愛される学校づくり研究会

★新教育コラム「学校マネジメント考」開始にあたって

 管理職には、特に「学校マネジメント力」が必要であると言われるようになりました。ところが、愛される学校づくり研究会の中で「学校をマネジメントするとは具体的にどういうことか」ということを話題としましたが、お互いになかなか明確に示すことができませんでした。
 そこで、それぞれが考える「学校マネジメントの具体例」をリレーで示しながら、考えを深めていくことにしました。皆さんからもご意見をいただきたいと思い、いわば研究会の内部資料ですが、その公開もかねて、この教育コラムを始めました。

学校マネジメント考【3】 
 ― 津市立倭小学校長 中林 則孝

シリーズではありますが、前のお二人とは別の観点から述べることをお許しください。

学校にはマネジメントが必要です。そのことには誰からも異論はないでしょう。
 しかし、日本人はマネジメントという発想はなじみにくいと言われています(マネジメントに相当する日本語がないらしい)。
 今日の震災や原発を巡る政治や行政の混乱を見ていると、確かに目標とそれを達成する手段が合理的に議論されているとは思えません。教育においてもマネジメントという観点での議論が行われたとは考えにくいのです。たとえば、小学校における外国語活動は学習指導要領に記されている目標すら教育関係者の共通の認識となっていません。そもそも、評価できるような具体的な目標でないと、マネジメントができません。
 日本では多くの場合、理念やスローガンが強調され、その結果検証がほとんど行われていません。そのことに疑問を持つ関係者は多くはないようです。これも学校マネジメントという発想が日本に定着していないからでしょう。

しかし、学校教育の責任の大きさを考えるとき、学校にはマネジメントは必要です。
 学級担任は実は(学級)マネジメントを日常的に行っています。子どもたちを一定の学力水準まで引き上げるために、教科書を使うなど様々な指導方法を駆使します。そして形成的な評価を行います。その結果を受けて(これが現状把握ということができる)、必要に応じて指導方法を変えます。このことを45分の授業の中で行うし、単元を通しても行います。(文書化することはないが)PDCAという観点での分析を日々行っているのです。それが担任としての主な仕事です。

では管理職の立場では学校マネジメントをどう考えたらいいのでしょうか。あえて言うと、学校マネジメントにおいてPDCAは無理だと私は思います。学級では可能なPDCAなのに、なぜ学校マネジメントでは無理なのでしょうか。
 学級担任が、授業を通して子どもたちの学力向上という目標に向けてPDCAを作成するとします。その場合、実践も、評価も、さらに目標の変更も、基本的には担任の意向が強く反映されます。つまり、担任の考えがPDCAに貫かれています。
 しかし、学校全体のマネジメントを考える際、全職員がPDCAで足並みをそろえることが可能でしょうか。細かいことに限定しても簡単ではありません。玉置先生の「現状把握」、小西先生の「原因特定」を読むと、その難しさが分かります。
 民間人校長として実績のある藤原和博氏は「学校をマネジメントするチカラ」を主たるテーマにした360ページもの分厚い書籍を世に問うています(『校長先生になろう!』日経BP)。そこには「マネジメント」という言葉は無数に出てきますが、PDCAという記述は見当たりません。細かいPDCAはあるのでしょうが、著書に書くことができるような骨太なPDCAは無理だと思われます。

岡本薫氏のマネジメントに関する著書は何冊か読みました。主張については納得するばかりです。しかし、岡本氏の主張するPDCAを学校マネジメントとして行うことには違和感があります。無理があると思えるのです。学校の現状も、目標も、あまりにも多岐にわたっていることが主な理由です。
 大事なことは明確な目標に向かって学校が動き出すことです。目に見える改善を進めることです。それが学校マネジメントの本来の姿です。
 藤原氏は「教育現場におけるすべての決定は校長の教育哲学に基づいたものだ」という意味のことを書いています。この「哲学」が明確で具体的であれば、それに伴う学校マネジメントは現実味を帯びてきます。
 つまり、学校マネジメントに必要なことはPDCAではなく、校長として今の学校をどう改革するのかという「哲学」です。

現任校で私は2年目です。私の教育哲学の一つは「学力向上」です。学力向上のための具体策としてはTTや少人数学習、補習などの手段があります。
 私は「分かりやすい一斉授業」こそが学力向上に寄与すると考えています。そのためには、「ICTを活用」することです。研究授業などの特別なことに必要以上に力を入れることよりも、ICTを活用して日々の授業を充実させること。これが私が考える学校マネジメントです。
 もう少し具体的に説明します。毎日使えるICT機器。それは大型テレビと実物投影機です。大型テレビはすでに各教室に配備されています。私がすることは、実物投影機をすべての教室に常設すること。それが済むと、実物投影機の活用についてのミニ研修会を行うこと。これが赴任後、2カ月の間に行ったことです。
 次にHPと学校便りに、「ICTを活用した授業の具体的な実践」を載せました。第一義的には保護者への発信ではありますが、同時に職員が見ることをも想定したコンテンツにしました。他のクラスではどのように実物投影機を活用しているのかを、HPや学校便りを通して学ぶ仕組みを作りました。
 また、よいセミナーには日課を変更してでも、全教員が参加しました。また、他校から研修会の講師の依頼を受けたときは引き受けるとともに、何人かの職員が模擬授業を行いました。
 こういった取り組みは、職員の授業技術を向上させることになり、それが子どもたちの学力向上につながります。
 ここにはPDCAというシステムは使っていません。しかし、明確な目標を持ち、それを具現化するための方策をいくつも準備し、無理なく進めることが、学校を元気にしていったことを実感しています。学校マネジメントがうまくいったといえるのではないでしょうか。
うまく進めるためのポイントは職員が納得できる形を取ることです。職員が納得できなければ、校長のリーダーシップが強くても学校現場はなかなか動きません。
 「機器の常設化」は楽に毎日使えます。実物投影機はパソコンを使わないので、立ち上げの時間はかからないし、フリーズすることもありません。そういった教育環境を整えたあと、教室での実践をHPなどにとりあげることを、1年間を通して継続的に行いました。

これが私が考えるところの、学校マネジメントです。あえて言うと、職員が納得できる学校マネジメントです。
 具体例は、津市立倭小学校津市立太郎生小学校 (閉校になったがHPの閲覧は可能)のHPを見ていただけると幸いです。
 実を言うと、勤務校の「今」を書くのは、辛いものです。実態と違ったことは書けないし、誇張したことも書くわけにはいきません。ここに書いたことはすべて事実です。それを学校マネジメントという観点から考察しました。

(2011年8月1日)

学校マネジメント考

●中林 則孝
(なかばやし・のりたか)

1951年生まれ。津市立倭小学校校長。一輪車が小学校に普及し始めた頃、練習を継続すれば大半の児童が一輪車に乗れるようになることを知り、「練習量が、ある時、質に転化する」ことを実感する。その後、「デジタルとアナログの両面で子どもを鍛える」実践を進める。校長となった今も、担任時代のスタイルを踏襲し、補欠の授業に入れば子どもに作文を書かせ、それをほぼ毎日発行の「学校便り」に載せている。講演を聞きながらタイピングできるという特技を持つ。