愛される学校づくり研究会

辛口コラム

★このコラムは、津市の太郎生小学校の校長だった中林則孝先生によるものです。中林先生は校長としてほぼ毎日「学校便り」を発行していらっしゃいました。教室で起こるドラマをドキュメンタリー風に書き綴った便りからは長年の実践に裏打ちされた深い教育哲学と固い信念を感じます。真っ直ぐで媚びを売らないその論調から「中林則孝のゴメンネ辛口コラム」というタイトルにしました。教育にまつわるさまざまな話題を独特の切り口で切ってもらいます。

【 第9回 】作文指導の充実を願って(その1)

小学校で学習することの基本中の基本は「読み・書き・計算」であることには異論がないはずです。文章が読めないと話になりません。かけ算の九九やたし算、ひき算といった計算力も必要です。では、もう一つの基本「書くこと」はどうでしょうか。これも、「話す・聞く」と同じように大事であることを否定する人はいないはずです。
 その大切な「書くこと」の指導は小学校ではどのようになっているか、話題にしてみます。
 新任の3年担任が「研究レポートを書こう」(東京書籍)という単元の授業をしました。「書くこと」が学習内容です。教科書の展開は「調べることを決める」「調べる計画を立てる」「調べる」「調べたことを整理する」「研究レポートを書く」「読み合って伝え合う」という流れになっています。総時間数として12時間が配当されています。取材をして構想を作っても、研究レポートを書くところで「子どもたちは少ししか書けない」と担任は悩んでいます。
 3年生での12時間というと、2週間の国語の時間にほぼ相当します。それだけの時間を費やしての「書くこと」の学習です。この授業で書くこと、つまり作文力が向上するのであれば何も問題はありません。しかし、私の経験ではこのような「作文の単元学習」では作文を書く基本的な力が伸びることを実感することはありません。

「書くこと」は冒頭に書いたようにとても大事です。「学習指導要領」でも重視されており、時間数もかなり多くとることになっています。低学年は100時間程度、中学年85時間程度、高学年55時間程度となっています。これは国語の時間数のちょうど33%に当たります。さらに「その際、実際に文章を書く活動をなるべく多くすること」と明記されています。中学年の85時間というのは週あたりにすると2.4時間です。毎週、それだけの時間を文章を書く活動にあてていると、書く力は間違いなく上達するでしょう。しかし、教科書では「書くこと」の学習は単元学習になっています。
 最もシェアの高い光村図書の教科書(平成27年度用)を見てみました。するとやはり「リーフレット作り」「新聞作り」「活動報告書」「町のパンフレット作り」のような、いわば単元学習になっており、作品を作ることが目的です。
 作文を書く基本的な能力を高めることをしないで、リーフレットなどを作る学習は、たとえてみると走る能力を全く鍛えないのに体育大会で走り方の見本を見せるようなものではないでしょうか。
 今日、「コミュニケーションの力」が重視されており、「ペア学習」や「グループでの話し合い活動」が多く行われています。関連分野の教育書もたくさん見かけます。学習指導要領の国語には「話すこと・聞くこと」という領域で内容が示されています。でも、時間数は中学年では30時間程度となっています。「書くこと」は85時間程度(中学年)もあり、「話すこと・聞くこと」の3倍近い時間数となっています。それは言うまでもなく大事であり、習得に時間がかかるということです。まさに「不易の基礎学力」としての書くことは学習指導要領においても大事だとなっているのです。

小学校2年ではかけ算の九九を学ぶことになっています。手元にある教育出版の教科書を見ると、例えば「8の段」の学習は2時間扱いとなっています。ではこの2時間だけ教科書に沿って学習すれば8の段の九九は身につくのでしょうか。決してそんなことはありません。昨年度、指導していた2年担任の初任者は3学期中、ほぼ毎日5分ほど九九練習を繰り返していました。全員に定着させることは簡単ではなかったようですが、学年末のころにはかろうじて九九が定着していました。かけ算の九九のような基本的な学習内容は教科書の配当時間とは別に繰り返しの習熟学習が必要です。そのことは私たちは先輩教師から不易の学習内容・方法として受け継いできました。電卓やパソコンが普及しても、基本の学力として「かけ算の九九」が必要なのです。
 同じことは漢字についてもいえます。新出漢字として一度や二度の指導だけでは子どもたちが覚えることはできません。そのことを指導者は分かっていますから、繰り返し練習したり、テストをしたりします。
 そういった「反復習熟学習」のおかげで、私たちは九九を覚え、漢字を書けるようになりました。これは「かくれたカリキュラム」ということができます。経験を積んだ教師はみんな「変化のある繰り返し学習」の指導方法を持っています。

では、作文についてはどうでしょうか。私は、作文も九九や漢字と全く同じで、「反復学習」が必要だと思っています。教科書の作品作りのような作文教材に10時間以上費やしても書く力はあまり向上しません。東京書籍の「研究レポートを書こう」という3年生の作文教材は12時間配当です。12時間(540分)あれば、毎日10分ずつ作文学習にすると2カ月半続けられる計算になります。私が今、この教材を指導するのであれば、12時間も使いません。国語の時間は4時間にします。取材など、書くこと以外の時間が必要なら「総合的な学習の時間」を回します。そして、残った時間は毎日5分から10分書くことの学習にあてます。

そんなに大切な「書く力」なのに現場ではあまり重視されてはいないようです。作文指導は不振だと言ってもいいと思います。教育書を見ても、このところ作文関係の新刊はほとんどありません。出しても売れないのでしょう。
 作文指導が不振である理由について野口芳宏先生は「作文指導の重要性を深く認識していない」「作文力は天性のもので、指導の効果が希薄であるという思い込み」「書かせることはよいが、後の処理がたいへんである」「よい指導方法が分からない」という4点を指摘されています(「作文で鍛える上巻」・教育新書)。25年も前に出版された書籍で主張されている野口先生の考察は、今も多くの教員の本音だろうと思います。

次回、「日常的な作文指導」「手間がかからない作文指導」「子どもが意欲的になる作文指導」について提案します。今回の「辛口コラム」は作文指導の問題について考察するだけのつもりでしたが、力が入りすぎて、実践についても提案したいと思う羽目になりました(汗)。

(2014年12月22日)

準備中

●中林 則孝
(なかばやし・のりたか)

1951年生まれ。初任者研修指導員。一輪車が小学校に普及し始めた頃、練習を継続すれば大半の児童が一輪車に乗れるようになることを知り、「練習量が、ある時、質に転化すること」を実感する。初任者研修では、スローガンや方向性だけではなく、子どもを念頭に置いた具体的な指導を心がけている。