愛される学校づくり研究会

★新教育コラム「学校マネジメント考」開始にあたって

 管理職には、特に「学校マネジメント力」が必要であると言われるようになりました。ところが、愛される学校づくり研究会の中で「学校をマネジメントするとは具体的にどういうことか」ということを話題としましたが、お互いになかなか明確に示すことができませんでした。
 そこで、それぞれが考える「学校マネジメントの具体例」をリレーで示しながら、考えを深めていくことにしました。皆さんからもご意見をいただきたいと思い、いわば研究会の内部資料ですが、その公開もかねて、この教育コラムを始めました。

学校マネジメント考【6】 
 ― 春日井市立味美中学校長 堤 泰喜

全日本中学校長会が発行している冊子『中学校』NO.691に、たいへん興味深いコラムがありました。宴会料理をデリバリーしたり、企業が行うイベントやホームパーティーなどの会場で、実際に調理して提供したりする“ケータリングサービス会社”である「レストランサンイチ」の二代目社長、石塚剛氏が書かれたものです。
 石塚氏は、企業を経営するにあたり、ピーター・ドラッーカー氏の提言にある、「マネジメントのあるべき姿」を、ご自身の大きな指針にしているそうです。以下がそれですが、これらは「学校にもあてはまるな」と私は思いました。

<マネジメントの7つの役割>

1. 『人間』に関わること → 人の強みを生かし、弱みを無意味に
   経営資源の「人・物・金・情報」の中で、最も重要なのが「人」の生かし方。「2つ以上の強みが1つの弱みを消す」というように、強みを伸ばすことを重点にしている。
2. 人と人との『関係』に関わること
   組織の成果は「人と人との協業」の度合いによって、大きく左右される。「俺のいうことを聞いていればいいんだ!」という上司がいては、組織の業績は上がらない。
3. あらゆる組織の人間の仕事について『共通の価値観と目標』をもつこと
   共通であるがゆえに、価値観や目標を決める段階に積極的に関与する、ということが大切。最終決定権はリーダー(社長)にあるが、自分の価値観と180度違うものであれば、社員にとって、それがストレスの源泉になる。
4. 組織と成員を『成長』させること → 組織は『学習と教育のための機関』
   その組織で、学習の機会があるかが大切。そこで働くことで学ぶものがもうない、とか学習や経験の場が与えてもらえないという組織であれば、働く意味がない。
5. 異なる技能と知識をもった人たちが『意思の疎通』をし『個人の責任』を感じること
   自分にないスキルや知識をもった人は尊敬できる。さらに、自分と違う価値観を持った人と付き合うと、大きな気付きがある。価値観のぶつかり合いもあるが、お互いが“アドバイザー”のようなスタンスで関わることが大切。
6. 成果の評価基準は利益ではなく、関わるすべてが重要。常に『評価・測定』できるようにすること
   目先の成果だけを評価対象にすることを「結果主義」といい、成長レベルまで含めた評価を「成果主義」という。 「目立たないけれど明らかに成長していること」を見つけて評価することが大切。
7. 成果は常に外部(=顧客)の満足で図ること
   「自分の顧客がこれだけ満足している」ということを証明するためには、「顧客の声」を積極的に集める必要がある。

1について

「人」を生かすことは、組織マネジメントの根幹にかかわると思います。言い換えれば、「組織の構成員一人ひとりの能力を最大限に発揮させる」ことは学校マネジメントの要諦だと思うのです。「人」を生かすには、教職員の努力の過程や成果を“誠意”をもって賞揚し、「やる気」を高めるとともに、組織の一員としての所属感や成就感を持ってもらうことが何より大切だと思っています。また、教職員の建設的な意見や提案は、それが子どものためになるならば、どんな小さなことでも積極的に学校運営に取り入れ、教職員一人ひとりに「学校を創っていく責任ある一人」という当事者意識・参画意識を持ってもらうことも、校長の大きな役割だと思っています。そうしたマネジメントは、とりもなおさず、「学校力」の強化につながると思います。
 また、マネジメントの一つである校務分掌は、とかく「役割範囲が不明確」「負担が不均等」「マンネリ化」等に陥りやすいのですが、私は、旧来の組織にこだわらず、適材適所の配置やミドル層(改革のキーマン)を各分掌のリーダーにあてるなど、組織を大胆に組み替えて、効率化・活性化を図りたいと考えています。平成24年度に向けて、構想を練っているところです。平たく言えば、教職員を「チーム」として仕事に向かわせ、「全員野球」をやるということです。もっと言えば、「忙しい人」と「ヒマな人」をつくらないことを心掛けたいと思います。

2について

「協業」とう言葉は、学校現場では「協働」「協働態勢(体制)」という言葉としてよく使われます。協働態勢確立のための基礎は、やはり、教職員の好ましい人間関係です。幸い、私が勤める学校においては、この点については極めて良好です。生徒指導で何か問題が起きたときも、学年の“島(教育界でよく使われる言葉)”をこえて、職員が一丸となって対応してくれます。職員室のコミュニケーションの“キーマン”は何と言っても教頭ですが、私は常々、「職務と勤務には厳しく、人間関係には温もりのある職員室づくり」「風通しのよい職員室づくり」に心を砕いてほしい!とお願いしています。

3について

学校を「組織体」として運営していく上で最も大切なことは、「学校がどのような目標に向かって進んでいくか」、すなわち、校長の学校づくりの構想や経営ビジョンを、教職員・保護者・地域に明確に示すことだと思います。これは、年度初めに必ず行っていることです。もちろん取り組むべき目標はいろいろあるので、“優先順位”も示します。
 現在、愛知県下では、「教職員評価制度」が試行されています。賛否両論はありますが、私はこれを積極的に活用したいと思っています。教職員一人ひとりに「学校の進むべき目標」に向けて自分は「何をやりたいか」「何をやるべきか」を考えてもらい提示してもらいます。仕事は、「やらされている」という意識があるうちは、多忙感・疲労感が鬱積します。逆に、どれだけ大変な仕事でも、自分の意思(意志)で自ら進んで主体的に取り組めば、徒労感には繋がりません。 また、この教職員評価制度の中で、私が教職員個々と「面談」をする際には、時として、「あなたには、ぜひこのことを頑張ってほしい!」という“ミッション”を提示し、経営に積極的に参画するよう要請しています。

4について

教職員の資質向上・力量向上のために、校内教職員研修(本校では「現職教育」と言っています)を行っています。 昔からよく言われる言葉に「教師は現場で育つ!」があります。OJTは、まさに基本です。職員全体で人間的に成長できたら、こんなに幸せなことはありません。
 私は、校内教職員研修のポイントで、管理職として意識していなければならないは次の5つだと思っています。

  • 「研修の方向の原点は子どもである」という認識のもと、学校の抱える教育課題の解決を図るような共通テーマを設定し、全教職員が課題意識を持って取り組むようにする。
    (本校では、今年度「ICT活用」と「協同学習」をテーマにしています。)
  • 研修計画の作成、研修時間の確保に努め、研修に必要な資料や情報を整備する。
    (例 昨年度、職員室に「道徳コーナー」を設けました。)
  • 専門的な知見を得ている外部講師の招聘などにより、教職員の意識改革を図る。
    (来年3月には中京大学教授の杉江修治先生にお越しいただきます。)
  • 授業研究では、画一的な一斉指導から、子ども中心の授業への転換を図る。また、授業公開を積極的に行う。
    (教科だけでなく、総合的な学習の時間を「AJIYOSHI TIME」と題し、問題解決的な学習を展開しています。)
  • 本音で語り合う風土や、好ましい人間関係の中で「切磋琢磨」し合う雰囲気を校内に醸成していく。
    (良い意味での競争やライバル意識は大切です。)

5について

意思の疎通を図ることは大切です。常に、学年間・校務分掌間などの“水平的なコミュニケーション”や“ボトムアップアップ”的なコミュニケーションの充実を心がけねばと思っています。そのための手立てとして、小さな学校ですので、職員室ではなく、校長室に職員全員が入り、まさに「膝をつき合わせて」「肩を寄せ合って」話し合う場を、年に数回持っています。また、週に1回行う運営委員会(学年主任が出席)も大切にしています。
 しかし、「自分はこう思う!」「だから皆にはこれをやってもらう!」という“トップダウン”も、時には必要かなと も思っています。

6について

成果がなかなか見えないのが学校教育です。しかし、成果は、可能な限り目に見える形で外部に提示(成果を数値化して公表)していくことが、今後の学校マネジメントの課題だと思っています。
 「成果の見える化」の手立てとして、今年度、「愛される学校づくり研究会」で“小刻みの学校評価”を学びました。これは、タイムリーに数値化でき、発信できるので、今後も活用していきたいと思っています。また、今までは、1年間というスパンで実施していた学校評価の「Plan→Do→Check→Action」というマネジメントサイクルを、なるべく短めにし、「たとえ年度の途中であっても、変えるべきは変える!」という考え方を教職員に浸透させていきたいと思います。

7について

本校では、年に一度、「地域懇談会」を行っています。地域の区長・民生児童委員・保護司・少年補導員などの地域住民や本校保護者が一堂に会して、平日の夜に地域のホールで行います。私の「基調提案」の後、学校や生徒の現状や課題についての意見交換をします。実に様々な意見が出ます。違う分野で人生を送ってきた人はそれなりの人生観や良識をもっています。また、教育に関して素人であっても、“素人だからこそ正しいこと”がたくさんあります。ですので、とても参考になりますし、情報収集の基本かなと思います。また、こうした会に出ると「説明責任」の大切さも痛感します。
 情報化・デジタル化の時代だからこそ、「生の声」は実に重みがあり、切実に伝わってきます。今後もこうした取組を大切にするとともに、私自身、校長として「オープンマインド」を持ち続けていきたいと思っています。

(2011年11月7日)

学校マネジメント考

●堤 泰喜
(つつみ・たいき)

1984年教員生活スタート。教諭19年(中学校11年・小学校8年)、春日井市教委指導主事3年、 教頭2年を経て、現在、春日井市立味美中学校長2年目。学生時代は、男声合唱団に所属していたが、 現在は全く音楽とは無縁の生活。熱狂的な「巨人ファン」で、プロ野球のテレビ観戦でストレスを解消し ている。