愛される学校づくり研究会

★このコラムでは、全国各地で教育の情報化に尽力されている皆さんへのインタビューを通して、情報化を推進するための肝について明らかにしていきます。情報化にかける思いや、予算獲得のポイントや学校現場での利活用率を高めるコツなど、様々な視点から語っていただきます。

【第4回】江戸川区編
 〜全小中学校(106校)の通知表を一気に電子化〜

*お答えいただくのは、江戸川区教育委員会指導室指導主事の赤津一也さん。質問者は愛知県教育委員会海部教育事務所の玉置崇さんです。

玉置  まずは江戸川区の校務の情報化の状況について簡単に紹介してください。

赤津  江戸川区では生徒用として平成16年度に全中学校33校のパソコン教室に40台のパソコンを配備しました。また、児童用として全小学校73校には平成20年度にパソコン40台の配備を終えています。
 遅れていたのが、校務用のパソコン配備で、各校につき2台の配備に留まっていました。多くの先生方がパソコンを使うために順番待ちするという事態が生じていました。一方で私物のパソコンを7割近い教員が持ち込んでいるなど、校内の情報セキュリティの面でも様々な課題があったため、教員1人1台のパソコンが必要なことは明白でした。
 また、校務にかかわる情報を電子化し、共有できるようにすることで、同じ内容を何度も手書きで転記したり、その都度文書を作成したりする手間を省くことができ、業務の効率化が図られると考えました。
 そこで、平成20年度の教育委員会の組織改正に伴い、学校のICT化を含め、小中学校の教育施策を一手に引き受ける係として教育推進課に計画調整係を新設し、平成20年度末までに教育委員会と小中学校間のネットワークを構築し、全小中学校106校、約2,700人の教職員に校務用パソコンを配備しました。
 また、校務の効率化を図るため、併せて校務支援システムも導入しました。
 平成21年度から全校で、連絡掲示板や個人連絡メール、予定表などのグループウェア機能、出席簿、いいとこみつけなどを積極的に活用しながらシステムの効果的な運用を進めていきました。それと並行して操作研修も繰り返し、実施しました。
 システムを統一すると区内全校の統計等もとりやすくなるので、保健機能も江戸川区用にカスタマイズして平成22年度から全校で活用しています。
 さらに、平成22年度から全小中学校一斉に通知表を電子化するとともに、指導要録の一部をデジタルデータとして保存することも行うなど、校務の効率化を一層進めています。

玉置  注目したのは、「学校のICT化を含め、小中学校の教育施策を一手に引き受ける係として教育推進課に計画調整係を新設」されたことです。「こういうことをやりたいので、この係に」という発想ではなく、組織改編があったとはいえ、教育ビジョン実現のために組織まで新たに作られたわけですから、施策実現への勢いが違うと思うのです。
 ところで、平成22年度は全小中学校(106校)が一気に通知表を電子化したとのことですが、これまでの道のりはさぞかし大変だったのではないでしょうか。他の自治体の方が大いに関心を寄せられるところだと思います。どのようなステップや取り組みを通して実現されたのでしょうか。

赤津  平成22年度から全校で通知表を電子化するため、まず平成21年度に、小中学校21校をモデル校に指定し、先行して通知表の電子化を試してみました。
 従来の通知表は、各学校で作成しており、表紙や学校の教育目標が異なりますし、修了証の有無、所見欄を手書きにしたいなど、電子化を実施するにあたり、各校から様々な要望がありました。同じ学校でも学年によっても違っています。
 あらゆるパターンの要望をできる限り吸い上げるため、学校・教育委員会事務局の担当係・システムの導入業者の間で、時間や労力を惜しまず、何度となく、やり取りを重ね作成していきました。成績のデータベースと連動したパーツを自由に組み合わせることができる校務支援システムを導入したことで、全校一律の形式ではなく、最終的には各校なりの特色を出した通知表を1学期末に無事に完成し、子どもたちに渡すことができました。
 通知表を完成させるまでには、新しい取り組みをすることになります。システムを理解し、操作することへの負担感があり、先生方からは様々な声をいただきました。特に学期末が近づくにつれ、学校からの問い合わせも増え、教育委員会事務局の担当係・システムの導入業者の両者でタッグを組み、放課後の時間帯にも即に対応できる体制を整え、先生方を支援してきました。1学期が終わり、夏季休業に入ると、モデル校から「出席簿と通知票における出欠の表記を連動させることはできないか」、「共有できるデータをもっと有効活用することができないか」など前向きな問い合わせも増え、活用が徐々に浸透してきている実感をもちました。通知表の作成という大きな山を1つ乗り越えたことで、先生方にも達成感をもっていただけたものと思っています。
 平成22年度に入り、全校通知表の電子化に向けて、区内をいくつかの地区に分け、モデル校とモデル校以外の学校が、情報を交換し、共有する機会を設けました。モデル校の実践を踏まえ、本区の担当係・システムの導入業者が段取りをつかんでいたため、早めに学校とのやり取りを始めました。21校から106校への通知表の電子化は、不測の事態も想定していましたが、思っていた以上に順調に進み、無事全校で通知表を電子化させることができました。
 全校展開が成功した要因として、21校をモデル校に指定したことが挙げられます。当初は、10校をモデル校として指定する予定でしたが、新しいことを始めるため、もう少し校数を増やそうということになり、最終的に21校で取り組みました。今回、大きなトラブルもなく、全校で通知表が電子化できたのも、ある程度まとまった数の学校をモデル校とし、実践したことで、実際に近い課題を把握し、事前に対応できたからだと考えています。
 また、モデル校21校の校長先生方の理解と協力があったことも欠かすことができません。通知表は指導要録と違い、様式は各学校に任されています。その意味では、学校独自で斬新な様式をとることもできます。しかし、システムの枠組みに一定程度合わせていただくと、今までの様式と全く同じという訳にはいかない部分もでてきます。様々な課題がありますが、通知表を電子化することは学校経営を変えるチャンスだと捉えていただき、学校のリーダーである校長先生が積極的に職員に働きかけてくださいました。そのお陰で現在があると思っています。さらにモデル校から近隣のモデル校以外の学校へ情報を提供していただけたことで、次年度は自分たちの学校も取り組まなければならないという意識がモデル校以外の学校にも自然と芽生え、徐々に心構えや準備が整っていたからだと考えています。

玉置  全小中学校数が106校あるとはいえ、21校をモデル校にしたとお聞きしたときには、正直びっくりしました。これまで私が見聞きしてきた例では、モデル校は小中学校でそれぞれ1・2校程度です。他の自治体であれば「それほどの数をモデル校として大丈夫なのか」という意見も出てくるのではないかと思いますが、21校にされたのは、実に戦略的なことだったわけですね。21校から吸い上げられたシステムや運営上のノウハウ、トラブル例は相当数だったと思います。その把握と真摯な対応があってこそ、翌年度に一気に106校の電子化が進んだのだと改めて思いました。「モデル校数が大きな鍵となる」という重要な知見を提供いただきありがとうございました。

(2010年9月13日)

我が町の情報化

●赤津 一也
(あかつ・かずや)

1996年、教員生活スタート。中学校教諭11年。教務主任時代に学校LANや通知表の電子化を経験。江戸川区教育委員会事務局指導室指導主事4年目。専門教科は数学。

●玉置 崇
(たまおき・たかし)

現在、愛知県教育委員会海部教育事務所長。校長、教頭時代に校務の情報化に邁進。文部科学省発行「教育の情報化に関する手引」(平成21年3月発行)の執筆者の一人。現在、「学校教育の情報化に関する懇談会」委員。
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