愛される学校づくり研究会

黙さず語らん

★このコラムは、「小牧市教育委員だより」での副島孝先生(前小牧市教育長)の発信を楽しみにしておられた皆さんからの要望で実現しました。「これまでのように学校教育や現場への思いを語り続けてください」という願いをこめて「黙さず語らん」というタイトルにしました。

【 第34回 】免許更新講習研修でバテバテ

私にとってこの夏最大のイベント、教員免許更新講習が終わりました。認定試験の採点も含めて、まる4日間は相当ハードで、1日目が終わった時は「これで後3日間ほんとうに体が持つだろうか」と不安になったほどです。1日正味6時間を4日間(受講者にとってはもう1日必要です。ご苦労様)は、準備や手直しや採点を含めると本当によくやれたと感心するほどです。

必修の初日は、予想通り重苦しい沈黙の中で始まりました。お互いに知らないし、小・中・高・特別支援学校と勤務先も専門教科も異なります。年齢も30代から50代で、経験年数(数年の講師経験しかない人もいました)も様々です。県外からの参加者もいます。最初の時間は、免許更新制全般の背景に関しての解説を別の担当の先生がされました。講習の背景を知れば知るほど、納得が行かないという表情の先生もみえます。
 さて、2時間目からは私ともう一人の先生(研究者)が担当です。当初の予定通り、模擬授業をメインに、ポイントポイントで関連する必修事項を解説するという方法です。どうしても組み込めない必修事項は、別に独立させたコマで取り扱うことになります。午前中は伝統的な机配置(2列ずつ縦に前向き)で始めました。模擬授業は、これならどんなメンバーでも絶対に夢中になると経験上自信のある、仮説実践授業のある授業書を使いました。

案の定、1問目から 興味を抱いたことが見て取れます。予想は見事に分かれます。しかし、結果への反応は控えめです。「子どもなら、ここは拍手の出るところです」と言うと、遠慮がちな笑いが起こります。2問、3問と進めてから、なぜ正解が多いと想像される問題ではなく、間違える人が多いと思われる問題を第1問としてあるかを説明します。「易→難」が学習者にとってはどういうことを意味するのか、「教える側」から「学ぶ側」に立って授業を見直すというこの講習の基本目標の第一歩です。

模擬授業では、受講者は何度も何度も間違います。これも重要な体験です。ふだん教師は答えを知っている問題を子どもたちに問います。しかし、答えを知らない問題に対しては、間違えることは当然です。前の問題との類題を間違える受講者も続出です。「先生方は『これだけ説明しているのに、どうしてこんな問題ができないの』って思ったり、口に出したりしたことはありませんか」というと、笑いが起こります。「自分の頭で考えるからこそ間違えるんですね」と言うと、共感のうなずきが見られます。

午後からは、まずコの字形の机配置にしてみます。「見える教室の光景が変わりますね。他の人の表情が見えるでしょ」「前の子の後頭部を見て12年という揶揄がありますね。私たちは本当にコミュニケーションのとれる若者を育ててきたんでしょうか」と話し、学習指導要領の言語活動の充実のベースにあるものを指摘します。
 その後、グループやペアも試し、予想を立てる前に相談する体験もしてもらいました。どんどん教室の雰囲気が変わります。予想の理由を発表する人も出だします。結果に一喜一憂し、正解だと拍手や歓声が起ります。朝からは想像できないような変わりようです。2日間でなんとかそれを感じてもらえないかと考えていたのですが、予想以上のスピードで、2日目の内容を手直しする必要が生じました。学校安全や情報セキュリティなどの別枠のコマも含みながら、満足感を抱きながら必修の2日間は終わりました。

3日目から私はサブの役割で、「授業における発言の分析」が始まりました。半数ほどの受講者が必修からひき続きで、あとの半数が新しいメンバーです。授業記録を読んで、そこから授業を分析する経験を積んでいただこうというものです。始まると、必修からの人と初めての人の授業に対する受け止め方に、かなりの差のあることがわかりました。

必修の成果だと感じることもできましたが、少し修正も必要になりました。なにせ対象とした授業は、分析にたえられるように、教師の発言は少なく子どもたちの発言で進んでいく授業です。予備知識のない受講者にとっては、想像の及ばないのも無理はありません。あらかじめ何を発言するか、台本のようなものがあるに違いないと想像した人さえいたようです。何が子どもから飛び出すか、授業者にも予測できない授業なのですが(実際にそういう授業も次の日に分析しました)。

認定試験があるという心配と一日中座っているというだけの学習者体験では寂しいと思っていましたが、結構楽しみながら何かを掴んでいただけたのではないかと実感することができました。連続して受講していただいた方には、より一層これまでとは違う教育の可能性を感じていただけたようです。制度的なしばりの中でも、小さな大学ゆえに担当者と受講者が全時間を共有することで、理解の変化を(それに疲労の具合も)感じながら過ごすことができました。おかげですっかりバテました。夏休み後半は少しゆっくりさせていただきます。

(2011年8月15日)

副島 孝

●副島 孝
(そえじま・たかし)

1969年から教員生活をスタート。小学校教諭11年、中学校教諭(社会科)10年、小牧市教育委員会指導主事、小学校の教頭校長や愛知県教育委員会勤務を経て、小牧市教育委員会の教育長を2001年から2009年まで8年9か月務めた。小牧市教育委員会のホ−ムページで「教育委員だより」、郷土文芸誌「駒来」に「乱読日録」を連載するなど、原稿に追われる毎日であった。2009年4月から2年間、名古屋大学教育学部大学院で、教育方法学を学んだ。授業実践と研究の両方の楽しさ厳しさを知る立場から、現在は愛知文教大学客員教授を務めるかたわら、小中高等学校での現職教育の支援をしている。