愛される学校づくり研究会

★日々行われている授業には、私たち教師に「元気」や「気づき」を与えてくれるすばらしい風景がたくさんあります。そんな風景を体全体で感じる時、そこには必ず素敵なほほえましい子どもの姿があります。大成功を収めた授業、大失敗に終わった授業、意外な展開に胸が高鳴った授業など、それぞれの教師が伝えたい心に残る授業の一コマや、授業があることで輝く学校現場の風景などを紹介します。

【 第8回 】転機
〜一宮市立尾西第三中学校 長谷川濃里〜

新任のころ

ちょっと話を合わせるのがうまくて、生徒と軽口を交わしながら教科書の内容を進めることに、何の苦労も感じませんでした。学校は荒れていましたが授業ができないことはなく、出始めたパソコンを使って授業で使えるプログラムを組み、自分は勉強していると思っていました。

転勤して

夜11時、同学年を担当する先生にできあがったばかりの授業で使う練習プリントを持っていきます。一瞥して、
 「これを使うと余計にわからなくなるな」と問題配列に注文がつきます。
 「共通因数の概念は文字で掴ませる。次に数に広げる。そして両方で習熟させる。これはどこで切り替えている?」
 「余計にわからなくなる」と言われて、そのままにはできません。そこから手書きのプリントをつくり直します。そしてこのプリントづくりこそが教材研究でした。
 教材の構造を研究し、生徒の理解の度合いを掴みながら説明していくことで、授業における生徒の理解度はずいぶん向上しました。「先生の授業はよくわかる」とも言ってもらえるようになりました。その当時は「先生の説明がよくわかる授業」がよいことだと思っていました。

子どもの言葉で授業を進める

最初聞いた時は「そんなまどろっこしいこと」と思いました。しかし実際に授業を観てみると、前のめりになって考えを伝えようとする子どもの姿に圧倒されました。
 子どもたちは理解したことや考えたことを、自分の言葉で一生懸命伝えようとします。先生は発言の中からねらいに迫るキーワードを復唱したり、生徒に復唱させたりして教室内に広めます。そして問い返して思考を深めていきます。意図に満ちた先生の指示、説明、発問、復唱。先生は大事なことを何一つ言わず、子どもの言葉をつないで学習内容は進んでいきます。しかし授業の流れは先生が完全にコントロールしています。
 「大人の言葉より子どもの言葉の方が、子どもにはわかりやすい」
 身を乗り出して学ぶ子どもの姿から「子どもの言葉で授業を進める」ことの効果を実感し、自分が目指す次の授業が見つかった瞬間でした。

「教材把握」と「授業技術」。どちらが欠けても授業はうまくいきません。しかしうまくできていないことを心底自覚できるのは、次に何を目指すかを知った時だったようです。その時がまさに「転機」でした。

(2014年11月17日)

準備中

●長谷川 濃里
(はせがわ・あつさと)

1982年小牧市にて教員生活をスタートし、中学校教諭24年、指導主事3年、市職員1年、小学校教頭2年を経て、現在の一宮市立尾西第三中学校長に至る。吊り下げ名札の裏に「校長の仕事」として「学校の中や外をうろうろする」「授業をのぞく」「お客さんと話をする」「先生と話をする」「給食を早く食べる」と書き、時間が許せばいつも校内をうろうろしている。