愛される学校づくり研究会

★このコラムでは、全国各地で教育の情報化に尽力されている皆さんへのインタビューを通して、情報化を推進するための肝について明らかにしていきます。情報化にかける思いや、予算獲得のポイントや学校現場での利活用率を高めるコツなど、様々な視点から語っていただきます。

【第2回】群馬県太田市編(その2)
 〜現場の声を聞き続け、その声を大切にすること〜

*お答えいただくのは、群馬県太田市教育委員会指導主事の伏島均さん。質問者は愛知県教育委員会海部教育事務所の玉置崇さんです。

玉置  第1回目では、太田市が今の状況となったのは、教育委員会の中で、「この校務支援システムの配備は、絶対に必要だ。教職員の校務の効率化が、子どもへ還元され、税金を有効に使う費用対効果のある投資であることを精力的に説明したことが大きい」と言われました。
 とはいえ、スムーズに事が運んだわけではないと思います。相当な苦労があったのではないでしょうか。このようなやり取りがあったとか、このような資料を作成したとか、無理のない範囲で具体的に示していただくことはできないでしょうか。

伏島  はい、まずは、市の情報化整備の遅れについて説得しました。国や県の教師用パソコン整備状況、高速インターネット接続状況、校内LAN工事完了状況などです。合併前の旧太田市の学校は、これらの整備が遅れていました。次に、整備することによって、「授業改善」「教職員の業務の効率化」が実現できることを示すため、先進地区や教育センターの研究資料、群馬県教委動向などの資料を用意しました。
 今回のポイントは、ハード面の整備だけでなく、校務支援システムというソフト面の整備も同時に行ったという点です。教師用パソコン整備等と同時にグループウェアとして校務支援システムを導入することを予算担当課へ依頼しました。学校教育担当課から予算担当課へソフトの選定について提案したわけです。
 今回の整備にかかわる予算確保については、副市長の「先生方の仕事の多忙をなくしていこう」という方針のもと、学校教育担当課と学校施設予算担当課が協力して、財政担当課に折衝し、説明し、市の情報整備計画の中に位置づけられ、一気に、情報整備ができたことは、トップの考えと、関係各課の協力があったからこそだと思います。

玉置  なるほど。副市長の「先生方の仕事の多忙をなくしていこう」という言葉には涙が出ますね。やはりトップの姿勢で事は大きく前進すると言うことですね。地道な説得が理解を生んだのだと思います。
 もう一つお聞きします。2番目のポイントとしては、「校務支援システムで対応できるよう管理規則の範囲内で、 市のルールを改善していったことだ」と言われました。
 この改善にあたっては、例えば特別な委員会を立ち上げられ検討されたのでしょうか。 おそらく今後、どの市町村においても同様な課題が出てくると思いますので、この経緯についてお聞かせいただきたく思います。

伏島  はい、「校務支援システム活用検討委員会」という委員会を立ち上げて、運用方針を検討しています。その説明をするにあたり、太田市の校務支援システム導入経過を紹介しておきましょう。
 平成19年度に群馬県版校務支援標準システムが選定されたのを機に、太田市がモデル市として協力することになりました。平成19年度末に、旧太田市の小中特別支援及び藪塚の2小学校の計33校へパソコンと校務システムの一斉整備を行いました。新規876台(本務者県費負担教職員分)の整備です。流れは、以下のとおりです。

  • 平成20年1月 校務支援システム導入説明会実施(管理職・担当者対象)
  • 平成20年4月より 33校の校務支援システム稼働
  • 市内モデル校として希望した小学校3校(太田小・韮川小・宝泉小)、中学校3校(東中・城西中・城東中)に依頼して、グループウェア機能に加え、出席簿、通知表・指導要録・調査書の先行実践を行う。
  • 校務支援システム検討委員会を立ち上げる。(9月と2月の年2回、成果と課題の整理と情報共有)
  • 5月 学校事務軽減検討委員会でも校務支援システム説明
  • 6月 市情報主任者会での説明会
  • 9月24日 学校経営に活かす校務システム講演会(管理職・中核教諭対象)(講師:東京女学館小学校長 三原徹 先生 、エドウェルシニアコンサルタント 下村聡 氏)
  • 12月 残り10校(合併時PC本体整備済)へ校務支援システム整備、グループウェア試用
  • 21年度4月より 33校通知表等帳票作成、モデル校はリーダー校として活用推進助言
  • 校務支援システム活用推進委員会を年3回開催し、細かなルールや方向性を検討
  • 教育研究所に校務支援システム研究班を立ち上げ、活用実践例の研究開始、更に、県教委からの再委託を受け、活用ガイドブックを作成。
  • 22年度 残り10校通知表等帳票作成開始


 このように、導入にあたり、学校現場がシステムの導入を納得し、スムーズに受け入れるために教育委員会事務局として様々な仕掛けを行い説明責任に心がけました。例えば、システム導入前年度には、県標準版として導入する経緯を説明したり、システム開発業者による機能の説明をする「導入説明会」を行ったりしました。
 また、導入した年の9月には、管理職や中核教員を対象とした活用先進事例の講演会を企画開催しました。「学校経営に活かす校務システム講演会」と題し、太田市のみならず県教委を通して県内市町村にも案内し参加希望者を受け入れました。
 さらに、20年度に立ち上げた「校務支援システム検討委員会」は、情報教育の世話係校長や教頭、モデル校(平成21年度からリーダー校)の代表、情報主任会の代表教諭、事務部会や養護部会の代表、事務局、関連業者から構成されています。この委員会の存在価値は大きく、トップダウン的でなく、ボトムアップ的に、校務支援システムの運用方針や共通理解を協議する場になっています。委員会での提案等をもとに、従来の出席簿の記入の手引きをデジタル化に対応したものに改善したり、通知票の印刷にかかわるトナーや用紙の補助についても市教委で充当したり、学校現場が校務システムをスムーズに活用できるための意見や考えを出し合う委員会になっています。22年度からは、学校も慣れてきたので、6月と2月の2回の開催です。

玉置  実に戦略的に取り組まれていますね。現場の声をしっかり聞き続け、その声を確実に反映されている点は、本当に素晴らしいことだと思います。だからこそ、現場が動くのですね。

(2010年7月12日)

我が町の情報化

●伏島 均
(ふせじま・ひとし)

1985年、教員生活スタート。小学校教諭5年、中学校教諭16年。群馬県太田市教育委員会事務局学校教育課指導主事5年目。専門教科は理科。研究テーマは、自然や環境。
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●玉置 崇
(たまおき・たかし)

現在、愛知県教育委員会海部教育事務所長。校長、教頭時代に校務の情報化に邁進。文部科学省発行「教育の情報化に関する手引」(平成21年3月発行)の執筆者の一人。現在、「学校教育の情報化に関する懇談会」委員。
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