愛される学校づくり研究会

お母さんは学校の応援団長

★このコラムは、小牧市立小牧中学校のホームページ「小牧中PTAの部屋」を運営されていた斎藤早苗さんによる保護者コラムです。「愛される学校づくり研究会」から強くお願いして、保護者の目から見た学校や教育について執筆していただくことになりました。ご自身は「私は学校の応援団長」と称しておられますが、さてどのような切り口で学校教育に迫っていただけるのでしょうか。とても楽しみなコラムです。

【 第59回 】「道徳の教科化」に思う(2)

◆道徳の内容項目

すべての人が、道徳の授業を受けてきています。ですから、「だいたい、こんな感じでしょう」というイメージは持っています。
  私が持っているイメージは、前回のコラムに書いたように、読み物資料を使って登場人物の心情を読み取らせるようなイメージです。読者の皆さんがそれぞれに、自分が経験してきた道徳をもとにイメージを持っているでしょう。

学校の先生であれば、道徳でどういうことを教えなければならないのは、もちろんご存じのはずです。これらは、学習指導要領で「内容項目」として定義されています。
  読者の中には、私のような保護者や、教員ではない人もいらっしゃいますので、この「内容項目」をご紹介しておきたいと思います。
  ただし、子どもの成長段階に応じて具体的な内容は変わっていきますので、小学校低学年にはない項目が高学年から中学校にはある、ということもあります。詳細は学習指導要領を参照していただければと思いますが、教員以外の人の参考のために、簡単に小学校部分を中心にまとめたことをご了承ください。

「道徳科」で指導する内容項目

A.主として自分自身に関すること
「善悪の判断、自律、自由と責任」「正直、誠実」「節度、節制」「個性の伸長」「希望と勇気、努力と強い意志」「真理の探究」など
B.主として人との関わりに関すること
「親切、思いやり」「感謝」「礼儀」「友情、信頼」「相互理解、寛容」など
C.主として集団や社会との関わりに関すること
「規則の尊重」「公正、公平、社会正義」「勤労、公共の精神」「家族愛、家庭生活の充実」「よりよい学校生活、集団生活の充実」「伝統と文化の尊重、国や郷土を愛する態度」「国際理解、国際親善」など
D.主として生命や自然、崇高なものとの関わりに関すること
「生命の尊さ」「自然愛護」「感動、畏敬の念」「よりよく生きる喜び」など

参考:学習指導要領・文部科学省HP/【小学校】第3章道徳 【中学校】第3章道徳

こうしてまとめてみると、道徳はとても広い範囲のことを教えているのだとわかります。
  大人になった今思えば、人として生きる上で大切なことをたくさん教えてもらったはずなのに、道徳の授業のことがほとんど記憶に残っていないのはもったいないことですね。

◆道徳で何を教えるのか

道徳で「何を」教えるのか、というのは、上記のように学習指導要領で定義されている「内容項目」に沿ったものです。
  これまでの道徳では、どちらかと言えば「こうあるべき」という価値観を教えるものだったのではないかと思っています。
  「こうあるべき」とされていたのは、昔から大事にされてきた価値観でした。人と仲良く、規則は守って、いのちは大切に、といった、誰もが当たり前に大事だと思うことですね。

時代とともに、価値観が変わってきています。
  例えば、これまでは「みんな同じ」であることが良しとされ、揃えることに重きをおいてきた教育を、インクルーシブ教育のように「みんなちがって、みんないい」と違いを受け入れ、多様性を認め合い、お互いを尊重しようという教育へと変えていこうとする流れも出てきています。
  そう考えると、「何を」教えるのか、ということも、これから変わっていくのかもしれないなと感じています。

◆道徳の授業で子どもたちに経験させてあげたいこと

私はこれまでに何度か道徳の模擬授業を参観させていただき、自分が子ども役になる経験もさせていただきました。
  その中には、「正解のない問題」について考える授業が多くありました。
  このような授業では、各自の価値観のぶつかり合いとなりますし、白黒はっきりしないまま終わるので、モヤモヤした思いが残ります。
  実際に、授業が終わった後も、あちこちで意見交流が続いていました。きっと、みんなが「このモヤモヤしている思いが何なのか」を知りたくて、他の人の意見を聞きたい、知りたい、という思いに駆られていたのだろうと思います。

社会に出れば、「正解のない問題」に数多く直面します。
  そうした問題に対して、みんなで考えて、みんなで議論し、一定の方向性を決めていくのが社会です。
  いずれそんな社会に出ていく子どもたちには、まず「自分で考える力」をつけてほしいと思っています。そして、他者の意見を聞き、自分とは違う価値観を知ってほしいと思います。

他者の価値観を知り、自分の考え方が変わってもいいのです。
  ただ、「みんながそう言うのなら、それでいいや」と流されるのでは意味がありません。自分の中でよく考えて、「なるほど、それなら納得できる」ということで意見が変わるのなら、自分の中に新しい価値観が生まれることになると思います。

どうしてもお互いの価値観が理解できない、認められない、という状態であっても、とにかく何らかの方向性を決めなければならないこともあります。 そんなときにどう折り合いをつけていくのか、ということは、何度も経験しないとなかなか難しいでしょう。

自分の力で考えること。いろいろな価値観を知ること。多様な価値観の中で、現状ではどうするのがベターだろうかと考え、議論し、折り合いをつけていくこと。そうした経験を、学校ではぜひさせてあげてほしいと思っています。
  模擬授業の子ども役はモヤモヤして苦しい経験でしたが、こういう授業を子どもたちが経験できるといいなと思いました。

普遍的な価値観(例えば、法律やルールを守ること、いのちを大切にすることなど)については、考えさせるというよりは、きちんと教えることをこれからもしてもらえればいいと思います。
  それだけでなく、時代とともに価値観は変わってくるのですから、子どもたちには、柔軟に多様な価値観を受け入れられるような経験をさせてあげてほしいと願っています。
  そのためにも、先生方がいろいろな価値観に触れ、知る経験をしていただけるといいなと思います。
  先生がそうした経験を授業の中で「語る」ことも、道徳として意味のあることではないかと考えています。

(2018年2月26日)

斎藤さん

●斎藤 早苗
(さいとう・さなえ)

愛知県在住 の3人の子供たちの母。
小牧市立小牧中学校にて、2014年度に、開校以来初めての女性PTA会長を務めた。
2012年春、玉置崇先生が校長として小牧中学校へ赴任されたのを機に、学校HP内の「PTAの部屋」の自主運営を始め、3年間にわたり、PTAの各委員会活動だけでなく、学校HPで発信される「学校の想い」に応えながら「保護者の想い」を発信して、学校と先生を応援してきた。
学校と保護者の温かい交流がある「愛される学校」が、全国に増えるといいなと願っているお母さん。