愛される学校づくり研究会

黙さず語らん

★このコラムは、「小牧市教育委員だより」での副島孝先生(前小牧市教育長)の発信を楽しみにしておられた皆さんからの要望で実現しました。「これまでのように学校教育や現場への思いを語り続けてください」という願いをこめて「黙さず語らん」というタイトルにしました。

【 第33回 】学びの夏が始まる

今年の夏は例年とは少し違う、という方も少なくないことでしょう。復旧が進んでいるとはいえ、大震災の影響は各所に出ています。特に原発事故が起因の節電が全国で進められています。例年以上に「暑い夏」にウンザリしている人も多いことでしょう(ちなみに、我が家はほどんどエアコンを使わない家ですので、まあ例年通りですが)。

例年、夏は研究会や学会のシーズンです。大学が夏休みになるということもありますが、学校現場の先生の参加が見込まれることが、大きな理由となっています(夏だけでは開催しきれないので、秋冬の土日に行われるものもたくさんあります)。それほど多くの先生方が学ぶ季節が、夏でもあるのです。その他に、各地で研修会も開かれますので、先生方にとっては、夏こそが学びの季節となります。

基本的にフリーとなった今年は、私自身の夏の過ごし方もずいぶん変わってきました。参加する会のほとんどで、講師を務めたり、提案したりするからです。受け身でちょっとここを覗いてみようという、気楽な参加が減りました(こういう気楽な参加も、思いがけないヒントを得られたり、予期していなかった人と出会えたりと、結構楽しいものでしたが)。

まず最初の研究会が、7月28、29日に大津市で開催された東海国語教育を学ぶ会の「第13回授業づくり・学校づくりセミナー」です。いろいろな方からお話をうかがっていて、一度参加したいと考えていたセミナーです。2日目の午後にお話をというお誘いを受けての参加です。せっかくの機会ですので、1日目から参加しました。

参加者約700人という、この種の会では最大規模の会です。これだけ参加者が多いと、会場も限られますし、実りの多い学び合いができるかが心配になります。昨年まで開かれていた熱海でのアクションリサーチ研究会も300人以上の参加者で、全体会はまだしも、数多く開かれる分科会での議論が深まらないという傾向がありました(今年は学びの共同体研究会の夏季研究会として200人規模で開かれます)。

熱海でのアクションリサーチは研究者や管理職の参加者の比率が高いという傾向があったのに対し、このセミナーは西日本の参加者が多いことに加えて、学校の先生方それも学校として「学び合う学び」に取り組んでいるわけではない学校の先生方の参加割合が多いとお聞きしていました(当日お訊きしたところ、1/3弱が挙手されました)。当然、話の内容も、ふだん私が関わっている学校ぐるみでの取組に加えて、個人として実践している先生方向けの内容にも触れる必要があると考えました。

時間の制約もあり、だいぶ端折った話になりましたが、市をあげての「学び合う学び」への取組を考えた際に、上からの圧力と取られることを極力避けるために考えたことは強調したつもりです。学校をあげての実践が増えてくると、危惧される面も出現するものです。実践校の先生方はよく、「授業に対する考え方が変わった」と言われます。それが大勢に従うことではなかったならば、(仲間を増やすためにも)次の赴任校でも自信をもってその実践を継続したり、実践の意義を語れるはずです(が、現実には厳しい状況も多いのではないでしょうか)。

個人で実践するには、学校ぐるみでの実践とは比較にならないほどの、実践の質が必要となります。セミナーでも、「子どもたちが育っているからやれている」という声を何度か聞きました。一つのクラスだけで、自分の授業だけで成果を上げている先生の実践から学ぶことも必要です。そのあたりを知れば、学校ぐるみの実践がいかに意味があるかも明らかになるのではないでしょうか。

私の後が佐藤学先生の講演という、プレッシャーのかかるプログラムでした。私自身の教師としてのライフヒストリーと教育行政での経験、「学び合う学び」との関わり、そして現在学校と関わって考えていることなどをお話ししましたが、どこまで参考になったか、伝わったか、心配な面もあります。佐藤先生は実にお元気そうで、熱っぽい語り口でした。特に学びの「質」を強調していたのが、印象的でした。

夏休みも、これからが本番です。「学ぶ」教師が多数派だとは決して考えてはいませんし、「学び合う」教師はもっと少ないのではないでしょうか。だからこそ、ひとりでも多くの先生方が、「何かを教えてもらう」研修ではなく、「学ぶ、学び合う」研修を経験できたらと願っています。

(2011年8月1日)

副島 孝

●副島 孝
(そえじま・たかし)

1969年から教員生活をスタート。小学校教諭11年、中学校教諭(社会科)10年、小牧市教育委員会指導主事、小学校の教頭校長や愛知県教育委員会勤務を経て、小牧市教育委員会の教育長を2001年から2009年まで8年9か月務めた。小牧市教育委員会のホ−ムページで「教育委員だより」、郷土文芸誌「駒来」に「乱読日録」を連載するなど、原稿に追われる毎日であった。2009年4月から2年間、名古屋大学教育学部大学院で、教育方法学を学んだ。授業実践と研究の両方の楽しさ厳しさを知る立場から、現在は愛知文教大学客員教授を務めるかたわら、小中高等学校での現職教育の支援をしている。