愛される学校づくり研究会

★日々行われている授業には、私たち教師に「元気」や「気づき」を与えてくれるすばらしい風景がたくさんあります。そんな風景を体全体で感じる時、そこには必ず素敵なほほえましい子どもの姿があります。大成功を収めた授業、大失敗に終わった授業、意外な展開に胸が高鳴った授業など、それぞれの教師が伝えたい心に残る授業の一コマや、授業があることで輝く学校現場の風景などを紹介します。

【 第7回 】学級目標の具現化に向けて
〜扶桑町立扶桑中学校 瀬上圭太〜

ある研修会で「学級担任として、学級経営上のこだわりを聞かせてください」と参加者に質問したことがある。参加者は、「授業」「学校生活」「教室環境」に関することなど具体的な場面で話をしてくださり、各々学級経営の思いを垣間見ることができた。もし同じ質問をされたら、私は「学級目標」と答えるであろう。

そこで、年度当初に決めた「学級目標」を根付かせるための授業の一部を紹介する。
 10年近く前、当時中学2年生の生徒達との話である。

心のよりどころとなる学級目標

その学年には2年生になってから配属されることになり、学級担任として生徒達と出会うこととなった。生徒達の印象は全体として元気はあるが、心の内面に不安定要素をかかえ、周囲の目を気にする生徒が出始めていたため、地道に取り組むことが苦手ですぐにあきらめてしまうことが予想された。そこで、あきらめずに地道に取り組んでほしいと願って学級目標を決めた。教師の願いを語り、生徒達はどんな学級集団にしたいか話し合った。その時元気のある生徒が言った「雑草魂」には、言葉の響きとあきらめないイメージが全員ぴったりと重なった。
 私は、学級目標を決めた思いと現状のふりかえりを定期的に繰り返した。「雑草魂」を心のよりどころとして、より良い集団をめざした。

学級目標の具現化に向けて

学級目標「雑草魂」のもつ意味をより具現化するために語源を調べたところ、上原浩治選手(当時 読売巨人軍)がプロ野球入団の際、自らを雑草と例えて話した言葉であり、「雑草魂」は当時流行語大賞に選ばれた。同時期にプロ入りした松坂大輔選手と上原浩治選手を比較した道徳教材を見つけ、資料を参考にして道徳の授業実践をした。
  当時甲子園でも様々な記録を打ち立て「怪物」と騒がれた松坂選手とは対照的に、中学の時は野球部がなく高校から好きな野球を始めたが、さまざまな挫折を繰り返した上原選手。2人とも野球界では有名な選手であったが、学級内では2人の名前を知っている生徒は野球好きな生徒の一部ぐらいであった。そんな中、2人のプロ野球選手になるまでの過程を知らせ、その時々の思いを考えさせることにした。
 松坂選手は高校野球全国大会春夏優勝、ノーヒットノーランの記録など前人未到の記録を打ち立てたことを伝えた。松坂選手をあまり知らない生徒も「全国大会に出場することもなかなかできないのに、春夏全国優勝するなんてすごい」と声が上がった。そんな松坂選手も、2年生時の県大会では自らの暴投で負け、試合後先輩が「おまえはよく投げたよ」と声をかけられるたびに涙を流した。その後、プロに入り、エースナンバー「18」を付けて活躍した。生徒の感想では「松坂選手は2年生の時の失敗と、先輩達からの温かい声が、あきらめない気持ちと実績につながったんだ。」と思いを述べた。

次に上原選手について高校生までの様子を話したのち、資料の一部を以下のように取り上げた。
 「同じプロ野球選手である上原選手は、大学を卒業した時にプロ野球選手になった。彼の背番号はエースナンバーではなく『19』。それには忘れられない思い出がある。彼は入団時に『[ ? ]でがんばります』と話した。」
 まず、「上原選手が忘れられないことって何だろう」と生徒達に問いかけた。「松坂選手のように試合に負けた悔しさがあったと思う」という意見が出た。実は上原選手は大学受験で失敗したが、浪人中も基礎トレーニングを続け、学費は自力で稼いだ。大学入学後は野球で活躍し実績を積みあげ、プロとして入団した。19歳での思いを背番号19にしたことを紹介した。
 次に、上原選手は「入団時に言った言葉は、何だろう」と問うと、様々な意見が出た中で、学級目標を考えた生徒が「もしかして、雑草魂?」とつぶやいた。彼は、言葉として知っていたが上原選手が入団した時に発した言葉と認識していなかったようで、驚きの表情であった。
 授業の結びに、雑草魂で学校生活を送るには、「これからどのようなことをしていくとよいか?」と自分を振り返った。

後日、学級旗の中に詩を添えた。
「雑草のように 踏まれても 立ち上がる熱い心を 持ち続けたい」
  その後の学級経営は決して平坦ではなかった。それでも、常に「雑草魂」を意識して、現時点の様子やその後の行動を振り返ることを繰り返していった。

【参考文献】
・佐藤 幸司『とっておきの道徳授業 オリジナル実践35選』日本標準、2001

(2014年10月27日)

準備中

●瀬上 圭太
(せがみ・けいた)

平成5年4月 新城市の小学校教員としてスタートする。その後、鳳来町(現在新城市)、岡崎市、犬山市、扶桑町の中学校教員となる。また、平成24年度より愛知教育大学教職大学院へ2年間通い、学校づくりに関する理論と実践について学ぶ。現在、扶桑中の教務主任として勤務している。