愛される学校づくり研究会

★このコラムは、日本初(?)の教育コンサルタントとして10年前からご活躍中の大西貞憲さんから、授業を見るための眼力が高まるノウハウをインタビュー形式で学ぶものです。

【第11回】総合的な学習の時間の本質

onishi_small.gif大西貞憲(授業を見るプロ) tamaoki_small.gif玉置崇(インタビュー)
 

tamaoki_small.gif総合的な学習の時間が学校現場に実際に導入される数年前に、大西さんと総合的な学習の時間についてあれこれ論議したことを時々思い出します。
 導入から10年。新学習指導要領では時間数が少なくなったことで、いずれ総合はなくなると考えている教師もあるようです。私はけっしてそのようなことはないと思っています。それは大西さんからの総合的な学習への助言を通して、「総合的な学習の時間の本質」をたたき込まれたからだと思っています。
 現在、学校では新学習指導要領実施に向けて、これからの総合的な学習の時間について考え始めているところだと思います。「総合はこうあるべきだ」と具体例を示していただきながら、学校現場にガツンと一撃をお願いします。
 


onishi_small.gif総合的な学習の本質と大上段に掲げられるとどう答えたらよいか悩みますが、実際に学校現場で見聞きして考えたこと、アドバイスしてきたことを述べたいと思います。
 私は、学習指導要領の「総合的な学習の時間」の目標の中でも、特に「自ら学び、自ら考え、主体的に判断」できるようになることを大切にするべきだと思っています。子どもたちが社会に出て主体的に生きていく上で大切な力であり、通常の授業ではなかなか身につけることが難しいからです。しかし、実際の総合の時間では調べたり、体験したりすることが目的化していて、この活動を通じて子どもたちにどのような力がつくのだろうかと疑問に感じることが多いのも事実です。
 ある学校でトマトの栽培について調べた子どもたちがいました。「よいトマトを作るために、農薬は必要である。注意して使えば安全である。健康のためにはタバコや肥満の方がよほど問題である」と取材先の話をそのまま発表していました。「無農薬にこだわって生産している人もいるが、それについてはどうですか?」という質問には、子どもたちは「そう聞いてきました」という返答しかできませんでした。確かに調べることを通じて、インターネットを使う力やインタビューの力、発表を通じてプレゼンテーションの力はつきます。しかし、「農薬は使った方がよい」という調べた結果をそのまま受け入れ、そのことについて考えたり、自分なりの判断を下したりしてはいません。本当はここからが「自ら考え、主体的に判断」できる段階になるわけで、この段階で終わっていては総合の本質に迫っていないと思うのです。

では、どのようにすればよいのでしょうか。私は「活動や課題のゴール、つまりテーマを判断が必要なものにするとよい」とアドバイスをさせていただいています。調べ学習であれば最終発表を「YesかNo」で答える形にするのです。

 「トマトの栽培について」ではなく、「トマトの栽培に農薬は必要か?」
 「A川の環境について」ではなく、「A川は汚れているか?」

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このようにすれば、YesであれNoであれ、それぞれの考えを調べただけでは、結論は出せません。調べた内容をもとに、子どもたちが考え判断することが必要となります。また、職場体験であれば、ただ体験して仕事の内容や感想を発表させるのではなく、「あなたは、この仕事を人に勧めますか」といった判断とその理由を求めるのです。
 調べることや体験するという手段にばかりに目を奪われるのではなく、自ら学び、自ら考え、主体的に判断できる子どもを育てるという目的を大切にしてほしいと思います。
 

tamaoki_small.gifあなたの学校の「総合的な学習の時間」での子どもたちのテーマは「〜について」ではありませんかと尋ねてみたいですね。これは、いわば総合の本質度を判断する大西流チェック・クエスチョンですね。発表を聞く側にとっても「〜について」のテーマでは、それを聞いてみようとも思いませんね。「A川は汚れているか?」というテーマであれば、聞く側も自己の考えをもとに発表を聞くと思うのです。
 秋は学校の研究発表会シーズンですが、研究発表会のテーマも考えものですね。抽象的なテーマ設定がほとんどで、参観者はもちろん、発表校の職員の記憶にも残らないテーマが多いのではないでしょうか。記憶に残らないようなテーマでは、そのテーマへの迫り具合は推して知るべしです。それだけテーマ設定は難しいということなのだと思いますが。
 

(2009年12月14日)

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●大西 貞憲
(おおにし・さだのり)

愛知県で公立中学・高校教諭を経て、民間企業で学校向けソフト開発に携わる。2000年教育コンサルタントとして独立。現場に出掛けての学校経営や授業へのアドバイスには「明日からの元気が出る」との定評があり、愛知県を中心として、全国の小中学校や自治体から応援を求められている。また、NPO法人「元気な学校を支援し創る会」理事として「教師力アップセミナー」「フォーラムin東京」を通して実践に役立つ情報の共有化・見える化に注力している。

●玉置 崇
(たまおき・たかし)

1979年、教員生活スタート。小学校教諭3年、中学校教諭16年、教頭6年、校長3年、2007年度より愛知県教育委員会義務教育課へ。ICTを活用した授業や学校経営で実績があり、文部科学省発行「教育の情報化に関する手引」作成委員の一人。大学時代には落語研究会に所属。今でも高座に上がりご機嫌をうかがっている。「やってみなきゃ分から ない」をモットーに、「思いついたら、すぐ動き出す」ところもあって、失敗は数知れず。そのくせ、ちょっとしたミスで、いつまでもくよくよ悩むタイプ。眠れぬ夜も多い。
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