愛される学校づくり研究会

★新教育コラム「学校マネジメント考」開始にあたって

 管理職には、特に「学校マネジメント力」が必要であると言われるようになりました。ところが、愛される学校づくり研究会の中で「学校をマネジメントするとは具体的にどういうことか」ということを話題としましたが、お互いになかなか明確に示すことができませんでした。
 そこで、それぞれが考える「学校マネジメントの具体例」をリレーで示しながら、考えを深めていくことにしました。皆さんからもご意見をいただきたいと思い、いわば研究会の内部資料ですが、その公開もかねて、この教育コラムを始めました。

学校マネジメント考【4】 
 ― 小牧市教育委員会 石川 学

前回の中林先生が目標について書かれましたので、「(1)現状を把握する」、「(2)原因を特定する」に続いて、「(3)目標を設定する」を主にして「(4)手段を企画する」もからめて考えてみます。

岡本薫氏は、「『目標設定』について重要なことの第一は具体性である」と主張しています。「生きる力」や「確かな学力」は目標ではなく、スローガンであり、手段であるとの主張です。さらに、目標には「検証可能性」「測定可能性」が必要であるとも主張してみえます。これらのことは、中林先生が書かれたことと同じであると考えます。

さて、小牧市においては、不登校の発生率が全国と比較しかなり高いこと、外国籍児童生徒数や日本語教育を必要とする児童生徒数がかなり多いことなどに対応するため、特に配慮を要する児童生徒に対して、学校復帰を促す指導、基礎学力や日本語を身につけさせる指導など対処療法的な指導にかなりの勢力を費やしてきました。そうした指導に効果がなかったわけではありませんが、それらの課題が大きく改善するには至りませんでした。そこで、それらの予防的な指導として、子どもたち同士で認め、認められる、あるいは高め、高められるような互いに関わり合う学習や活動を取り入れた授業づくりをする「学び合う学び」を市内の全小中学校で実践するようになりました。それにより少しずつではありますが、その成果が結果となって表れてきています。この小牧市の目指す「学び合う学び」については、平成22年度のものではありますがこちらを参照ください。

この「学び合う学び」は、目標かと問えば、目標ではありません。学力向上や不登校の減少、外国籍児童生徒の学校適応などに対応するための手段であり、小牧市の小中学校のスローガンです。ここで気をつけたいことは、この手段、スローガンのみに目がいき目的化してしまい、それができればよしとされることが目標 になってしまうことです。こうしたことは、小牧市でも少なからず課題になっていることです。

また、この「学び合う学び」を手段とする目標である「学力向上」や「不登校の減少」などは、標準学力テストの結果や不登校の発生率などにより、「検証可能」であり「測定可能」ではあります。しかし、これも問題がない訳ではありません。それは、学力が向上したり、不登校が減少したりしても、それは、本当に「学び合う学び」という手段によってもたらされた結果であるかということです。おそらくそれのみではなく、他の要素も作用しあってそうした結果になることの方が多いと考えます。つまり、手段が明確に結果に結びついたかどうかの検証は、非常に難しいということです。

さらに岡本氏は、「達成目標を決めるときに、すべての子どもたちが身につけるべきことと、それ以外のことを区別すること」とも主張しています。
 この主張である「すべての子どもたちが身につけるべきこと」と「それ以外を区別する」を、学力向上という目標で考えると、学力テスト等の問題の中で「全員ができなければならない問題」と「全員ができる必要はない問題」とを区別し、それを盛り込んだ問題を作成し、それで評価・検証するということになります。これも現実的には、なかなかうまくいかないものだと考えます。全員ができなければならない問題を何問配列させるかという課題が あったり、そうした問題を数問配列したとしても結果はなかなか考えたようにはならないという課題があったりするものです。教師が考えたような結果に極力近いものになるためには、子どもたち一人一人の学力の状況をしっかり把握していなくてはならないし、そうした結果に近づけるための教師の授業力にもかなり左右されることも事実であると考えます。

ちなみに、英国 の学力テストの問題は、「すべての子どもが100点をとらなければならない問題」のみだそうです。これがよいかどうかは、私個人としては、はなはだ疑問ではあるのですが、こうした出題の仕方もテストの種類によっては必要であるとも考えます。

ここまで岡本氏の主張をもとに2つの観点で「目標設定」について考えました。最後にどこの学校にもある学校経営案の「教育目標」についても考えてみます。

教育目標の中には、「基礎学力」「豊かな心」「たくましい身体」といったことばが並んでいることがよくあります。これらは目標というよりもスローガンの要素が強いため、各校での重点努力目標のようなもの、つまり検証可能なより具体的な目標にする必要があります。このときには、どんな子どもたちにしたいのかより具体的な姿で示すことが大切であると考えます。そのことが教師も子どももどうなるとよいのかイメージとして描きやすく、検証可能性も高まるはずです。これらのことは、学校評価の実施が法制化された中で、各校が学校評価に取り組むための一つの視点であり、よりよい学校へと改善を図るための大切な要素であると考えます。

(2011年9月5日)

学校マネジメント考

●石川 学
(いしかわ・まなぶ)

現在、愛知県小牧市教育委員会学校教育課長。1981年に教員となり、小牧市内の中学校で、数学、特活、進路、生徒指導に邁進。2000年から4年間市教委指導主事を務め、生徒指導、いじめ・不登校対策、外国人児童生徒教育、英語教育など多方面に尽力。中学校長を務めた後、2010年より現職。幼稚園1園、小学校16校、中学校9校の計26校園の教育活動の支援をしている。