愛される学校づくり研究会

黙さず語らん

★このコラムは、「小牧市教育委員だより」での副島孝先生(前小牧市教育長)の発信を楽しみにしておられた皆さんからの要望で実現しました。「これまでのように学校教育や現場への思いを語り続けてください」という願いをこめて「黙さず語らん」というタイトルにしました。

【 第62回 】後期の大学授業に挑戦

大学も後期(正式には秋期)が始まっています。後期は教職希望の学生相手に、ゼミ形式で3,4年生に学級経営論、4年生には授業基礎論が始まりました。学級づくり、学級経営については、池田修氏が学級担任論として実践しておられます。ただ、主として小学校教員養成を念頭に置いているようで(だからこそ学級担任論)、中学校高校の教員養成の本学では少しアレンジが必要です。

この分野では以前から、参考になる実践や文献が多くあります。加えて近年、横藤雅人氏の「織物モデル」(野中信行・横藤雅人『必ずクラスがまとまる教師の成功術!』学陽書房)や中学校対象の堀裕嗣氏のブログや著作(『学級経営10の原則100の原理』学事出版)など、参考になる実践や研究が蓄積されています。これらに私自身の実践経験なども加味して、15回のシラバスにまとめました。

今頃になって気づくのは学生に申し訳ないのですが、教員採用試験の面接のメインはこの分野なのです。形式的な面接練習やありきたりの回答を覚えて、よしんば合格しても、教職についたら途方にくれることでしょう。できれば後々まで役に立つ試験準備にしたいと考えています。

さて、授業基礎論の方は、むしろ簡単だと考えていましたが、とんでもない勘違いだったと気がつきました。教育実習か塾での講師アルバイトくらいしか経験のない学生に、15回で何を学んでもらうか、これは大問題です。現場の教師ではありません(毎日授業をしている現場の先生方に対して「こういうやり方が考えられますね」と提案しても、なかなか納得してもらえないのですから)。

基礎技術だけにしぼるのも一つの方法です。それならやりやすいですし、学生にも納得してもらいやすいでしょう。はじめは、話し方、指名の仕方、板書法、ノート指導など、教師に必要な基礎技術を15回に分け、基本を教え、実習させれば良いと考えていました。基礎技術は必要です。それさえも身につけていないのなら、教員免許状を持っていても素人と何ら変わりません。

でも、それだけで良いだろうかと考えてしまったのです。新任の教師が途方にくれるのは、基礎技術がおぼつかないということだけでしょうか。この教材でどう授業を組み立てるのか、説明中心で生徒はボロボロ落ちていく授業で良いのか(この点に関して、さすがに授業を受けている側の学生たちの問題意識は高い)、とりあえず成り立つ授業方法は、などについて触れないで良いのだろうかということです。一応のシラバスは作りましたが、最後まで自転車操業が続きそうです。

授業の意味もよく理解できていない上に、しかも教科内容に関する浅い知識だけで、多くの新任教師は出発しています。どのような知識と技能と経験が必要なのか、学校現場でも合意が形成されているとはとても言えません。対象が学生だからこそ、試行錯誤しながら、そして学生自身の意見も聞きながら、一応のカリキュラム15回が終わった時点ででき上がれば、それはそれで参考になるものではないかと考えます。

手始めに、教育実習時の研究授業のビデオを使っています(ビデオ撮影を許可していただいた実習校の先生方ありがとうございました)。たぶん教室の後ろからでないと許可が出ないと思い、教室の後ろから撮ったものです。生徒の表情が見えないのは残念ですが、実習生の授業だけあって(笑)生徒の反応や教室の雰囲気は推測できます。

どうして生徒の反応が良くなかったのか、なぜこういう雰囲気になったのかなどを取り上げながら、授業構成や指導技術の問題を取り上げ、議論や実習を組み合わせていく予定です。時おり私の関わった授業のビデオを見せると、言っていることが納得できるようです。学級経営と授業は、車の両輪にたとえられます。この2つを同時期に教えられることは、ラッキーだと感じています。

(2012年10月15日)

副島 孝

●副島 孝
(そえじま・たかし)

1969年から教員生活をスタート。小学校教諭11年、中学校教諭(社会科)10年、小牧市教育委員会指導主事、小学校の教頭校長や愛知県教育委員会勤務を経て、小牧市教育委員会の教育長を2001年から2009年まで8年9か月務めた。小牧市教育委員会のホ−ムページで「教育委員だより」、郷土文芸誌「駒来」に「乱読日録」を連載するなど、原稿に追われる毎日であった。2009年4月から2年間、名古屋大学教育学部大学院で、教育方法学を学んだ。授業実践と研究の両方の楽しさ厳しさを知る立場から、現在は愛知文教大学教授を務めるかたわら、小中高等学校での現職教育の支援をしている。