愛される学校づくり研究会

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★愛される学校づくり研究会では、この1年間「どのようにすれば楽しく授業研究ができるか」を研究していくことになりました。このコラムでは、そこで取り上げられる授業研究の手法や取り組みの様子、そのよさや課題をお伝えしたいと思います。授業研究がテーマですが、「授業で大切なことは何か」「教師が成長するために必要なことは何か」「授業研究が愛される学校づくりとどうかかわるのか」といったことにも触れていきたいと思っています。

【 第5回 】グループを活用した「3+1授業検討法」はどう活かす

6月の愛される学校づくり研究会で、グループを活用した「3+1授業検討法」を使って授業検討をおこなった報告です。今回は5年生の算数の授業を、会員8人を子ども役にしておこないました。この授業では、「ガッタンピー」という言葉を使って進んでいきました。「ガッタン」とは1位の数と10位の数を入れ替えた数をつくること、「ピー」とはできた数と元の数の大きい方から他方を引くことです。たとえば、「27」であれば、「ガッタン」すると「72」。「ピー」をすると「72−27」で「45」となるわけです。数当てゲームの形を取って、2桁の数を「ガッタンピー」した時の性質(各位の数の差の9倍になる)を見つけるというものでした。

検討会は、まず授業の「よかったこと」を3つ、「改善点」を1つ見つける「3+1」というルールに従ってグループで話し合います。今回の授業では子ども役にとって何が課題かが明確になっていなかったことがどのグループでも話題となっていました。そこがはっきりしないため、「よかったこと」は授業の流れや組み立てではなく、「ガッタンピー」という言葉を使うことによる興味づけや子どもに「ひとことヒント」を言わせることで参加度を上げたこと、「隣同士」で相談といった子どもをかかわらせる活動といった、ある場面での授業者の働きかけについてのものが多くなりました。

グループでの検討の後の全体での進め方をどうするかですが、この検討法の発案者が参加していたのでコーディネーターをおまかせすることにしました。まず、個々に発表する前に各グループの意見を貼り出してもらいます(今回は、模造紙を用意していなかったので書き出しました)。そこで、貼りだされたものを見ながら、コーディネーターが共通なものを整理していきます。今回はかなりのものが共通でした。事前に互いの考えをある程度理解しているので、この後の各グループの代表の発表もコンパクトになります。共通なものは簡単に、そうでないものを詳しく説明してもらえば効率的に進みます。それぞれの考えを共有化して終了です。全体での検討にはあまり時間を使いませんでした。「グループで密度の濃い話し合いができているので、あえて全体で時間を取ることはない。忙しい中での授業検討だからこそ、効率的におこなうべきだ」という考えです。なるほど、このやり方であれば、参加者にとっては受け身の時間の少ない密度の濃いものになりますし、コーディネーターの技量もあまり問われません。だれにも負担がかからないものになります。

この検討法についての検討に入ります。グループで話し合うことで、参加者の視点が広がることを評価する声が上がります。「よかったこと」をたくさん話そうとすると、いろいろな視点が出やすいからです。また、「よかったこと」を中心に発表されるので授業者の精神的な負担が少ないこともよい点として上がってきますが、実際に授業者はどのように感じたのでしょうか。今回の授業者は、「上手くなりたい」という思いを強く持っていました。「よかったこと」よりも「改善点」をもっと聞きたかったと言うのです。なるほど、そういう考えもうなずけます。授業者によって受け止め方は違ってくるということです。このことをきっかけに、授業検討は誰のためにおこなうのかということが話題になりました。

参加者にとっては、検討会で多くの意見に接することで自身の授業を見る視点を広げたり、参考になる点を見つけたりすることはとても意味のあることだと思います。また、学校全体として、授業検討を通じて共通の視点・課題を持つことは授業力向上につながることでしょう。しかし、「授業検討会で授業力がアップした経験はない」という意見も出てきました。授業者の授業力アップを考えた時、授業検討が有効な手段なのかは疑問だというのです。授業検討会ではなく、いわゆるスーパーバイザーやアドバイザーの指導を受けた方が、授業力がつくという主張です。私自身、授業アドバイザーとして活動していますが、個人の授業力を伸ばすという視点では、本人の思いを聞きながら個別にアドバイスする方が確かに効果的に思えます。そうであれば、授業検討会にプラスしてスーパーバイザーやアドバイザーに来てもらうことは難しいとしても、校長やそれにふさわしい先生が授業者に個別にアドバイスすればよさそうです。そのようにしている学校も多いことでしょう。授業者の授業力アップを目指すというより、時間がない中でも参加者が積極的にかかわり、少しでも学びが多いものにすることをねらって生まれたのが、このグループを活用した「3+1授業検討法」だったわけです。

ここで、前回の「3シーン授業検討法」での道徳の授業を思い出しました。優れた授業技術が随所に見られたのですが、場面を絞ったため進め方や課題といった授業の流れや組み立てに焦点化された話し合いとなりました。今回と逆の形です。この授業を、グループを活用した「3+1授業検討法」で検討したとすれば、おそらくとてもたくさんの「よかったこと」が取り上げられたと思います。もちろん前回の検討会がよくなかったということではありません。授業検討会に何を求めるかで評価は違ってくるのです。

逆に今回の授業を「3シーン授業検討法」でおこなったらどう展開したでしょうか。間違いなく課題提示の場面が取り上げられたはずです。「ガッタンピー」という言葉による興味づけのよさと同時に改善点として上げられた、課題提示の問題について深く議論されたことでしょう。授業者にとっての学びはより大きくなったのではないかと思います。

実際に授業が終わってから検討法を選べればよいのでしょうが、現実には難しい話です。授業検討会のねらいをどこにもっていくかで、授業検討会の持ち方も変わるということでしょう。共通に興味を持った場面を深く掘り下げて考えるのには「3シーン授業検討法」が、広く授業から学ぶのであればグループを活用した「3+1授業検討法」が有効なように思いました。

研究会に参加されている先生の学校での取り組みが研究会のメーリングリストに投稿されました。簡単に紹介します。「授業者が日ごろ困っていること、悩んでいることを検討会での意見を参考にして今後に活かすこと。参加者が、授業者がどのような工夫をしているか考察することで、自らの授業に対する視野を拡げること」をねらいとした授業検討をおこなっているそうです。参加者は青色付箋(よかったこと)、黄色付箋(疑問に思ったこと)、赤色付箋(改善点)を使って気づいたことをメモします。拡大コピーした指導案を用意して、付箋をその場面に貼ります。共通した「よかったこと」を取り上げて発表した後、「疑問に思ったこと」「改善点」の中から授業者に協議してほしいところを3点選んでもらい話し合います。最後に検討会を通じて授業者が取り入れたいことを発表して終わりです。ここまでを1時間でおこなうというものです。「3+1授業検討法」と「3シーン授業検討法」を一部組み合わせた形ですが、授業者の授業力アップをより強く意識したものになっています。検討会の持ち方をねらいに合わせて工夫した例です。

また、後日グループを活用した「3+1授業検討法」を実際におこなったところ、「1+3」になってしまったという報告もありました。それなりの授業でなければ「3+1」にならないというのですが、授業者がどのような気持ちになったのかが気になるところです。参加者の視点が偏っていたのかもしれませんし、「よかったこと」を見るという意識が弱かったのかもしれません。「3+1」というのも、ただルールとして伝えただけでは成り立たないということなのでしょう。どのような授業であっても「よかったこと」を見つける姿勢を参加者全体が持つことが「3+1授業検討法」では求められるということだと思います。

4回にわたり「3シーン授業検討法」とグループを活用した「3+1授業検討法」の2つの授業検討法とその活かし方について取り上げてきました。次回は少し違った視点から授業研究について述べる予定です。

(2013年7月22日)

大西貞憲

●大西 貞憲
(おおにし・さだのり)

愛知県で公立中学・高校教諭を経て、民間企業で学校向けソフト開発に携わる。2000年教育コンサルタントとして独立。現場に出掛けての学校経営や授業へのアドバイスには「明日からの元気が出る」との定評があり、愛知県を中心として、全国の小中学校や自治体から応援を求められている。また、NPO法人「元気な学校を支援し創る会」理事として「教師力アップセミナー」「愛される学校づくりフォーラム」を通して実践に役立つ情報の共有化・見える化に注力している。