愛される学校づくり研究会

桜梅桃李を愛す

★今回から寄稿させていただくことになりました新城市教育委員会教育長の和田守功と言います。「桜梅桃李(おうばいとうり)」とは、ありのままの個々「子供の姿」です。作為的なはたらきかけによってつくられた姿ではなく、無作(むさ)の、もともと一人ひとりの子供のもつオンリーワンの命の輝きが表出された姿です。そんな姿をこよなく愛し続けていきたいというのが私の思いです。そうした考えから、タイトルを「桜梅桃李を愛す」としました。私の教育に対する拙い思いの一端を皆様方にお伝えすることができればとの思いでペンをとらせていただきます。1年間、よろしくお願いします。

【 第2回 】「新(ニュー)パワー」を賞味期限内に

新学期が始まりました。今年の小学校の入学式は、この地方では初めてのことかもしれません。澄んだ青空が広がっていましたが、桜花は、すでに散り果てて見られませんでした。それでも、真新しい服に身を包んだ子供たちが、親に手を引かれて校門をくぐる姿は、ひときわ晴れがましいものです。未来への大きな可能性のオーラが発散しており、まさに輝いて見えます。中学校の入学式でも同じです。6年生のときに不登校気味だった子供が、親に送ってもらうのではなく、自分で歩いて登校してきました。中学生になったので、過去の自分と決別して変身したいという子供のけなげな気持ちが伝わってきます。新入学のパワーです。

新担任が決まりました。フレッシュな出会いです。第一印象は重要です。入学式での校長先生のお話は、学校のイメージを強く印象づけます。楽しい学校なのか、どこにでもある普通の学校なのか、校長の話やパフォーマンスから、子供たちは、敏感に感じ取ります。また、新しい担任との出会いは、インパクトがあります。子供の話を真剣に聞いてくれる先生なのか、口ではいいことを言っても心の冷めた先生なのか、面白いか、やさしいか、厳しいか、運動好きかなど、全身を耳目にして探査します。その結果、自分の、担任への対応の仕方や学級集団での身の処し方を判断していきます。ある意味、微妙なバランスと緊張関係のなかで、時間が過ぎてゆきます。

新しい学校、新しい学年、新しい教室、新しい担任、新しい級友、新しい時間など、「新しい」ものには、パワーがあります。場所や組織が「新しい」というだけで、また、時間が「新しく始まる」というだけで、人の心に明るい光を射し込み、リセットしてやり直そうという活力を生み出します。この「新パワー」といえるものの活用は、教育にとってきわめて有効です。ただ、「新しい」ものは、すぐに劣化して古くなるという厳しい現実があることも忘れてはなりません。

「新しい」の賞味期限内に使用しないと、効果はなくなります。では、賞味期限内に何をすべきかが肝心です。まずは、人間関係づくり・信頼関係づくりです。教育用語で、「子供の目線で」とか、「子供と正対して」とか言いますが、それは、単に形式や態度を言うのではなく、教師の心のありようを言っているのだと思います。教師がこまやかな心遣いで子供の心に寄り添って考えているかどうかです。子供は、教師の心を見ぬく「超能力」を備えています。したがって、教師が一人ひとりの子供に心底からあたたかいまなざしを注いでいるか、それにふさわしい行動をとっているかがポイントです。子供が担任に対して心をひらくようになって、初めておたがいの関係づくりがスタートします。担任自身の人間性とともに、担任の心根を反映した教室環境も大きな影響を及ぼします。一輪挿しの山野草、水槽で泳ぐ魚、黒板に書かれた担任の言葉かけ、掲示された子供の作品への心配りなど、子供は五体で担任という人間を評価しています。

「新しい」うちに「良好な学習集団」をつくらなくてはなりません。学校・学級は、集団で生活し、集団で学ぶ場所です。一人であれば、わがままや自分勝手も許されますが、集団ではルールが必要です。おたがいの権利を尊重するためには、おたがいに守るべきルールに従うという義務を果たさなくてはなりません。授業の準備、始業の着席、発言や話を聞くときの約束、言葉づかいなど、集団に必要な「しつけ・習慣」を共通に認識していることが重要です。教師によっては、学級づくり・授業づくりは1年かけてと言われる方がみえますが、本当でしょうか。賞味期限内の4月・5月の間に大枠ができない学級は、半年かけても不可能だと思います。必死になって賞味期限内に形づくろうとする担任の情熱が、短期間で「良好なる学習集団」を形成しようとする機運を子供のなかに生み出します。その意味では、6月ぐらいに、授業研究会や公開授業を設定して、そこを目標として学級づくり・授業づくりをすることが効果的であると考えます。それが可能になれば、教育用語でいう「主体的に学ぶ」子供たちが育っていきます。

「新パワー」の活用は、教育現場では常に求められることです。前年踏襲や前例準拠では、マンネリと停滞が生まれます。目の前の子供が変わっているのに、教材の切り口や教具、授業展開や学習活動が同じなどということはありえません。子供に即して常に「新しさ」を感じさせる授業を創り出していきたいものです。また、新しい一日の始まりである「朝の会」の持ち方、新しい週の始まりである「月曜集会」や「週初の活動」ではモチベーションを高める工夫が必要です。「新パワー」に目を向け、常に創造的に取り組むことは、子供の心を動かす有効な手だてです。

(2013年4月15日)

準備中

●和田 守功
(わだ・もりのり)

人間・日本文化・日本酒(やまとごころ)をこよなく愛し、肴を求めて、しばしば太平洋に。朝一番に煎茶を飲み、毎朝、自分で味噌汁をつくる。山野草を愛でる自然派アナログ人間。現在、東三河ジオパークを構想中。自称、新城市観光広報マン。見どころ・秘所を語らせたら尽きない。
教育では、新城教育で「共育(ともいく)」を提唱し、自然・人・歴史文化の「新城の三宝」や、読書・作文・弁論の「三多活動」を推奨している。
新城市教育長をはじめ、愛知県教育委員会など教育行政に16年間携わっている。また、中学校長をはじめとして、小学校で13年間、中学校で11年間、学校現場で教職を務めてきた。