愛される学校づくり研究会

★このコラムは、日本初(?)の教育コンサルタントとして10年前からご活躍中の大西貞憲さんから、授業を見るための眼力が高まるノウハウをインタビュー形式で学ぶものです。

【第18回】しっとりとした授業とは何か

onishi_small.gif大西貞憲(授業を見るプロ) tamaoki_small.gif玉置崇(インタビュー)
 

tamaoki_small.gif「学びの共同体」を提唱している佐藤学さんが指導に入っている地域では、授業評価の視点として「しっとりとした授業」であったかどうかが問われることがあります。大西さんが関わられている地域で、この「しっとりとした授業」という言葉を聞かれたことは、一度や二度ではないと思います。
 ある会議に参加された皆さんに「しっとりとした授業」の具体像について聞いたところ、明確な答えは返ってきませんでした。「しっとりとした授業」という言葉はよく聞くのですが、改めてそれについて聞かれると困るそうです。
 そこでお願いです。大西流でけっこうですので、「しっとりとした授業」の具体像を提示していただけませんか。
 


onishi_small.gif「しっとりとした授業」は、子どもの「テンション」「反応の速さ」「姿勢」に現れると思います。

 

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ある英語の先生の話です。子どもたちは英語の授業は楽しいと言ってくれるのですが、なかなか学力がつかないという相談をいただきました。授業を見てみると、子どもたちが楽しく参加できるような工夫がたくさんありました。人形劇のセリフを全員で発音させたり、小グループで寸劇を取り入れたりしています。また会話の練習では次々にペアを変えて何人と話せたかを競わせるなど、コミュニケーション活動を大切にした授業です。
 一見すると子どもたちは非常に積極的で、コミュニケーションがとれているように思えました。ところが、よく見ていると、子どもたちは自分のセリフをしゃべることに集中しているためか、何度も繰り返すうちにだんだん声が大きくなりテンションが上がっていきます。ペアの会話では、自分のパートのセリフばかり気にしているので、パートナーが話し終えるや否やすぐに話しだしたり、時には、パートナーが話し終えていないのにさえぎって自分のセリフを言ってしまいます。また互いに向かい合っていても、相手の顔をきちんと見ていません。子どもたちは相手をきちんと受け止めてかかわり合うことができていなかったのです。これでは、一つひとつの活動がきちんと学力として定着していきません。

 そこで、相手の言葉を聞く活動を取り入れるようにアドバイスをしました。例えば、ペアの会話では、質問に対して答えを一つに決めておかず、いくつかの中から選ばせたり、毎回違うことを答えさせたりします。そして、その答えに応じて、もう一度言葉を返すのです。つまり会話を1往復で完結させずに、最低1往復半するようにするわけです。そして、会話が終わった後に、互いの良かったところを指摘し合うようにします。
 また、教師と子どものQ&Aでは、"What did you have for breakfast ?" "I had bread for breakfast." といったやり取りをした後は、必ず "What did [… san] have for breakfast?" とやり取りの内容を他の子どもに聞き返すようにします。このようにして、子どもたちに友だちの言葉を聞く姿勢をつけるような工夫をお願いしたのです。

 それから数カ月して、また授業を見せていただきました。子どもたちの様子は驚くほど変わっていました。自分のセリフを言うことだけに精一杯で、いわゆるテンションが高すぎた子どもたちが、相手を見てうなずきながら聞いています。友だちの質問に対しては、少し間をおいてゆっくりと考え、答えています。声も相手に聞こえるには十分です。何より相手に自分の言うことを聞いてもらいたいという気持ち、相手の言うことを聞きとろうとする気持ちが表情や姿勢に現れています。そばにいた先生に「しっとりしていますね」と、思わず声をかけました。
 このように、しっとりした授業とは、子どもが互いに相手を「理解しよう」「受け止めよう」、「理解してもらおう」「受け止めてもらおう」としている授業のことだと思います。それは落ち着いた「テンション」、適度な「反応の速さ」、互いに顔を見あう「姿勢」に現れます。このような授業をぜひ目指してほしいと思います。
 

tamaoki_small.gif「しっとりとした授業」の要素を子どもたちの「テンション、反応の速さ、姿勢」の3つに整理していただいたことで、授業がとらえやすくなりました。特に「テンション」は重要だと思いました。「テンション」を直訳すると「緊張」ということになりますが、「高揚感」といったイメージも加わっているのだと思いました。これは子どもばかりではなく、教師にとっても当てはまることですね。教師のテンションが高すぎては子どもの姿が見えなくなります。教師の独り相撲の授業、つまり子どもの状況と乖離している授業は、教師のテンションに問題があるように思います。教師にも落ち着いたテンションは必要ですよと伝えていきたいと思います。
 

(2010年3月22日)

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●大西 貞憲
(おおにし・さだのり)

愛知県で公立中学・高校教諭を経て、民間企業で学校向けソフト開発に携わる。2000年教育コンサルタントとして独立。現場に出掛けての学校経営や授業へのアドバイスには「明日からの元気が出る」との定評があり、愛知県を中心として、全国の小中学校や自治体から応援を求められている。また、NPO法人「元気な学校を支援し創る会」理事として「教師力アップセミナー」「フォーラムin東京」を通して実践に役立つ情報の共有化・見える化に注力している。

●玉置 崇
(たまおき・たかし)

1979年、教員生活スタート。小学校教諭3年、中学校教諭16年、教頭6年、校長3年、2007年度より愛知県教育委員会義務教育課へ。ICTを活用した授業や学校経営で実績があり、文部科学省発行「教育の情報化に関する手引」作成委員の一人。大学時代には落語研究会に所属。今でも高座に上がりご機嫌をうかがっている。「やってみなきゃ分から ない」をモットーに、「思いついたら、すぐ動き出す」ところもあって、失敗は数知れず。そのくせ、ちょっとしたミスで、いつまでもくよくよ悩むタイプ。眠れぬ夜も多い。
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