愛される学校づくり研究会

黙さず語らん

★このコラムは、「小牧市教育委員だより」での副島孝先生(前小牧市教育長)の発信を楽しみにしておられた皆さんからの要望で実現しました。「これまでのように学校教育や現場への思いを語り続けてください」という願いをこめて「黙さず語らん」というタイトルにしました。

【 第27回 】学級づくりの基本は伝わっているか

小中高等学校でも、新学年が始まりました。私が学校にお邪魔するのは、授業研究や現職教育に参加するためです。4月から訪れる学校は、1年間の授業研究を4月中にスタートしようという学校です。めざそうとする授業の方向の確認は、早ければ早いほど効果的だとの考えからです。
 私の出かけた学校ではどこも、先生方の若返りが急速に進んでいました。中には、若い講師の先生に学級担任を持ってもらわざるをえない、という状況の学校も少なくありません。従って、学級づくりについてもお話しすることが多くなりました。いくら、4月中に授業研究を始めると言っても、すでに数週間は経過しています。もう少し早く聞いておきたかったという若い先生の声は、どの学校でもお聞きしました。しかし、4月中なら十分修正は可能だと思います。

私は出かける学校では、ほとんどの場合、全部の教室の授業を短時間ずつでも見せていただくようにしています。個々の先生の指導の様子よりも、子どもたちの学習の様子や雰囲気を見るのが目的です。求められれば感じたことをお話ししたり、後日文章にして送ることもあります。しかし、最大の理由は当日お話しする内容の中心をどこに置くかを決めるためです。当然前もって準備をしていきますが、それで良いのかを判断したり、微調整を加えたり、時には大きく変更したりするのです。
 4月に見せてもらっても、もう教室によって大きな差があります。これが1年間続く場合もありますが、秋頃にお邪魔すると、結構変化のある場合も目にします。子どもたちがすっかり落ち着いた雰囲気で、他の子どもの発言への集中や考え合う姿を見るのは楽しいことです。きちんとしていた教室が、集中力を欠いたり、形だけの発表のし合いになっている姿は、残念というより悲しくなります。

学級づくりの基本的な方法も知らず、願っていたような学級とは反対の方向に動き出して悩んでいる先生方は、必ずしも経験の浅い世代とは限りません。学校現場では、このような仕事のノウハウは、日常的な仕事や職場の仲間との関わりの中で作られていきました。仕事の中で学ぶOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)です。最近あるビジネス書で「OJTというのは、多くの日本企業で『何もしない』の代名詞なのである」という文章を目にしました。もし学校もそうなっていたのなら、学級づくりも改めて学び直す必要がありそうです。
 当然のことですが、年度始めの学級づくりだけで1年間を乗りきれるわけではありません。1年間の子どもたちの成長は、(いい意味でも悪い意味でも)大人の1年間とは比較になりません。個人としても学級としても、成長しているという実感がなければ、停滞してしまいます。それに、学級として過ごす時間の大部分は授業時間ですので、授業の果たす比重がだんだん大きくなってくるのです。

ところで、学級づくりといえば、野中信行先生です。何冊もの学級づくりの本を出版されています。とても具体的で、しかもネーミングが絶妙です。「3・7・30の法則」とか「縦糸・横糸張り」(縦糸・横糸は横藤雅人先生の造語だそうで、野中先生との共著もあります)など、なるほどと思わせる力があります。
 ある校長先生が「初任者には、『まずは型にはめろ』と言っているのだが、なかなか伝わらなくて」と語ってみえました。「型にはめる」には反発を感じても、「縦糸と横糸の両方が必要だよね」と言われれば、納得できます。野中先生の最近のブログでは、上手くスタートが切れなかった場合の、途中での軌道修正にも触れていて参考になります。

実は最近気がついたのですが、小学校向けの野中先生(たち)の本に加えて、中学校向けに『学級経営10の原理・100の原則』堀裕嗣、高等学校向けに『高校教師入門』東海林明(いずれも学事出版)などが、この3月に出版されています。それだけ需要があるということでしょう。他の校種向けの本を読んでみると、結構参考になったり、ヒントになることが多いと思います。同時に、これらの本には授業づくりの大切さも忘れていないところが共通しています。

(2011年5月2日)

副島 孝

●副島 孝
(そえじま・たかし)

1969年から教員生活をスタート。小学校教諭11年、中学校教諭(社会科)10年、小牧市教育委員会指導主事、小学校の教頭校長や愛知県教育委員会勤務を経て、小牧市教育委員会の教育長を2001年から2009年まで8年9か月務めた。小牧市教育委員会のホ−ムページで「教育委員だより」、郷土文芸誌「駒来」に「乱読日録」を連載するなど、原稿に追われる毎日であった。2009年4月から2年間、名古屋大学教育学部大学院で、教育方法学を学んだ。授業実践と研究の両方の楽しさ厳しさを知る立場から、現在は愛知文教大学客員教授を務めるかたわら、小中高等学校での現職教育の支援をしている。