愛される学校づくり研究会

学校広報タイトル

★このコラムは、学校のホームページを中心とした学校広報の考え方について、15年以上学校サイトに関する研究を続けてきた国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)の豊福晋平氏がわかりやすく解説します。

【 第1回 】学校広報は学校宣伝ではありません

新しいコラム連載を担当する国際大学GLOCOMの豊福です。かれこれ15年以上学校ホームページに関する研究を続けてきた立場として、学校広報に関していくつか重要なポイントを解説したいと思います。

学校広報は古くて新しい言葉です。日本国内で広報(public relations)は宣伝(promotion)とほぼ同義で使われているので、児童・生徒募集を行わない学校にとっては関係ない世界だと思われる方も多いのではないでしょうか?また、宣伝には、物事を誇示して相手に印象付けるというイメージがありますから、誠実さや実直さを求める学校教育にはふさわしくないと考える方がいらっしゃるかもしれません。しかし、それらはどちらも間違いです。

学校広報の定義とは「学校と利害関係者(ステークホルダ)との間で十分理解し合い、友好的な協力関係を築くために行う活動」(D. M. Bortner 1972) です。利害関係者(ステークホルダ)には、児童生徒・保護者はもちろん、教育委員会から住民まで広い範囲の人々が含まれます。つまり、一方的な情報伝達のための告知・宣伝というよりは、むしろ、相互の関係形成・維持が求められているわけです。

こうした学校広報の概念が生まれたのは1930年代の米国です。
 世界恐慌後の緊縮財政では学校教育もコストカットにさらされ、各地で教科削減や教員のレイオフが行われた結果、多くの学校は運営上危機的状態に陥ることになりました。それまで、学校は教育の意義や成果を社会に説明することに熱心ではなかったので、施策決定を行う議会や住民投票に際して十分な説得を行う事ができず、予算削減を阻止することができなかったのです。また、1960年代は公教育の荒廃が社会的問題となり、学校は再び厳しい批判にさらされることになりました。こんにちの米国での学校広報は、教育委員会に有資格の広報専門官が在籍するケースも多く、学校教育の動向や成果を効果的に広め、理解を得る活動を戦略的に展開しています。

ひるがえって、今の日本の現状について考えてみましょう。
 児童生徒の保護者はもちろん、周囲の住民の方、あるいは広く社会一般の人々から学校は正しく理解されていると言えるでしょうか?残念ながら、学校は社会からの強い不信と批判にさらされており、教職員の側からみれば、しばしば理不尽で見当外れな事柄も多いでしょう。マスコミの先導で教育荒廃のイメージが広がり、教育現場を良く知らぬ政治家が「教育再生」などと吹聴するに至っては、教育関係者に対する侮蔑以外の何物でもありません。
 一方で、学校は社会からの批判を恐れるあまりヤマアラシのような姿勢になってはいないでしょうか。対外的な関係は管理職がやることだから、教育委員会がやることだから、と他人任せにし、学校の情報を表に出さず、守りの姿勢を強めるほど、周囲はかえって不信を募らせてしまうでしょう。

我々は教育を預かる者として、現場で最善を尽くすことはもちろんとして、同時に社会からもその意義や成果を正当に評価されるよう努める必要があります。もし、社会の正しくない評価が教育の制度や体制を歪める事態が生じれば、結局、一番の痛手を被るのは未来を担う子どもたちだからです。
 学校広報の定義に立ち返れば、学校が利害関係者とどのような協力関係を形成・維持するかという問題は、学校経営上の最も大きな課題のひとつであり、管理職はもちろんのこと教職員全員が組織的態勢を問われる問題です。学校が周囲からどう見られたいのか、学校は社会からどう評価されたいのか、まずそれぞれの立場から考える事が、学校の社会的な存在価値を高め、ひいては学校教育が社会から正しく理解・評価されることにつながってゆくでしょう。

(2012年5月28日)

豊福先生

●豊福 晋平
(とよふく・しんぺい)

国際大学GLOCOM主任研究員・准教授。専門は教育工学・学校教育心理学・学校経営。近年は教育情報化 (学校広報・学校運営支援)、情報社会のデジタルネイティブ・リテラシーに関わる研究に従事。1995年より教育情報サイトi-learn.jpを運用、2003年より全日本小学校ホームページ大賞 (J-KIDS 大賞) の企画および実行委員。