愛される学校づくり研究会

桜梅桃李を愛す

★今回から寄稿させていただくことになりました新城市教育委員会教育長の和田守功と言います。「桜梅桃李(おうばいとうり)」とは、ありのままの個々「子供の姿」です。作為的なはたらきかけによってつくられた姿ではなく、無作(むさ)の、もともと一人ひとりの子供のもつオンリーワンの命の輝きが表出された姿です。そんな姿をこよなく愛し続けていきたいというのが私の思いです。そうした考えから、タイトルを「桜梅桃李を愛す」としました。私の教育に対する拙い思いの一端を皆様方にお伝えすることができればとの思いでペンをとらせていただきます。1年間、よろしくお願いします。

【 第4回 】ふしぎな「学校伝説」

キンコンカンコン、今日も日本中の学校でチャイム音が鳴り響いています。チャイムが鳴ると、子供たちも教職員も、現在進めている活動に区切りをつけて、次の動作に移ります。1日の学校生活は、チャイム音とともにあります。1日のスタートである始業の合図から、1時間目の授業の開始、授業が終わり休憩時間、休憩時間がすんで2時間目の授業が始まるなどなど、次から次へとチャイムが、学校中どこにいても聞こえる音量で、鳴り響きます。
 日課表に定められた時間が、学校で暮らす教職員や子供たちに、チャイムによって正確に伝えられ、活動の区切りをうながします。その行動様式を何年も続けることによって、「チャイムが鳴ると動く」という条件反射が身につきます。学校生活は、チャイムによって、みごとに規律正しく運営され、集団生活が整然と進められていることに、誰も疑念を抱くことなく、学校には必要なものと信じられています。まさに、「学校伝説」です。

学校教育の目標は、「自主・自立」の「生きる力」を養うことです。教育基本法をはじめ、学校教育法・同施行規則、学習指導要領にいたるまで、教育の「めざす子供の姿」は、ここに集約されます。文部科学省の説明では、「自ら学び、自ら考え、主体的に判断し行動し、自らを律していく」ことができるよう、「自主的、自発的、自律的、主体的」な態度を養う工夫をすることが大切です。そのために、義務教育9か年をとおして、小学校45分、中学校50分の授業の単位時間を基に、年間授業時間を確保して、教育課程を実施し、実現を図ろうとしているのです。

では、教育目標とチャイムとの関係は、整合性がとれているでしょうか。答えは述べるまでもありません。「否」です。目標とする「自主・自律」と、「チャイム行動」は、相反するといっても過言ではありません。「チャイムが鳴ると動く」のは、「チャイムが鳴らないと動かない」ことに通じます。すなわち、チャイムという指示がないと動けない「指示待ち人間」を養成していることになります。にもかかわらず、日本全国、大多数の小中学校で、今日もチャイムを鳴らし続けています。騒音という公害もまき散らしながら、学校周辺の市民生活に多大の迷惑をかけています。学校が集団生活をするうえでチャイムは欠かせないという「学校伝説」は、今、見直す必要があるのではないでしょうか。

教育目標を実現するために、学校にチャイムは不要です。むしろ、百害あって一利なしといってもよいでしょう。自主・自立の人間を育てるために学習環境を工夫しなければならない学校において、チャイムは、子供の伸びる機会を奪っています。そして、教育目標の実現を阻害しています。ただちにチャイムをやめて、子供が自分で時計を見ながら考えて行動できる環境を整えたいものです。
 チャイムを鳴らしている学校と、ノーチャイムの学校を訪問してみて、どちらが時間を守って生活しているかを比べてみると、間違いなくノーチャイムの学校です。教職員の行動にしても、チャイムが鳴ってから行動していては、教室にたどり着いて授業を始めるまでに数分が経過し、単位時間も確保されているとは言いがたい状況が起こります。毎日数分の授業時間の欠落でも、年間を積み重ねれば、膨大な時間量になります。ただでさえ、授業時間数の確保が難しい時代です。「チャイム行動」ではなく、「チャイム前行動」こそが、自主・自律の人間を育むために必要な環境です。

子供や教職員の行動は、教育課程の円滑な実施のために作成された日課表に従って動いています。チャイムによって動かされるのではありません。何時何分に授業が始まり、何時何分に終わるかということは、学校生活を共にしている人間にとって、当然知らなくてはならない事柄です。知ることによって、学校生活のリズムを認識できます。「自ら考え判断する」習慣を身につけるために、もっとも身近で容易なことです。時間を大切にするために、そして、他人に迷惑をかけないために、自分がいつどのように動けばいいかを、常に考えて判断し行動しなくてはなりません。自主・自立の精神が養えるとともに、社会人として大切な「時間を守る」行動が定着します。

学校の敷地内のどこにいても「時間を確認できる環境」さえ保障すれば、ノーチャイムは、実行可能です。小学校でも、大多数の子供は、アナログ時計が読めるでしょうし、読めない場合は、デジタル時計を併用してもいいでしょう。すべての教室・廊下、体育館など施設内に時計が設置してあるか。運動場はじめ中庭、校舎裏など、外にいても大丈夫か。死角はないか。ノーチャイム環境を整えます。
 私が、平成10年に、新城市立八名中学校に校長として赴任したとき、子供たちに自ら考えて行動できるようになってほしいと願い、子供たちの力を信じて実行したことの一つが、ノーチャイムです。学校の敷地内のあらゆる場所に立って見て、時計がどこに必要か探索し、これまで無かった場所に、新たにいくつかの時計を設置しました。そして、毎週月曜日に全ての時計の時刻を合わせて、実践を始めました。最初は、とまどいもありましたが、一週間もすると、子供も教職員もノーチャイムに慣れ、以前に増して、時間を大切にして行動できるようになりました。今でも八名中学校ではノーチャイムを続けており、ふしぎな「学校伝説」にとらわれ子供たちの自主・自立の芽を摘むことなく、日々、学校生活を送っていることをうれしく思います。

(2013年6月19日)

準備中

●和田 守功
(わだ・もりのり)

人間・日本文化・日本酒(やまとごころ)をこよなく愛し、肴を求めて、しばしば太平洋に。朝一番に煎茶を飲み、毎朝、自分で味噌汁をつくる。山野草を愛でる自然派アナログ人間。現在、東三河ジオパークを構想中。自称、新城市観光広報マン。見どころ・秘所を語らせたら尽きない。
教育では、新城教育で「共育(ともいく)」を提唱し、自然・人・歴史文化の「新城の三宝」や、読書・作文・弁論の「三多活動」を推奨している。
新城市教育長をはじめ、愛知県教育委員会など教育行政に16年間携わっている。また、中学校長をはじめとして、小学校で13年間、中学校で11年間、学校現場で教職を務めてきた。