愛される学校づくり研究会

辛口コラム

★このコラムは、津市の太郎生小学校の校長だった中林則孝先生によるものです。中林先生は校長としてほぼ毎日「学校便り」を発行していらっしゃいました。教室で起こるドラマをドキュメンタリー風に書き綴った便りからは長年の実践に裏打ちされた深い教育哲学と固い信念を感じます。真っ直ぐで媚びを売らないその論調から「中林則孝のゴメンネ辛口コラム」というタイトルにしました。教育にまつわるさまざまな話題を独特の切り口で切ってもらいます。

【 第7回 】なぜ、「おおかみ」を小1の1学期に教えるのか

数日前の国語の授業でこんな場面がありました。音節がいくつかということを学んでいます。「鉛筆」であれば「え・ん・ぴ・つ」と4つ手をたたきます。担任が、「ちょっとむずかしいよ」と言って提示した単語は「びょういん」です。美容院ではありません、病院の方です。「『びょ』は1音だよ」と言いながら、「びょ・う・い・ん」と4つ手をたたきます。気になったのはこの「う」の音。担任ははっきりと「う」と読みました。子どもたちも同じように復唱しています。
 授業後、担任に「びょういんの『う』の正しい読み方は『ウ』ですか、それとも『びょを伸ばす音』ですか」と聞くと、悩んでいます。即答できないのです。このサイトを見ていただいている皆さんはお分かりですよね :-)

何度か、次のような授業を高学年や中学年でしたことがあります。

「おはようございます」の「う」の正しい読み方は「ウ」ですか、「ヨを伸ばす音」ですか。

「正しい読み方」をやや強調して発問します。この発問で45分の授業はできるでしょうか。
 子どもたちの反応は「ウ」というのが多いです。ほぼ全員が「ウ」だということもありました。職員室で同じことを聞いたことがあります。迷う職員が多かったです。「日本語は難しいよねえ」という声もでます。
 実はこれはかなり深刻な状況です。私の周囲だけならまだしも、全国的にこういった傾向がもしもあるとするなら、小学校における国語教育はかなり危機的といえます。小学校の教員は総懺悔するレベルです。

もう一つ問題を出します。1年生の1学期の国語科の教科書に、なぜか同じ言葉が各社の教科書に出ています。
 せんせい(4社)
 おおかみ(3社)
 こおり(2社)
 これは偶然なのでしょうか。「おおかみ(狼のこと)」という、あまり一般的ではない単語を小学校1年生の1学期に習うのです。これは偶然ではありません。深い意味があるのです。

冒頭の「びょういん」の「う」は「ウ」とはっきり発音するのではなく、「長音」といって伸ばす音なのです。同じく、「おはよう」も「オハヨー」と発音します。片仮名では長音は「ー」という記号を使います。例えば「ボール」のように。
 平仮名の長音は「う」などという表記で表すのです。そのことを小学校1年で学びます。学習指導要領には「長音などの表記ができ」と規定されています。
 すべての国語科の教科書にはそのことが出ていますが、扱いが不親切です。シェアが最も高い光村図書の現行版は1ページのみの扱いで、「おかあさん・ふうせん・おとうさん」などの単語が10個と4行の短い詩が載っているだけです。これで長音の指導ができるのでしょうか。
 現行の教科書(国語科1年上巻)では「長音の扱い」はどうなっているのか、調べてみました。三省堂は「のばすおんがあることば」というタイトルがついたページがあります。東京書籍は「おばさん・おばあさん・おじさん・おじいさん・とけい・せんせい・おおかみ・こおり」という8個の単語が載っているだけです。教育出版は「のばすおん」というタイトルがついており、2ページの扱いです。学校図書は「のばすおん」というタイトルがついており、さらに「のばすあ」として「おばあさん」、「のばすい」として「おじいさん、おにいさん」、「のばすう」としてくうきなどが載っています。これなら指導しやすいですね。

教科書の言語事項の記述はていねいになる傾向があるように思います。でも、長音に関しては小学校1年の1学期ということもあり、指導者の説明を前提にしているためか、親切とはいえません。しかし、このような不親切な教科書をしっかり使いこなしてこそ、長音の指導が可能となります。「おおかみ」という単語がなぜ1年生の1学期に指導するのかということも含めて、きちんと指導しなければならないのです。
 「日本語って難しい」と言っている場合ではありません。そのことを教えるべき教員が理解していないことが大きな問題なのです。国語の研修会などにおいて、文学、説明文、作文指導などのことは取り上げられても、長音などのより基本的な内容が話題になることは私の知る限りありません。「B問題対応」や「伝える力」も大切ではありますが、教科書の1年の内容をきちんと指導することのほうがはるかに優先度は高いことはいうまでもないはずです。

※「おおかみ」という言葉が早い時期に教科書に登場する理由は次回の「辛口コラム」に書きます!(^^)!

(2014年10月20日)

準備中

●中林 則孝
(なかばやし・のりたか)

1951年生まれ。初任者研修指導員。一輪車が小学校に普及し始めた頃、練習を継続すれば大半の児童が一輪車に乗れるようになることを知り、「練習量が、ある時、質に転化すること」を実感する。初任者研修では、スローガンや方向性だけではなく、子どもを念頭に置いた具体的な指導を心がけている。