愛される学校づくり研究会

★このコラムでは、全国各地で教育の情報化に尽力されている皆さんへのインタビューを通して、情報化を推進するための肝について明らかにしていきます。情報化にかける思いや、予算獲得のポイントや学校現場での利活用率を高めるコツなど、様々な視点から語っていただきます。

【第9回】取手市編(その2)
 〜あくまでも教職員のためのシステムであることを貫く〜

*お答えいただくのは、茨城県取手市教育委員会指導主事の石塚康英さん。質問者は愛知県教育委員会海部教育事務所の玉置崇さんです。

玉置  石塚先生、前回に引き続き、お話を楽しみにしています。
 機器やソフトウェア導入に際しては、多くの自治体では組織を立ち上げて検討されますが、おそらく取手市でも同様だと思います。組織やそこでの会議の状況についてお話していただけますか。

石塚  確かに多くの自治体が組織を立ち上げて検討を行っているとは思いますが、構成メンバーひとつを取り上げても自治体ごとに様々といった印象です。学校現場の意見を十分に尊重することが大切とはいえ、予算の組み立て方や情報セキュリティーの考え方などそれぞれの事情も違いますからね。
 ただ、この事情や導入の背景などが教職員にうまく伝わっていないことが、どの自治体でもあるように思います。整備担当者が苦労に苦労を重ねた上で導入されたシステムであっても、学校現場からの評判は悪いといった事例もみられます。
 教職員の要望をそのまま取り入れることができれば評判は高まるのでしょうが、予算を含めて限られた条件の中での事業ですからね。この教職員からの要望と自治体の諸事情のバランスと、決定までの経緯に納得できることが、システム導入後の評価に直結するのだと思います。どのような世界でも落とし所を探る作業というのは簡単なことではありませんが、やはり十分に話し合うことは大切ですね。
 取手市では、教職員情報ネットワーク構築委員会を組織し、教育委員会と教職員代表者が、短期間に十数回の話し合いを行いました。教職員代表の構成は、校長・教頭・教務主任・ICT担当教師・事務職員の代表それぞれ2人ずつの計10人です。各委員には校長会や教頭会などへ委員会での協議の様子を随時報告していただくとともに、要望を聞くなどの調整を図っていだたきました。
 会議では主に校務用PCや教職員用グループウェアの仕様について協議しましたが、互いの要望と諸事情に折り合いをつけながらの実に有効な話し合いが行われました。例えば、校務用PCの仕様に関して教職員から要望が最も多かったことは何だと思われますか。これだけははずせない仕様、堂々の第1位は!ドロロロロロロロ(ドラムロール)。
それは、「一太郎を入れてほしい」ということでした。
 仕様書の中にワード・一太郎というワープロソフトを重複させることは、財政担当部局の理解を得ることひとつをとっても簡単なことではありません。しかし、一太郎を使い慣れた教職員にワードしかインストールされていない校務用PCを貸与しても、結局は私物PCの利用に戻ってしまう可能性が大いに想定され、何のために校務用PCを整備するのかもわからなくなってしまいます。協議の末、CPU等のスペックを落としてでも一太郎を仕様書に入れることが構築委員会の結論となり、十分な根拠のある要望に対して関係部署も理解を示してくれたのです。 

玉置  ありがとうございました。ジャストシステムが聞いたら泣いて喜ぶような結論(笑)ですが、導入後の稼働率を第一に考えてのことですから、協議結果はよく理解できました。実に理解がある自治体だと思います。
では、もう一つ聞かせてください。
 取手市では「家庭からの市教委へのサーバーへのアクセスを許可」しておられるとのこと。これには驚かれる自治体もあるのではないでしょうか。私は教師のことをよく分かった上でのご判断だと思いますが、どのようなお考えでどのようなことに留意して、そのようにされておられるのでしょうか。

石塚  ご存知のとおり教職員の業務は多忙を極めている上、児童生徒が学校にいる時間帯に事務的な仕事を行う時間はほとんどありません。結局、多くの教職員がノートや答案用紙などを持ち帰り、夜遅くまで自宅で仕事をしているのが実態です。ここで問題になるのは、児童生徒の成績など慎重な取り扱いを求められる仕事も教職員が持ち帰っていることです。もちろん各学校では、やむを得ず個人情報を校外に持ち出す際のルールを明確にし、電子データであればリムーバブルディスク等に保存して自宅に持ち帰っています。しかし、ルールに従っていても、紛失やウィルス感染等による情報漏洩の不安は誰もが抱えているのではないでしょうか。
 そこで一太郎の話に加えてもうひとつ、教職員情報ネットワーク構築委員会からの強い要望が「自宅でも仕事ができるようにしてほしい。それも安全に。」ということでした。そこで情報セキュリティーと利便性とを兼ね備えた製品の有無を調べたところ、USB型認証キーシステムを用いてサーバーにアクセスし、クライアントPCのメモリー上で作業を行うシステムのあることがわかりました。
 開発メーカーによればこのシステムを利用して自宅で成績処理等の仕事を行った場合、USB型認証キーを抜けばそのPCには一切のデータが残らないとのこと。早速、実現の可能性を探っての準備を始めましたが、最も大きな課題は「教育委員会サーバーへの外部からのアクセス許可」ということでした。整備担当者は苦労しましたが、教職員が個人情報を持ち歩いている現状を改善する必然性を説明するための資料等を根拠に、最終的には個人情報審議会での審議を経て、教職員の自宅からのサーバーへのアクセスを実現することができました。
 取手市が導入したシステムを利用しても教職員の仕事量自体を減らすことはできません。それでも限られた時間を有効に活用することができるため、教職員からはとても好評を得ているところです。

玉置  聞けば聞くほど、凄いことだと思います。普通なら「教育委員会サーバーへの外部からのアクセス許可は無理でしょう」で、それ以上は、話は進まないと思います。教員が安心して仕事ができるシステムであることを貫き通されている点に敬服いたします。今回もとても有意義なお話をありがとうございました。

(2011年2月28日)

我が町の情報化

●石塚康英
(いしづか・やすひで)

1986年、教員生活スタート。中学校教諭8年、小学校教諭13年。茨城県取手市教育委員会指導課指導主事4年目。専門教科は技術。現在、文科省「学校教育の情報化に関する懇談会 デジタル教科書・教材、情報端末ワーキンググループ」委員

●玉置 崇
(たまおき・たかし)

現在、愛知県教育委員会海部教育事務所長。校長、教頭時代に校務の情報化に邁進。文部科学省発行「教育の情報化に関する手引」(平成21年3月発行)の執筆者の一人。現在、「学校教育の情報化に関する懇談会」委員。
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