愛される学校づくり研究会

黙さず語らん

★このコラムは、「小牧市教育委員だより」での副島孝先生(前小牧市教育長)の発信を楽しみにしておられた皆さんからの要望で実現しました。「これまでのように学校教育や現場への思いを語り続けてください」という願いをこめて「黙さず語らん」というタイトルにしました。

【 第17回 】恥ずかしながら本が出ました

共著という形で、自分の割り当ての原稿を書いて送ったという経験は少なくありません。しかし、単独の著者として今回『「学び合う学び」と学校づくり』(1700円+税)を出すことになるとは、予想もしていませんでした。あれよあれよという間に構想がどんどん具体化し、発行日まで決まり、逆算するとここまでに原稿をという具合で、その間はけっこう大変でした。
 玉置崇先生から「出版しましょう。僕が編集はやりますから」とお話があったのは、「教育委員だより」をもとに書籍化する提案でした。(他の教育委員さんの分を含めて)260号になったうちから、どの地区にも参考になると思われる一般性の高いもの69号を選んで4章に分類し、新たな文章も加えて本にするというものでした(出版までの期間を通して、玉置先生からは何度も新提案をいただきました)。

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 自分の記録としてではなく、いろいろな地域の様々な立場の方に参考になるものなら考えてもいいか、と思うようになりました。それは教育行政の立場を離れてみると、9年近くやってきたこと、書き続けてきたことは、かなり変わったことだったのだと感じるようになっていたのです。だから、ひょっとすると、どの地区やどの学校(だけでなく教育関係でない市民の方)にも参考になるかもしれない、と考えたのです。

 それはそれとして、個人的には今回いくつかの得がたい経験をすることになりました。一つは、校正で自分の書いたものをまとめて読んでみると、これまでは自覚していなかった癖のあることに気づきました。私が書いてきた文章は、ほとんどが自分の記録ではなく、他人に伝え、説得する(納得してもらう)ものでした。その説得に仕方に、ある傾向というよりも癖と呼んだ方がよいものがあるのです。
 若い頃、なだいなだの本で、「人は自分がされると弱い方法で、他人に言うことをきかせようとする」という意味の文章を読んで、当たっているなと感じていました。脅されると弱い人は脅す、理屈で来られると弱い人は理屈をこねる、暴力に弱い人は暴力に訴える、という具合です。文章での説得に関しても、同じことが言えるように思います。私に一つの癖があるということは、自分がこう説得されると弱いということでしょう。何かは読んで判断していただきましょう(読めと言っているみたいですが)。

 もう一つは、出版の現場に立ち会ったことです。ネットという場が生まれてから、出版が持つ意味はずいぶん変わってきたように思います。本という形でなくても、自分の書いたものを発表することができるようになりました。つまり、編集者の介在抜きで、自分の好きなように発表することができます(経験はありませんが、自費出版なら編集も含めて自分だけで可能かもしれませんが)。
 しかし、今回は結果的に出版社からの依頼という形になりましたので、ある意味伝統的な作り方になりました。装丁から入稿、それに内容チェックを何度か繰り返し、3回の校正を経て出稿となりました。その間、玉置先生だけでなくプラネクサスの依田さんからも多くのご意見をいただきました。とても自分だけでは気づかないことばかりで参考になりました。また、林文通先生からは、素晴らしい写真を提供していただきました。 とは言うものの、デジタル化という時代の変化は出版にも確実に訪れています。当然ながら私の原稿も原稿用紙にではなく、はじめからコンピューターで打ったものです。だからこそ、原稿も校正もすぐに最終稿に反映されます。用語の統一作業も、手作業の部分はわずかです。印刷の分野にはかかわりませんでしたが、当然活字ではなくデジタル製版でしょう。今や新聞でも当然の方法ですから。

 とにかく、本という形で出版されました。何人かの方から購入方法をたずねられました。今回の出版は、できるだけ安価にするためにも書店に並ぶ形ではなく、ネット販売という形をとっています。つまり、出版元のプラネクサスへの注文販売です。出版をお知らせすることのできない方も多いし、購入方法も慣れていない方には複雑かもしれません。結局は口コミで広まるかどうかでしょう。出版までに何人もの方にお世話になったので、ご迷惑をおかけしない程度には読んでいただきたいというのが、今の正直な気持ちです。

(2010年12月6日)

副島 孝

●副島 孝
(そえじま・たかし)

1969年から教員生活をスタート。小学校教諭11年、中学校教諭(社会科)10年、小牧市教育委員会指導主事、小学校の教頭校長や愛知県教育委員会勤務を経て、小牧市教育委員会の教育長を2001年から2009年まで8年9か月務めた。小牧市教育委員会のホ−ムページで「教育委員だより」、郷土文芸誌「駒来」に「乱読日録」を連載するなど、原稿に追われる毎日であった。2009年4月からは名古屋大学教育学部大学院で、教育方法学を学んでいる。授業実践と研究の両方の楽しさ厳しさを知る立場から、学校の現職教育などに貢献したいと考えている。