愛される学校づくり研究会

★新教育コラム「出会いこそが教師をつくる」開始にあたって

 だれしも、教師人生に変化をもたらした、心に残る出会い(人、物、出来事など)があるといいます。このコラムでは、その出会いについてリレー方式で語っていただきます。

【第18回】感動が人を動かし 出逢いが人を変える
〜岩倉市教育委員会 指導主事 小川 康夫〜

私の好きな言葉に、あいだみつをさんの「感動が人を動かし 出逢いが人を変える」があります。教師という職業がら、これまで子供たちから感動をもらい心動かされる体験をたくさんしてきました。また、最近では地域の方から感動をいただくことも多々あります。先日も、見ず知らずのおばあさんとそのご家族のご厚意に助けられ、心暖かな言動に胸を熱くし、私もあのご家族のように人に親切にしていきたい、しなければならない・・・と心打たれた出来事がありました。まさしく、感動は人の原動力となります。
 一方で、出逢いによって人生観が変わることも沢山ありました。一人一人の職員のことをよく理解し、個に合った課題を与え、上手に能力を高めてくださったり、厳しい言葉の中にも深い愛情をもって御指導くださったり、理想の上司としたい素敵な先輩方。そして、とりわけ、正木孝昌先生(元筑波附属小学校教諭)との出逢いは、教師としての見識や力量を向上させる大変大きなものでした。こうした人との出逢いが人生を変えるといっても過言ではなく、常に出逢いを大切にしてきました。そんな中、私が出逢った子供たちを紹介したいと思います。

担任をしていた頃、学級開きの折などに、集団としての在り方について子供たちにメッセージを送ってきました。その際、直接メッセージを伝えるのではなく、子供たちが自ら気づいたり、考えたりできるような工夫をしていました。様々な試みをしてきましたが、ある年は次のようなことをしました。

教師からのメッセージとして、右図のようなものを見せました。そして、個々にそのメッセージを読みとってきてもらいました。
 すると、子供たちは次のような読み取りをしてきました。

教師からのメッセージ
  • 「ゼロ」だと思いました。ゼロからのスタートだから、気持ちを新たに、みんなで手に手を取り合って、頑張っていこう。
  • 「丸」だと思いました。どんなことも丸がもらえるような、よいクラスにしていこう。
  • 「丸」だと思いました。でも、きれいな丸ではなくゆがんだ丸なので悩みました。今は、みんな出逢ったばかりで、きれいな丸ではないけれど、これからいろんなことに力を合わせて頑張って、きれいな丸にしていこう。
  • 「輪」に見えました。みんなで手に手を取り合って、大きな輪を作っていこう。
  • 「輪」に見え、「輪」から「和」をイメージしました。みんなで仲良く和やかな楽しい学級にしていこう。
  • 史が好きなので、一揆の時の連判状を思い出しました。丸は書かれていると丸だけれど、どこかから書き出さないと書けません。みんなで丸を作るために、一人一人が自分から取り組むことが大事だから、人任せにしないで自分から行動しよう。
  • 白い大きな紙に書かれた、小さな丸が「種」に見えました。○年○組という大きな畑に、今、小さな種をまいたところだと思いました。みんなでこの種を育てていこう。そして、種を育てるのには、毎日、水やりをしたり、肥料をやったり、大変なことがあるけど、毎日休まずに力を合わせて育てていこう。

学級では、一人一人の考えを聞きながら、「なるほど!」「そんな考えもあったね」と感心したり、「そう考えると、さらに・・・・と考えられるね」と友達の考えを発展させて考えたり、学級集団としての考えは、より広く・より深くなっていきました。
 同じものからも受け取るイメージは異なるし、考えることも様々であることを共通認識しました。子供たちも「これまでに経験したことや環境も違うから当然だよね」と、納得の言葉を口にしていました。そこで、谷川俊太郎さんの詩「心の色」を味わいながら、自他の「心の色」に敏感であり、大切にしていくことを誓い合いました。

授業としてはこのような流れで行ったのですが、この子供たちが個々に読み取ってきたものには驚かされました。ここまで深く考えられるものかと…。私が当初考えていたものより遥かに多様な視点で、より深く考えられたものばかりでした。
 この子供たちとの出逢いにより、私は改めて子供たちの素晴らしさに心打たれました。そして、子供たちの秘めた力の素晴らしさに心洗われると共に、こうした子供たちを教え育てる教育の場にいる責任の重さを再認識しました。

それ以降、授業でも学級経営でも、これまで以上に子供の内なるものを大事にし、そして如何に引出し、どのように伸ばすべきかを常に考えるようになりました。
 今も、日々多くの方と出逢い、価値観を揺さぶられながら、多くの感動から新たな原動力をいただき続けていることに感謝しています。
 そして、「出逢いは全てベストタイミング」、出逢いは、すべて必然性があり、必要な時に必要な人と出逢うといわれます。
 この子供たちとの出逢いも教師人生の中でおそらくベストタイミングであったと思います。そして、私と「愛される学校づくり研究会」の皆さんとの出逢いもベストタイミングだと思います。こうした出逢いを大事に日々精進していきたいと思っています。

(2014年2月10日)

出会いこそが教師をつくる

●小川康夫
(おがわ・やすお)

岡崎市にて教員生活をスタートし19年目。専攻は算数・数学。その後、大口町・江南市・岩倉市の小中学校に勤務し、現在は岩倉市教育委員会指導主事。平成19年度から2年間、兵庫教育大学教職大学院に派遣され、学校現場から離れた視点から教育を見つめる機会を得る。この間、正木孝昌先生、佐藤真先生といった多くの師と出逢い、見聞を深めた。中学校勤務中はバスケ部顧問として、県公認審判を通して、ミニバスから実業団まで審判活動を通して、様々な分野の方と交流したことが、今でも財産になっている。