愛される学校づくり研究会

学校広報タイトル

★このコラムは、学校のホームページを中心とした学校広報の考え方について、15年以上学校サイトに関する研究を続けてきた国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)の豊福晋平氏がわかりやすく解説します。

【 第8回 】教育荒廃論が捏造される訳

学校広報を語るうえで「なぜ学校が社会から理解される必要があるのか」理由を考える事は当然ですが、さらに踏み込めば、「なぜ学校は社会からしばしば誤解されるのか」、あるいは、「なぜ極端な教育荒廃論が大手を振って論じられるのか」、そのカラクリを知っておくこともまた大切なことです。

学校生活の99%は正常かつ平穏な日常である

学校生活の大半は期初にスケジュールされた通り、比較的淡々と営まれるものです。実は、普段から教職員の細心の注意が払われているからこそ、日々の平穏(または退屈)が保たれているのは言うまでもありません。しかし、多数の児童生徒を預かる学校の性質上、どんなに予防的な対策をしようと、事件・事故・不祥事の類いを完全に排除することは出来ません。トラブルは起こるべくして起こるのです。

非日常事象はマスメディアの格好のターゲット

学校で滅多に起こらない非日常的なトラブル(事件・事故・不祥事)はマスメディアの格好のターゲットになります。マスメディアの仕事とは、身の回りでは滅多に起こらない事柄を大々的に報じる事で視聴者の関心を獲得する事にあります。
  あくまで例え話ですが、今日の学校給食のメニューがカレーであったことはニュースになりえませんが、万が一、給食のカレーが原因で食中毒100名児童搬送などと事件が起こればトップニュースになる、というわけです。

過剰報道は類似事象を次々暴露する

学校での大きなトラブルは、全国各地で似たようなケースが露見し、教育関係者はそれを知りながら不作為であった事を責められ、国や行政が対策と称して通知・指導文書を出して事態収拾したことにする、と言うのがだいたいお決まりのパターンです。
  トラブルが社会的に大きなショックを与えるものであるほど、また、原因や背景が社会的に不可解であるほど、マスメディアは各地で生じた類似事象や、トラブル背景に関するもっともらしい推測を過剰に探るようになります。その結果、類似のトラブルが全国各地で起こっていた事を暴露して、さらに騒ぎを大きくしたり、課題の隠蔽や事態放置をことさらに暴いて関係者の責任を追及したりすることで、社会正義のヒーローを気取ってみせる訳です。

非日常事象の日常化

学校・教育問題が連日のようにTVのニュースやワイドショーを賑わすようになり、教育評論家と呼ばれる人々が口々に勝手な意見を述べるようになると、視聴者は、学校では滅多に起こらない非日常的なトラブルが各地で日常的に起こっているかのような誤解をするようになります。これを「非日常事象の日常化」と言います。特に、学校の日常を知らない一般社会人(就学児童生徒の保護者でない場合)は、TVが学校に関する主な情報源となっているため、マスメディアでの扱いが当人達の認識を大きく左右してしまう訳です。
  非日常事象の日常化は、学校にとってきわめて厄介な現象です。特に、教育課題の類似事象が各地で次々暴かれるような演出がなされれば、学校の日常を知らない人ほど「全国各地で起こっている◯◯問題について、この学校は本当に大丈夫なのか?」という疑念や不信を抱きやすくなるからです。

過去の自身の学校経験との比較から教育荒廃論が誘発される

「非日常事象の日常化」現象は、さらに根拠のない教育荒廃論に繋がりやすくなります。 世の中の大人は間違いなく長い学校生活を経験しており、多くの場合、その記憶は「99%の正常かつ平穏な日常」であるからです。学校の現実を知らない一般社会人がマスメディアによる非日常事象の日常化を真に受けてしまうと、「昔はしっかりしていたはずの学校が、昨今は酷い事になっているじゃないか!」と錯誤するわけです。
  あくまで一般的な話ですが、学校の事を良く知らないシニア世代ほど現代の学校に対しては批判的な意見を持ちやすくなり、教育荒廃を嘆いてみては復古調の教育方針を押しつけたがるようになるのは、これまで述べた現象が影響していると考えてよいでしょう。

中が見えにくい学校はバッシングの対象になりやすい

学校が社会から理不尽な批判を受けやすいひとつの理由は、マスメディアの「非日常事象の日常化」影響による人々の疑念や不信に対して、それらを晴らすだけの十分な情報を提供していないからだと言えます。
  多くの学校は、残念な事にもっぱら内部の保護者や児童生徒ばかりに目が向いており、外向けの広報をおろそかにしています。学校内がよく分かりにくい状況では、マスメディアの情報や悪い噂が情報量として勝ってしまうので、「何か良からぬ事を隠蔽しているのではないか」という根拠のない不信につながりやすくなります。

つまり、日常的学校広報で「地味でベタな学校日常」を伝える事は、保護者や児童生徒のみならず、社会全般の人々に対しても、マスメディアの悪い影響を排除し、正面から正確に学校の現実を捉えてもらうために必要な営みでもあります。
  どんなに教育課題報道の嵐が吹き荒れようと、学校がきちんとなすべき事をなし、正常で平穏な日常を営んでいる事が当たり前に周囲に理解されれば、「この学校はしっかりしている」「任せても大丈夫だ」という信頼と支持の獲得につながるでしょう。

(2014年9月15日)

豊福先生

●豊福 晋平
(とよふく・しんぺい)

国際大学GLOCOM主任研究員・准教授。専門は教育工学・学校教育心理学・学校経営。近年は教育情報化 (学校広報・学校運営支援)、情報社会のデジタルネイティブ・リテラシーに関わる研究に従事。1995年より教育情報サイトi-learn.jpを運用、2003年より全日本小学校ホームページ大賞 (J-KIDS 大賞) の企画および実行委員。