愛される学校づくり研究会

★このコラムでは、「愛される学校づくり研究会」で発表された実践を掲載します。

【第3回】研究委嘱を学校づくりに生かす
 〜扶桑町立扶桑中学校長 野木森 広〜

学校経営に携わる者にとって、研究委嘱を受けることのメリットは大きい。少なくとも、研究に向けて何かしようと、職員の意識がまとまるだけでも学校力の強化につながる。研究内容そのものに関する成果もさることながら、研究の過程で生まれる連帯感や学校への信頼など、副次的な効果も大きい。
 本校は、平成21年度、愛知県教育委員会から「学校と家庭で共に進める情報モラル教育推進事業」の委嘱を受けた。ここでは、副次的な効果である「情報発信の充実」「学校評価の充実」「研究体制の充実」「地域連携の深まり」について述べる。

情報発信の充実

「学校と家庭で共に進める情報モラル教育推進事業」は、愛知県教育委員会が平成21年度の重点目標として掲げた情報モラル教育に関する施策の一環である。県は情報モラル教育啓発サイト「iモラル」を開設して、県内すべての小中学校で情報モラル教育を行う1000校プロジェクトを推進した。県内に5校ある委嘱校はその中核として情報モラル教育の実践を行い、それを「iモラル」に掲載することを求められた。

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これを機に、本校では、ホームページをブログ形式のものに変えた。ホームページでは、「iモラル」へのリンクを貼るとともに、保護者向けのネットモラル教材である「アニメでわかるネットモラル(保護者向け)」を閲覧できるようにした。これらの取り組みは、情報モラルに関する保護者への啓発という直接的な効果のみならず、ホームページによる日常的な情報発信という副次的な効果をもたらした。情報モラル研究に関する記事を掲載した学校通信の発行などを含め、本校の情報発信は飛躍的に充実した。

学校評価の充実

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情報モラル教育の研究を行うためには、まず、生徒と保護者の実態を知る必要がある。また、研究の成果を評価する必要がある。そこで、研究の前後に、全生徒・全保護者を対象にアンケート調査を実施した。調査の方法としては、SQSを使用した。

そして、これを機に、これまで抽出調査で行っていた学校評価アンケートを全数調査に切り替えた。つまり、研究推進における全数調査の必要性と、SQSを使った調査のノウハウが、学校評価アンケートを全数調査へと切り替えるきっかけとなったのである。
 全数調査は学校評価の材料を充実するとともに、より多くの生徒と保護者の学校教育に関する意識を高める。研究推進が、学校評価の質を高めるという副次的な効果をもたらしたと言える。

研究体制の充実

情報モラル教育は新しい分野なので先行実践が少ない。特に道徳の授業実践例は僅かであり、教材を開発するために何度も道徳部会を開いた。資料を自作したり、模擬授業をしたり、指導計画を練ったり、授業の反省をしたり、みんなで知恵を出し合って新しいものを作り出す過程は楽しく、職員の和が深まった。授業で使う情景画を描く者、視聴覚教材を準備する者、授業記録を取る者など、自然に役割分担が生まれ、協働体制が生まれた。

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日頃、現職教育の時間を見い出すことすら難しい中学校の教育現場において、このように教育実践について語り合うことの楽しさを味わえたことは大きい。また、道徳の教材(指導案やワークシート、情景画など)が蓄積し、必要に応じて授業に活用できる体制が整ったことは、担任にとって有益である。このような研究体制は研究終了後も充実しながら継続している。

地域連携の深まり

情報モラル教育を進める上で保護者との連携は欠かせない。それにはまず、保護者に情報社会の問題点を理解してもらう必要がある。そのためのアイディアを得るために、PTA役員を中心とする地域連携委員会を立ち上げた。  

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地域連携委員会は、情報モラル教育に関する意見交換のために数回実施した。しかし、この会はそれだけにとどまらず、職員とのスポーツなどによる親睦や懇親会にまで発展した。
 研究終了後には、この会の名称を「親子(おやじ)の会」と改め、親とともに子の教育について語り合う会として今も継続している。今年度は、ボートレースや長縄跳びなど地域行事にも参加する予定である。機会があれば、親子の有志で参加することも視野に入れている。情報モラル教育研究をきっかけに、より幅広い地域連携を模索する動きへと発展している。

(2010年9月6日)

愛される学校づくり実践

●野木森 広
(のぎもり・ひろし)

昭和55年、教員生活スタート。小学校教諭23年(内、愛知教育大学附属名古屋小学校5年)、教頭4年、平成19年度より愛知県教育委員会義務教育課指導主事として全国学力・学習状況調査を担当。平成21年度から扶桑町立扶桑中学校長。初めての中学校勤務で校長となり、新鮮な気持ちで学校経営にあたっている。専門は理科で自主研修会を開いている。日本のものづくりを支える人材を理科で養わなければならないと考えている。