愛される学校づくり研究会

学校広報タイトル

★このコラムは、学校のホームページを中心とした学校広報の考え方について、15年以上学校サイトに関する研究を続けてきた国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)の豊福晋平氏がわかりやすく解説します。

【 第17回 】ホームページだけをみて学校を評価できるか

タブレットPC・クラウド・反転教室にプログラミング学習、教育情報化の先端テーマはいつも華やかなものです。

それに対して、我が国に学校ホームページなるものが登場して今年で20年。技術的先端性などすでに失われ、一時は学校教育から忘れ去られたこのメディアが、今なお学校にとって革新的であり、かつ重要であり続ける理由とは何でしょうか?

結論を先に述べれば、学校ホームページは学校の現実を映し出す鏡であり、このメディアが社会との接点を保つことで、学校教育領域の中に閉じていた学校評価、新しいアイデアの提案、表彰といったプロセスを社会に開放しているという事です。その理由を次の4つのコンセプトで説明しましょう。

物理的制約を受けない強力なメディア

今となっては当たり前のウェブサイトの特徴をあえて述べるまでもありませんが、ひとことで表せば、従前のメディアが抱えていた物理的制約とコストの問題をほとんど取り払った、実に強力な媒体だということです。

物理的制約がない最大のメリットは、配布範囲・容量・時間の制約を受けないことです。印刷媒体の場合は、配布範囲やボリュームに応じてコストも大きくなりますし、紙幅の制限があります。ウェブサイトは様々なユーザーやニーズに直接到達しやすいうえ、相手の関心程度に応じていくらでも多様な情報提供する事が可能です。放送媒体以上に速報性が高いので、アップ・トゥ・デートな情報を即時に提供することも出来ます。

(運営上の負担はあるにせよ)ウェブサイトの運用コストはきわめて低廉です。同程度の配布範囲・容量・多様性・速報性を従前のメディアで実現しようとすれば、少なくとも数倍の費用がかかってしまいます。

つまり、学校はウェブサイトを保有するだけで、20年前のメディア環境では決して得られなかった多くのメリットを手にすることになるのです。

情報の囲い込みからオープン志向へ

情報はオープンにしてこそ価値を持つ。インターネットの普及は、その便利さ以上に情報のオープンネス(開放性)を強く志向することで、社会にも大きな影響を与えました。その解釈文脈は立場によって多様であることも特徴のひとつです。

学校ホームページには主に3つの立場が絡んでいます。第1の行政監査・学校評価の立場からみれば、オープンネスに基づいた学校ホームページ運用によって、アカウンタビリティ(説明責任)を果たすことになります。一方、第2の保護者や地域(学校関係者)側から見れば、オープンネスに基づいて学校の日常が逐次伝えられれば、安心や信頼の基礎になります。

第3の学校側は、第1と第2のニーズに応える立場です。学校広報理論でも繰り返し述べていますが、情報のオープンネス志向は、とかく後ろ向きになりがちな学校を積極的情報発信姿勢へ転換させる大きな動因となります。すなわち、学校の日常が知られていない事が学校不信の原因なのだから、何もやましい事がなければ、学校の日々の活動を正々堂々と素直に伝え、信頼を獲得すれば良いということです。

学校にとっては、まず第2の保護者や地域からの信頼獲得が初期の動機付けになりますが、情報が充実すれば第1の目的も同時に達成されます。こうして、オープン志向に基づいた学校ホームページの更新実績は、学校自身の対外的配慮や信頼獲得活動の程度を客観的に測るバロメータとして機能するわけです。

集中一括管理から自律分散へ

我が国の教育政策方針決定は、モデル提案・調査研究・実証実験・普及また広報も含め、慣例としてトップダウン型マネジメントが長く続けられてきました。トップダウン型の意思決定プロセスは一見合理的効率的に見えるのですが、その構造上の制約ゆえボトムの学校現場や関係者とは認識差が生じやすく、負担や課題のしわ寄せが生じたり、モデル普及が頓挫したりするデメリットを抱えています。

一方で、学校現場には豊富な実践知があるのに、教育政策に対して有効な提案なりフィードバックが難しい現状もあります。理由は様々ですが、これまで学校自身が社会的影響力を持つメディアを所有し得なかった事は大きな要因でしょう。

学校経営の原則は、学校の自律性と創意工夫を尊重することにあり、多くの学校ホームページ運用もまた校長にその決裁権が委ねられています。

例えば、インターネット以前の時代ならば、学校現場から生み出された知見と研究者のフィールド・ワークが直接知り合う機会など考えられない事でした。オープンなホームページによって、各地のユニークな実践が発掘され認知されるチャンスは大きく広がりました。それぞれの実践者・児童生徒、あるいは保護者や地域が自律的にメディアに関わる事で、個の集積を組織としての強みにできるチャンスを我々はすでに手にしているのです。

持続性と日常性

学校向けの新しいアイデアが普及する際の最大のハードルは、その持続性と日常性にあります。どんなに優れたアイデアであっても学校の日常に浸透しないものには価値がありません。逆の言い方をすれば、日常こそがその学校の実力であり価値であり、信頼に資する証拠になるということです。

例えば、年に数回しかページ更新しない学校が華々しく研究公開を行うケースと、研究公開自体は行わなくても学校ホームページで持続的にテーマを追跡して情報発信しているケースがあったとして、はたしてどちらの情報が信用できるでしょうか。

たとえプロジェクトの大きな予算を使っても、付け焼き刃の実践は脆く、多くは長続きしないものです。非日常のイベントは日常実践との乖離を生み、教職員や児童生徒の負担になり、少数のスター教員に対する反目を燻らせるデメリットも生じます。

一方、日常から生まれる実践には、ごまかしの効かないシビアさや大きな飛躍を許さない様々な事情が絡むものですが、長い時間を経て培われた実績には、必ず見出すべき知見が存在するものです。集積された実践記録は、その実践を詳細に知ろうとする者にとっては宝の山になるでしょう。毎日の様子を少しずつまとめて残す実践スタイル、ホームページはこのような地道な取り組みに最も向いているメディアと言えます。

条件が満たされるほどホームページと学校の現実は近くなる

これまで述べた4つのコンセプト「物理的制約を受けない強力なメディア」「オープン志向」「自律性の尊重」「持続性と日常性」は、いずれも「学校ホームページが学校の現実を映し出す鏡となる」条件です。どの要件が欠けても学校に関する情報信頼性は担保されません。

仮に「ホームページだけをみて学校を正確に評価できるか」問われれば、先の4条件を満足するほど掲載情報と現実との乖離は小さくなるので、おそらく可能という結論になります。

つまり、監査や視察というコストのかかる手段を経なくても、オープンにされた学校情報の蓄積に基づき、広範囲のステークホルダが学校の実績評価に関わる事が可能になったわけです。これは学校経営が地域運営学校を志向する流れのなかにあっては、かなり画期的な事だと言えるでしょう。

では、従前とは違った方法で、ボトムアップで各地の学校から提案された事例を発掘・表彰するような仕掛けを作るとすればどのようにしたら良いでしょうか?それらについては、次回以降述べることにしたいと思います。

(2014年11月25日)

豊福先生

●豊福 晋平
(とよふく・しんぺい)

国際大学GLOCOM主任研究員・准教授。専門は教育工学・学校教育心理学・学校経営。近年は教育情報化 (学校広報・学校運営支援)、情報社会のデジタルネイティブ・リテラシーに関わる研究に従事。1995年より教育情報サイトi-learn.jpを運用、2003年より全日本小学校ホームページ大賞 (J-KIDS 大賞) の企画および実行委員。