、自分の竿を買ってもらうことができました。

このことは担任にも伝わっていました。担任からもしっかりゲンコツをもらい、怒られましたが、同時に自分(担任)が悪かったなぁという話も頂きました。そして、やはり、この時もそれまで以上に褒めてもらいました。どうやって瀬戸駅まで行き、店にたどり着いたのか、店員とどうやって交渉したのか、なぜカーボンロッドを買おうとしたのかというような話を教室で長い間、していたように思います。
 この時、私は怒られる、褒められる、欲しいものを得られるということを同時に経験し、とても複雑な気持ちになりましたが、I先生からは新しいことへのチャレンジに恐れを抱かず経験を積むこと、その見返りは大きいということについて語り、教えてもらいました。

その後も何度か釣りにはつれて行ってもらい、高学年になってからは、部活の顧問として、常に厳しく指導いただき、やはりたくさん褒めて頂き、粘り強さや最後までやり切ることなど自分の行動判断の考え方を形づくる学生生活を過ごさせて頂いたと思います。
 この時期の経験は、その後の学生生活や社会人になった今でも自分の中で様々な行動の重要な考え方の一つになり、動く勇気をもらう経験・教えであったと感じています。

これからも常に新しい学びにチャレンジし、自分の経験値から少し背伸びをした新境地への一歩を踏み出すことの楽しさを忘れずに歩んでいきたいと考えています。

(2015年9月28日)

学ぶ楽しさ

●小林 泰平
(こばやし・たいへい)

愛知県春日井市出身。1976年生まれ。学生時代にEDUWEL(現EDUCOM)にてアルバイトを経験。大学卒業後は中堅ゼネコンに就職し、住宅、マンション、店舗の施工監理に5年従事。 その後、EDUWEL(現EDUCOM)に正社員として入社し、知多、三河エリアにおいて、営業兼サポートを経験し10年前にEDUCOM関東進出の為、東京へ。
現在は、愛知に戻り次なる課題にチャレンジ中の3児の父。