愛される学校づくり研究会

★このコラムは、日本初(?)の教育コンサルタントとして10年前からご活躍中の大西貞憲さんから、授業を見るための眼力が高まるノウハウをインタビュー形式で学ぶものです。

【第14回】経験を生かす教師とは?

onishi_small.gif大西貞憲(授業を見るプロ) tamaoki_small.gif玉置崇(インタビュー)
 

tamaoki_small.gif「経験は意図的に積んで整理しなければならない」というのは、いつも私が肝に銘じている野口芳宏先生の言葉です。経験が価値あるものとなるのかどうかは、その後の経験の生かし方によると思うのです。とはいえ、「経験を生かす」とはいったいどういうことなのか、よく分かっていない若い教師が多いのではないでしょうか。
 多くの教師の授業について助言されている大西さんにとっては、時には「この教師は経験を次に生かそうとしていないな、残念だ」と思われることがあるでしょう。
 そこで今回は、「経験を生かす教師」と「経験を生かさない教師」の違いは、どんなところにあると思われますか。具体的に示していただけるとありがたく思います。
 


onishi_small.gif教師にとっての大切な経験は、子どもたちの活動・状況と自分の働きかけとの関係を知ることに尽きると思います。私は授業を見せていただいた後、授業者に「こんな場面があったのを覚えていますか」とよく質問します。このとき、「あの場面は子どもの・・・という発言に対して、こういうことを意図してこう対応したのですが、うまくいきませんでした」というように、そのときの状況と自分の意図、対応、結果をきちんと再現できる方は経験を生かす基本ができているということです。
 ところが、中には自分がそのときどんな発言したかをしたかも覚えてない方がいます。あまり深く考えず、なんとなく対応しているからです。意図がなければ、経験として記憶に残りません。その結果をきちんと評価することもできないし改善につながりません。経験を生かせないのです。

 ここで大切になるのが、その経験を整理するときの視点です。単純に子どもの状況に対して自分がこう働きかけたら子どもがこういう状況になった。だからこの働きかけはよかった、悪かったという整理をしていると、一見同じ状況であれば、過去に成功したのと同じ対応をとってしまいます。しかし、同じような状況であってもその原因は異なることがよくあります。この対応で以前はうまくいったのに、今回はうまくいかない、よくわからないということが起こってしまいます。そうならないためには、子どもの状況を作り出している原因と自分の働きかけの関係を意識して整理しておくことが必要になります。

onishi14-1.gif

例えば、発問に対して今まで活発に反応していた子どもたちが黙ってしまったときに、もう一度説明して発問を変えたら、子どもたちが動き出したという経験をしたとします。「発問をして子どもたちが黙ったら、もう一度説明するとよい」と整理するのでなく、「子どもたちが黙っていたのは、発問がよく理解できなかったためと判断した。そこで、もう一度説明して発問を変えたらうまくいった」と整理しておくのです。すると、次に同じような場面に出会ったときに、すぐに説明するのではなく、子どもの状況をより注意深く観察することを大切にすることでしょう。その結果、「集中して考えているので、黙っているのだ」と気づけば、そのまましばらく待ち続けるという判断もすることができます。すぐにもう一度説明をしてしまうと、せっかくの子どもたちの集中を乱すことになってしまうところだったのが、子どもたちの考えをじっくりと深めることができるのです。

 経験を生かす教師とは、「子どもをよく観察し、その状況を判断し、意図をもって対応し、子どもの事実とその原因を意識して評価・整理して次の授業に生かす」という当たり前のことを続けている教師のことだと思います。
 

tamaoki_small.gifなるほど!「意図がなければ、経験として記憶に残りません」は、特に若い教師にぜひ伝えておきたいですね。厳しい言い方をすると「経験年数と授業力に相関関係はない」と思っています。「意図的な取組の蓄積と授業力には大いに相関関係がある」と思っています。
 附属名古屋中学校に勤務していたときには、通常の指導案の他に、自分の授業意図をすべて明らかにしておくために「授業構想」というものを書いていました。そこには、この場面ではこの考えからこのような発問をする、生徒がこう反応したらこう切り返す、ここでは3つの意見を取り上げる、このような順に机間指導をする、あえて○○さんを指名して発表練習をさせるなど、ありとあらゆる自分の意図を明記しておくことを試みていました。もちろん年に何度も書けるものではありませんが、こうした経験を経て、授業をそのまま思い出すことができるようになり、経験を次に生かすことがより出来るようになったと思っています。
 

(2010年1月25日)

person6.gif

●大西 貞憲
(おおにし・さだのり)

愛知県で公立中学・高校教諭を経て、民間企業で学校向けソフト開発に携わる。2000年教育コンサルタントとして独立。現場に出掛けての学校経営や授業へのアドバイスには「明日からの元気が出る」との定評があり、愛知県を中心として、全国の小中学校や自治体から応援を求められている。また、NPO法人「元気な学校を支援し創る会」理事として「教師力アップセミナー」「フォーラムin東京」を通して実践に役立つ情報の共有化・見える化に注力している。

●玉置 崇
(たまおき・たかし)

1979年、教員生活スタート。小学校教諭3年、中学校教諭16年、教頭6年、校長3年、2007年度より愛知県教育委員会義務教育課へ。ICTを活用した授業や学校経営で実績があり、文部科学省発行「教育の情報化に関する手引」作成委員の一人。大学時代には落語研究会に所属。今でも高座に上がりご機嫌をうかがっている。「やってみなきゃ分から ない」をモットーに、「思いついたら、すぐ動き出す」ところもあって、失敗は数知れず。そのくせ、ちょっとしたミスで、いつまでもくよくよ悩むタイプ。眠れぬ夜も多い。
>>>個人ホームページはこちら