愛される学校づくり研究会

辛口コラム

★このコラムは、津市の太郎生小学校の校長だった中林則孝先生によるものです。中林先生は校長としてほぼ毎日「学校便り」を発行していらっしゃいました。教室で起こるドラマをドキュメンタリー風に書き綴った便りからは長年の実践に裏打ちされた深い教育哲学と固い信念を感じます。真っ直ぐで媚びを売らないその論調から「中林則孝のゴメンネ辛口コラム」というタイトルにしました。教育にまつわるさまざまな話題を独特の切り口で切ってもらいます。

【 第5回 】他人の目を意識した文章を書こう

「書くこと」の指導は大切です。時間数としては低学年では年間100時間程度、中学年85時間程度、高学年55時間程度となっています(「学習指導要領」)。その実態はどうなっているのでしょうか、ということは大きな課題です。でも、今回の話題は「書くことの指導」ではなく、「私たち自身の書くこと」はどうでしょうかということです。

書く機会は仕事柄日常的にあります。報告書、行事計画、学級通信、学年通信、指導案、日記への赤ペン入れ、保護者への連絡など、書くことは仕事に直結しているはずです。そういったルーティンとしての書くことではなく、研修会に参加した感想などの、「自分の思い」をストレートに書くことはどうでしょうか。私たちは書くことが仕事に密接に関係しているわりには「自分の思い」を書くことは意外に少ないのではないかと思います。

一方、日常的に自分の思いを発信されている方も少なからずいます。教育についてブログを書いている教育関係者はたくさんいます。私が頻繁にアクセスするサイトを思い返すだけでも、10を超えます。教育問題のブログは全国では相当数あるはずです。そうったブログを運営している方は、身近な話題を取り上げてそのことに対する感想などを書き、発信しています。
 つまり自分の感想を日常的に書いている人とそういったこととは無縁な人の二極化されているように思います。

自分の思いを書くことは簡単そうではありますが、実はかなり敷居が高いのです。旅行の感想を書くことはできても、研修会の感想を書くことをはばかる教師は多いはずです。旅行の感想は個人の目での感想ですが、研修会の感想は教師としての力量が問われます。「こんなことを書いても、他の先生にとっては当たり前ではないのかなあ」とか「的外れの意見かもしれない」などと不安になることがあるかもしれません。それだけに、他の人の目に触れる形で感想を書くことをしないのです。

「勉強になりました」とか、「2学期からの実践に活かしていくヒントをたくさんいただきました」という当たり障りのないことを言ったり、書いたりするのは、あえて力量が問われるであろう具体的な観点についての考察をさけているのです。子どもがそのような感想を言えば、力のある教師ならきっと突っ込むはずです。「勉強になったというけど、なにが勉強になったの?」とか「たくさんのヒントって、例えばどんなこと?」と。具体的に考察することが学びになるのです。

研修会に参加したらメモを取ったり、考えたりしています。その中のいくつかを、「自分はこのことが勉強になりました」と書けばいいのです。あるいは「そんなやり方があったとはしらなかったので、2学期には実践してみようと思います」と。その程度でいいのです。正直な気持ちが書かれていたら、書き手の力量うんぬんよりも、学ぼうという姿勢が見えるだけに読み手の心をゆさぶります。

いったんこういったことを学級通信などに書いてみると、一気に敷居が低くなり、書くことが楽しくなります。間違いなく。自分の感想を自分なりにまとめ、それを何らかの方法で他の人の目をくぐるということは実は楽しいことなのです。そして、いうまでもなく確実な学びになります。教師の成長に直結します。でも、一つ大切なことがあります。それはたとえ一人か二人であっても、自分以外の人の目に触れる状態にすることです。

この夏、研修会に参加した皆さん。ノートにメモを取ったはずです。それをもう一度見直して、「私の学び」という題で学級通信を作ってみてはいかがでしょうか。あるいはこっそりと無料のブログを開設し、ごく親しい知人にだけ知らせるという手もあります。今よりも仕事が増えることにはなりますが、教員人生を豊かにしてくれることを私は保証します。
 研修会や実践について自分なりの考察をするのは教師としてもっと力がついてからだと思っている方がいるかもしれません。でも、教師はいつになって自分の力量に満足することはありません。まさに日々研修です。他人の目を意識した文章を書くことが、教師としての力量を高め、子どもたちや保護者の信頼を高めていきます。

余談です。私は初任者研修の指導をしています。初任者がブログで自分の思いを出すことはさすがに無理です。でも、「教育について自分の思いを書く機会」を強制的に作っています。例えば、「中林の示範授業」「1学期を終えて」「夏休みの合同研修」など、折に触れて感想を書いてもらいます。それをメールで受け取り、私が作っている「教室はドラマ」という通信に載せます。拒否することはできません。「教育は善意の強制」とは野口芳宏先生のことばですが、これは初任者研修においてもいえることです。通信に載せることで、他の初任者の感想を見ることができます。このことも学びにつながるはずです。以上、手前味噌の余談でした。

(2014年8月20日)

準備中

●中林 則孝
(なかばやし・のりたか)

1951年生まれ。初任者研修指導員。一輪車が小学校に普及し始めた頃、練習を継続すれば大半の児童が一輪車に乗れるようになることを知り、「練習量が、ある時、質に転化すること」を実感する。初任者研修では、スローガンや方向性だけではなく、子どもを念頭に置いた具体的な指導を心がけている。