愛される学校づくり研究会

辛口コラム

★このコラムは、津市の太郎生小学校の校長だった中林則孝先生によるものです。中林先生は校長としてほぼ毎日「学校便り」を発行していらっしゃいました。教室で起こるドラマをドキュメンタリー風に書き綴った便りからは長年の実践に裏打ちされた深い教育哲学と固い信念を感じます。真っ直ぐで媚びを売らないその論調から「中林則孝のゴメンネ辛口コラム」というタイトルにしました。教育にまつわるさまざまな話題を独特の切り口で切ってもらいます。

【 第1回 】新聞に載ることの重み

今年も多くの新規採用教員が誕生しています。目が回るような忙しさの中、教壇に立ったことの喜びを感じていることと思います。昨年度、私が担当したある新採教員は「(教諭になれたことを)夢のようです」と素直に喜びを表現していました。

私は今、新任教員研修の拠点校指導員をしており、4人の新任教員を担当しています。その皆さんに次のようなことを聞きました。「4月1日の新聞に自分の名前が出ていたでしょう。見たよね。どうだった?」と。三重県では4月1日に各紙が号外で「教職員の人事異動」を報じます(私は長く人事異動はどの都道府県も4月1日だと思っていました。すると、3月末に新聞辞令がでるところもあると知り、驚いたことがあります)。
 先の質問に対して新人教師は「うれしかったです」と神妙に答えます。中には「悪いことではないことで新聞に自分の名前がでるのはうれしいですね」とややていねいに答える新人もいます。
 そんな陳腐な反応を期待しているのではない私は、つっこみます。「学校の教員は新卒の若い人も名前が出ますよね。どうして教師だけがみんなの名前が新聞に出るのだろう?」と。返事がないのでさらに「県庁や市役所は幹部の異動だけが報じられ、一般職員の名前は新聞には出ません。同じ公務員なのに。教員は大卒の若い先生も名前が新聞に出ます。教員ってそんなに偉いの?」と言うと、「いいえ」とここははっきりと否定します(当たり前です)。

各紙が何ページもの号外を作って教職員の異動を報じるのは、読者の「知りたい」というニーズがあるからです。4月1日、細かい文字の教職員の名前が載っている新聞を、赤鉛筆やマーカーを持ちながら家族で見ている家庭はあるはずです。「今度、来る先生は誰?」とか「以前、担任だった先生はどこの学校にかわるのか」という人事情報にはPTA以外の方も関心を持つことが多いと思われます。
 県庁職員と教職員は多くの都府県の場合、「県の職員」として同じ立場です。氏名や所属先などの情報はオープンになっています。でも、新聞に幹部職員以外の名前が出るのは教職員だけです。東京都は人事異動一覧をwebで公開していますが、それも教員だけは全員を公開し、都庁職員は幹部だけです。

地域住民が教職員の異動を知りたいのは「利害関係が密接」だからこそと考える事ができます。新採教員はそのことの重みを感じる必要があります。わが子を1年間預ける担任のことをより早く知りたいという保護者の願いは、そのまま教員の両肩にかかっているのです。
 私たちは普通、病院や医者を選ぶことはできます。弁護士を選ぶこともできます。高校や大学を選ぶこともできます。就職先も選びます。でも、公立の小・中学校の場合は、原則として学校を選ぶことも、担任を選ぶこともできません。最近は、学校選択制のところも一部にはありますが、それでも担任を保護者や子どもたちが選ぶことはできません。大学を卒業したばかりの新卒・新規採用の教員は大きな、重い責任を4月の始業式から背負うことになるのです。
 新聞が名前を報じるということはそういう意味があるのです。「名前が載ってうれしい」などと浮かれている場合ではないのです。身震いするような責任がそこにはあるのです。

でも、心配はいりません。皆さんは素晴らしい仕事を選びました。1年後には多くの場合、子どもや保護者に感謝されるでしょう。そして、数年後、たくさんの充実した思い出や涙と共に学校を異動することになります。日々の仕事が地域の皆さんにストレートに反映する仕事はそんなに多くはありません。教職という仕事は、そんな素晴らしい仕事なのです。
 ちょっと忙しいけど楽しいと思いつつ、張り合いを持って日々の仕事をがんばってほしいと願っています。

(2014年4月14日)

準備中

●中林 則孝
(なかばやし・のりたか)

1951年生まれ。初任者研修指導員。一輪車が小学校に普及し始めた頃、練習を継続すれば大半の児童が一輪車に乗れるようになることを知り、「練習量が、ある時、質に転化すること」を実感する。初任者研修では、スローガンや方向性だけではなく、子どもを念頭に置いた具体的な指導を心がけている。