愛される学校づくり研究会

黙さず語らん

★このコラムは、「小牧市教育委員だより」での副島孝先生(前小牧市教育長)の発信を楽しみにしておられた皆さんからの要望で実現しました。「これまでのように学校教育や現場への思いを語り続けてください」という願いをこめて「黙さず語らん」というタイトルにしました。

【 第58回 】二次試験に向けて面接指導

夏休みのはずなのに、こんなに次から次へとやらなければいけないことが出てくるのかと、ちょっとうんざりするような日々です。でも、教職をめざす受験生にとっては、この時期は1次試験の結果が出て、すぐに始まる2次試験に向けて追い込みの時期なのです。一時より倍率が下がったとはいうものの、教員採用試験に合格することは容易なことではありません。しかも、現役の学生ならば、なおさらです。
 私の勤めている大学でも、ここ数年は1次試験を突破するのも難しいという状況だったようです。本年度は、複数の学生が1次試験合格をもらいました。数年前から本格化した採用試験対策の成果が現れてきたのかもしれません。そこで、OBの1次試験合格者も含めて、教職担当教員による2次試験向けの特訓が始まりました。私は主として、面接試験対策の担当です。

実は、4月から面接の指導を担当してきました。面接の指導といっても、実際の面接の受け方だけを4月から続けられるはずはありません。実は、答え方に派生する教職に関する認識について指導してきたのです。その際に参考になったのが、『教師になるには』(成田喜一郎監修、長瀬拓也編著、一ツ橋書店)です(読んだ直後に長瀬さんとお会いするという予期せぬ機会も訪れました)。同書には教師になることを目標にするのではなく、教師になって何がやりたいのかを目標にするべきだと書かれています。当然といえば当然ですが、大切な視点です。なること自体が目標なら、なった時点で目標は達成されたことになります。そんな教師には、誰も魅力も期待も感じないでしょう。

面接練習やそのための準備作業として、「なぜ教師になりたいのか」「自分自身の特性をどうとらえているか」「さまざまな教育問題についてどう考えるか」などについて考える中で、次第に教職に対する認識を作っていくのです。ただ現役の学生ですから、実態の認識が甘いことは確かです。しかし、実際に講師を勤めている受験者に比べれば、甘くなるのは仕方ないと、私は考えています。
 教育実習や学習支援のボランティア経験くらいしかない学生が、さも教育現場を理解しているような言い方は避けるべきだというのが、私の判断です。そうではなく、現場には学生には理解しきれない困難さがあるだろうが、現在の私の立場ではこう考えるし、周囲と協力し学びながら取り組んでいきたい、という言い方が望ましいのではないかと考えているのです。つまり、面接指導をしながら、教職に対する認識を確かなものにする手助けをしているわけです。

これが最善の方法なのか、よくわからないまま指導しているので、学生にとっては迷惑かもしれません。しかし、単に合格することだけが目標の指導ではなく、たとえ面接指導とはいえ、教職に就いた後にも役立つものでありたいと考えています。夢見ていた教職に就いて何ヵ月かで行き詰ってしまう例を聞くことは、決して珍しいことではありません。それよりも、なった後にも力になる指導をしたいのです。
 そうすれば、たとえ今年の採用試験では結果が出なくても、講師をしながらでも挑戦する姿勢を持ち続けられるのではないかと期待しているのです。望ましいかどうかは別にして、多くの講師の存在なしには維持できないのが学校の現実です。それなら、学校教育の一翼を担う講師を続けながら、採用試験に挑戦し続ける姿勢を育てることも意味あることではないかと考えています。

一方で椅子の座り方から教えながら、片方では教職に就くということの意味を自覚してもらおうという、いわば二兎を追っているわけです。後期には授業の基本を教える予定です。正規採用か講師としての採用かに関わらず、子どもたちの前に立ちたいと考えるのなら、授業の基本は身につけていなければ困ります。また、せっかく就いた教職から脱落していく例を見ると、最大の原因は思うような授業ができず、子どもとの関係が壊れていくことにあります。教育実習の経験しかない学生に、何をどこまで伝えるべきか、考えることは尽きません。

(2012年8月20日)

副島 孝

●副島 孝
(そえじま・たかし)

1969年から教員生活をスタート。小学校教諭11年、中学校教諭(社会科)10年、小牧市教育委員会指導主事、小学校の教頭校長や愛知県教育委員会勤務を経て、小牧市教育委員会の教育長を2001年から2009年まで8年9か月務めた。小牧市教育委員会のホ−ムページで「教育委員だより」、郷土文芸誌「駒来」に「乱読日録」を連載するなど、原稿に追われる毎日であった。2009年4月から2年間、名古屋大学教育学部大学院で、教育方法学を学んだ。授業実践と研究の両方の楽しさ厳しさを知る立場から、現在は愛知文教大学教授を務めるかたわら、小中高等学校での現職教育の支援をしている。