愛される学校づくり研究会

★人間には誰にも知的好奇心があります。仕事のため、趣味のため、実益のためなど、様々な目的で我々は学びます。学校のころから勉強が好きだった人も、社会人になってから学ぶ楽しさを感じた人もあるでしょう。ここでは、その楽しさを感じることになったきっかけを振り返り、学ぶことの楽しさを教えてくれた人やことについて紹介します。

【 第1回 】本が教えてくれたこと −オコジョと私−
〜株式会社EDUCOM 佐藤智恵〜

「若くして学べば壮に成すあり 壮にして学べば老いて衰えず 老いて学べば死して朽ちず」
 幕末の儒学者、佐藤一斎先生のお言葉の一つです。簡単にいえば、「人生死ぬまで勉強!」という耳の痛いお言葉。死ぬまで勉強なんてしたくない…というのが大方の人が考えることなのではないかと私は思います。

当の私自身も、学ぶことって楽しい!勉強大好き!と笑顔で言えるほど、出来のいい子供ではなく、十分に育ち切った今でさえも堂々とは言えません。むしろ、勉強は嫌いで、新しいことを学ぶのは面倒くさいなぁというのが本音です。さらには、年齢を経るほど「学び」ということを遠ざけようとしている自分がいることに気が付かずにはいられません。

そのような私が「学ぶことの楽しさを教えてくれた人」について何を書けるのか?何が書けるのか?考えてみました。悩むかなぁと思いましたが、それが案外とあっさり思い当たることがあったのです。それは、本との出会いから始まります。

私は本を読むことが子供の頃から大好きで、学校の図書館には毎日通って本を読み漁っていたことを記憶しています。どうしてこんなに本が好きになったのか、それは母が小さい頃に読み聞かせをほぼ毎晩してくれたことが大きいと思います。ブロードウェイからスカウトが来るのではないかと思うほどの、熱のこもった語り口調と途中途中のオリジナルの歌をはさんだ楽しい時間を妹たちと過ごしていた私は、自然と本が好きになりました。小学校へ入学した後も、夜寝る前には必ず本を読んでいました。

小学校3年生になった時、読書感想文を書くという宿題が出ました。本を読んでその感想を書く、本を読むのが好きとはいえ、読んだ本に対して何を感じ何を思うのかを深く考えたことがなかった幼い私は、いざ感想文を書こうとしたときに、何をどう書いていいのかとても迷いました。ましてや、課題に出された本は自分では進んで手に取らないであろう「オコジョのすむ谷」という北の寒い地方に住むオコジョという哺乳類の生態を書いた本でした。

行ったこともない所に住む、写真はかわいいけれど見たことも聞いたこともない生き物についての本を読むなんて、なんとつまらないのだろうと、人生初の絶望的な気分を味わいました。でも、宿題を出さないと先生とお母さんに怒られる…という恐怖心もあり、絶望と恐怖のはざまで悶々としながら、オコジョを心の中でひねりつぶすことでストレスを発散しつつ感想文を何とか書き上げました。そうして書いたその感想文は、自分では見たくありませんでした。罪なきオコジョへの八つ当たりのような感想です。

しかし、その感想文が自分の予想をはるかに超え、東京都の小学生読書感想文コンクールに入賞してしまい、全校生徒の前で表彰されるという快挙を果たしたのです。そんなコンクールがあるなどと知らずにいた私は、その知らせを担任の先生から聞いたとき、驚きと恥ずかしさに包まれたのを今でも覚えています。あ…あんな感想文が大勢の人に読まれるなんて…

当時の担任の先生は言いました。「佐藤さんの書いた感想文は、とても素直に自分の気持ちを表現していました。見たことはないオコジョだけれど、この本を読むことでオコジョという生き物がいるということを知るきっかけになって、良かったですね。」

それまでの私は、ただ読むのが楽しい、本の中に広がる世界が面白いという気持ちだけで本を読んでいました。しかし、この先生の一言で気が付きました。本を読むということは、ただ楽しいだけではなくて、自分の知らないことを知ることができるのだ、と。遠い国のお姫様に憧れながら読んだ本、豚が空から降ってきたら面白いだろうなぁと想像しながら読んだ本、読むだけで想像の世界が広がるのが楽しいと感じていただけの本の世界が、自分の知らないことを知ることのできる「知識」を得るための物になるのだということを知りました。

オコジョとの出会いが、私の本に対する見方を変え、その後の人生においても本を読むことの意識を変えることになりました。その後の私は、変わらず学校の図書館へ通い、興味のある本を片っ端から読んでいきました。それまではあまり手に取ったことのない歴史小説、推理小説、自伝も読みました。本から得られる知識は無限で、とても楽しく、自分の世界を広げてくれました。

本の楽しさをひいては、本から色々なことを学ぶことの楽しさを教えてくれた人、それはまさに、当時の担任の先生、私を本好きに育ててくれた母親、そしてなんといってもオコジョであると言えるでしょう。あいにく、あれからかなりの年月が経っていますが、未だにオコジョには対面したことはありません。

(2014年4月28日)

学ぶ楽しさ

●佐藤 智恵
(さとう・ともえ)

杜の都仙台市出身の父と東京の下町出身の母との間に、三人姉妹の長女として生まれる。マイペースな母親の元、周りの人全員が口をそろえて「変わっている」と言うほどの変わり者タイプとして成長する。
 渋谷の超有名ファッションビルでアパレル販売員としてきらびやかに数年務めた後、IT業界へ転職する。その後はITの世界で奮闘し続け、縁あって株式会社EDUCOMに入社する。入社後は、新幹線で通り過ぎたことだけという縁もゆかりもなかった愛知県へ単身乗り込み、現在は名古屋市近郊の市町村の担当者として日々奮闘中。先生と新発売のお菓子の話で盛り上がるのが好き。