愛される学校づくり研究会

★このコラムでは、「愛される学校づくり研究会」で発表された実践を掲載します。

【第1回】愛される学校づくりは 愛する学校づくりから
 〜一宮市立黒田小学校長 平林 哲也〜

校庭の樹木

どの学校にもたくさんの樹木があります。黒田小学校の校庭には、百数十本の樹木があります。その木は、クスノキのような大木もあれば、シラカシのようなドングリのなる木、サクラのような美しい花をつける木、ザクロのような実のなる木など、実に多くの種類の樹木があります。
 同じ種類であっても、全く同じ木は一本としてありません。それぞれが個性をもっています。  ……これって、学校の子どもたちと同じではないですか!

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少年の日の記憶

母校へ赴任した最初の日、私は一本のクスノキの下に歩み寄りました。数ある樹木の中から、密かに「僕の木」と定めていたあのクスノキ。今も大木ですが、40数年前、小学生であった私には今以上の巨木に感じていました。このクスノキに登り、枝に腰を下ろして目の前を走り去る蒸気機関車(すでに電化されていましたが、まだ当時は時々走っていました)を眺めるのが好きだった私。久しぶりの再会に感動を覚えました。

わたしの木を見つけよう 〜子どもたちへの仕掛け〜

3年前のクスノキとの再会にヒントを得て、今年度の始業式、全校児童に「数ある樹木の中から、自分の木(気になる木)を見つけよう!」と呼びかけました。
 すると、自分の木を探そうと校庭を歩き回る子どもたち。そして、その木に集まる昆虫、鳥の姿に気づく子どもたち。自然に対する観察眼を働かせています。子どもたちが見つけたお気に入りの木は、それぞれの子どもの「わたしの木」とすることにしました。
 今年は、名古屋で「COP10」が開催されます。「生物の多様性」を子どもたちに分かりやすく言葉で説明することは可能です。しかし、子どもたちが自分の五感を通して理解してこそ本物です。生物の多様性を「わたしの木」を通して見つめることができると思います。
 さっそく、校内の樹木をすべて写真に撮り、校長室前の廊下にパノラマ掲示しておきました。各自が選んだ木をみんなで確認するために、写真の近くの吹き出しに各自がシールを貼ります。それぞれの子にその木を選んだ理由があり、こだわりがあります。それを大切にすることで「愛着」を生むのです。(私のクスノキと同じです。)

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わたしの木を眺め続けよう 〜愛する木へ〜

子どもたちは、機会あるごとに「わたしの木」に近寄って眺めています。「四季見つけ」や「虫探し」を「わたしの木」から始める子。「写生大会」で「わたしの木」を描き込む子。「わたしの木」の性質を詳しく調べている子や観察日記を付けている子。「わたしの木」がつくってくれた木陰でたたずむ子。子どもたちと「わたしの木」との関わりがどんどん深化していきます。
 こういった機会を積み重ねていくことで、子どもたちは「わたしの木」を「いつまでも気になる木」として感じるようになるはずです。そして、「わたしの木」の成長を自分自身の成長に重ねることができれば、「わたしの木」が特別な「愛する木」へとつながってくれるでしょう。在校中はもちろんのこと、卒業しても、成人しても、親となっても忘れない「愛する木」へと。

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愛される学校づくり

だれからも「愛される学校」をつくるためには、まず、その学校が子どもたちにとって「愛する学校」でなければなりません。子どもたちが愛する学校は、保護者にとっても愛する学校になります。そして、子どもや保護者が愛する学校は、地域にとっても愛する学校となります。
 では、どうすればそれが可能になるのでしょうか。

1)学校に子どもの居場所があること、つまり「自己存在感」がもてることです。
 それを自分で見つけ出す子もいますが、見つけられない子もいます。ですから、教師は、意図的にその場を保証することが大切です。子どもたちが自分の存在を確認できる場が、多ければ多いほど学校を好きになります。
 「わたしの木」の取り組みは、木を媒介にした子どもと教師のコミュニケーション手段の一つです。「わたしの木」を通して見つけたことを共通の話題に、会話の糸口ができます。言わば、学級経営・学校経営の一つの仕掛けともなるのです。その経営がうまくいけば、子どもたちは安心して学校に通うことができ、学校を好きになります。

2)学校生活の様子を保護者に詳しく理解してもらうことです。
 理解してもらうには、そのための情報提供を惜しみなくすることが大切です。学校生活の様子を日々保護者に伝えるには、学校ホームページが大きな力と可能性を持っています。
 文書による学校広報とホームページによる学校広報それぞれの長所を活かし、できる限り学校の思いや願いを日常的に伝えることは、保護者の協力を得られやすくします。学校からのメッセージに応えてくれる保護者、地域は、学校のサポーターであり、さらにパートナーとなる可能性を秘めています。

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(2010年7月5日)

愛される学校づくり実践

●平林哲也
(ひらばやし・てつや)

一宮市内の小中学校を歴任。現在、一宮市立黒田小学校長。学校ホームページに「校長室ブログ」を毎日掲載。カメラを持って校内を巡りながら、子どもたちの日常・自然の変化をとらえて発信しています。子どもたちに、さまざまな仕掛けをすることが毎日の仕事です。