愛される学校づくり研究会

★このコラムでは、全国各地で教育の情報化に尽力されている皆さんへのインタビューを通して、情報化を推進するための肝について明らかにしていきます。情報化にかける思いや、予算獲得のポイントや学校現場での利活用率を高めるコツなど、様々な視点から語っていただきます。

【第10回】取手市編(その3)
 〜教育委員会主催の研修会に工夫を〜

*お答えいただくのは、茨城県取手市教育委員会指導主事の石塚康英さん。質問者は愛知県教育委員会海部教育事務所の玉置崇さんです。

玉置  石塚先生、今回もどうぞよろしくお願いします。私がよく質問を受けることの一つに、研修のことがあります。「行政としては、システムを入れても、その稼働率が低いようであればとても困ります。どのような研修をしておられますか」といった質問です。この質問をそのまま石塚先生にぶつけたいと思います。いかがでしょうか。

石塚  市の事務事業を検証することや検証結果をもとに改善を図っていくことへの考え方については、教育委員会と教職員との間に温度差を感じることがあります。継続的に予算を確保してくためにはその結果が極めて重要であり、結果によっては即廃止!の時代であることを、先生方がどれだけ真剣に捉えているのか分からなくなるのです。
 例えば、文部科学省が毎年実施している「教育の情報化の実態等に関する調査」には、教員のICT活用指導力を調査する項目があります。自己評価ですから「辛め」「甘め」の評価はもちろんあるとは思います。しかし、ある事業では「ICT活用でわかる授業の実現」を目指して予算を確保しているわけです。年度当初から事業内容を啓発し、研修支援等を積極的に実施しても、年度末に学校から「ほとんど活用できない」の回答がそのまま教育委員会に提出されると・・。教育委員会勤務1年目にはそんな調査結果を見て頭が真っ白になりましたし、各校で苦手意識の強い教員に個別の研修を実施した上で、せめて「あまりできない」にでもしてくれればいいのにと、思わず考え込んでもしまいました。ただ、この「ほとんどできない」と回答する教員がいるという現実は重く受け止めましたし、改めて研修等による支援体制を充実させていくことの重要性を痛感し、その後の事業に活かすことはできたように思います。
 現在、取手市ではICT活用教育に関する会議や研修会は年間に5回実施しています。5回のうち3回は各校の推進役となるICT活用推進委員向けの会議と授業研修会。そして残り2回が、ICT活用を不得意と感じている教員向けの研修会です。この研修会、以前は参加者の推薦を学校に一任していたのですが、現在は前年度の「教育の情報化の実態等に関する調査(教員のICT活用指導力)」結果を参考にした上での推薦を依頼しています。家庭でも普通にコンピュータが活用されている時代ですから、教育委員会主催の研修会の在り方にも工夫が必要です。取手市では、リーダー教員の育成と不得意な教員への支援に対象と内容を絞り込むことで、研修の効果をあげているところです。
 ところで、ICT活用を不得意と感じている教員の多くは、特に授業内での機器操作に不安を感じています。途中でコンピュータが止まってしまったらどうしよう、といった不安感がICT活用を消極的にしている要因でもあるのです。この不安感は、いくら研修会に参加してもなかなか解消するものではありません。そこで取手市で活躍しているのが平成19年度から業務委託による配置を開始したICT活用支援員です。授業支援や校務システム活用支援を中心に、平成22年度は2人の支援員が年間のべ300日間の業務を実施し、学校から好評を得ているところです。
 このように取手市では、研修会の工夫とICT活用支援員による個別支援によって、教員のICT活用指導力とシステムの稼働率を向上させています。

玉置  ICT支援員配置もされておられるのですね。システム導入だけに心を注いでおられないことに感服しました。また教育委員会と教職員との間に温度差を感じたことはICT活用に限らず、私も何度もあります。先生のように、これが実態として真摯に受け止め、次の手を打つことですね。
 また、教育委員会内においても、グループウェアがしっかりと位置づけるためにルールを決めておられるとお聞きしました。これも自治体には大いに参考となると思います。ぜひお教えください。

石塚  以前お話ししたように、導入した校務用グルーウェアを活性化する鍵は教育委員会にあるように思います。教育委員会が「すべての文書をグループウェアで送る」姿勢を明確にすることで、教育委員会と学校にとって必要不可欠なシステムになるのです。そのためには教育委員会内で各課の連絡調整を図っておくことが極めて重要です。送付元は別の課であっても、学校からすれば教育委員会というひとつの組織からの文書です。
 また、文書受理簿にも反映されるシステムとなっていますから、形式が不統一では学校からの信頼を失いかねません。そこで取手市では各課の代表による話し合いを行い、文書発送のルールを常に共有しています。例えば、公印を省略した上で必ずかがみ分を添付すること、通知や依頼、報告といった分類を統一することなど、打合せの中で作り上げていったルールを互いに守りながらシステムを運用しているところです。

玉置  石塚先生には、3回にわたり、とても詳しくお話をしていただけました。学校での情報化を進めるために教育委員会はどのような姿勢であるべきかがよく分かりました。ありがとうございました。

(2011年4月4日)

我が町の情報化

●石塚康英
(いしづか・やすひで)

1986年、教員生活スタート。中学校教諭8年、小学校教諭13年。茨城県取手市教育委員会指導課指導主事4年目。専門教科は技術。現在、文科省「学校教育の情報化に関する懇談会 デジタル教科書・教材、情報端末ワーキンググループ」委員

●玉置 崇
(たまおき・たかし)

現在、愛知県教育委員会海部教育事務所長。校長、教頭時代に校務の情報化に邁進。文部科学省発行「教育の情報化に関する手引」(平成21年3月発行)の執筆者の一人。現在、「学校教育の情報化に関する懇談会」委員。
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