愛される学校づくり研究会

★このコラムは、日本初(?)の教育コンサルタントとして10年前からご活躍中の大西貞憲さんから、授業を見るための眼力が高まるノウハウをインタビュー形式で学ぶものです。

【第8回】新任教師の初の研究授業を見るとき

onishi_small.gif大西貞憲(授業を見るプロ) tamaoki_small.gif玉置崇(インタビュー)
 

tamaoki_small.gif新任教師は、初めての職場でどのような教師に出会うか。このことで教師人生は大きく左右すると言われます。おそらく初めて研究授業を行ったときも、どのような助言をもらうかによって、その後の研究授業に対する姿勢が変わってくると思うのです。
 そこで、今回は新任教師の初の研究授業を見るときに、指導者は、特にどこに注目すべきかをお聞きしたいと思います。もちろん、新任教師それぞれによって注目すべき点は違うとは思いますが、大西さんの日頃心がけてみえることでけっこうです。まずはここに注目し、助言を行いたいというお考えをお聞かせください。
 


onishi_small.gif私の場合、最初に注目するのは、その教師がどんな授業を目指しているか、どんな子どもを育てたいと思っているかです。例えば、「友だちの意見はどうだった」というような発問が出てくるようであれば、子ども同士がかかわり合いながら学ぶ授業を目指しているのだなと考え、そのような目標を持っていることをまずきちんと認めるようにします。

ところが往々にして、授業からその目指す方向が伝わってこないことがあります。そのようなときは、授業後にどんな授業を目指しているのかを質問します。うまく言えないときは、具体的な子どもの姿をできるだけたくさん言ってもらいます。このようなやり取りを通じて本人が目指す授業の姿を明確にしていきます。そして、たとえその目標が未熟と感じられるものであっても批判するのではなく、そのような目標を持てていることを大いにほめます。目指す子どもの姿を意識して日々の授業を行うことが何よりもまず大切だと思うからです。その上で経験を積んでいけば、授業の内容も良くなり、それに伴って目標の質もより高いものへと変わっていくはずです。

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新任教師の授業ですから技術的にも未熟な面が目立つと思いますが、そのことを細かく指摘して目先の授業の形を整えることよりも、教師としての目指す方向を常に意識させて自らの授業を振り返らせることが、より大きな成長につながると思います。
 

tamaoki_small.gif確かによりよい授業を創り出す原動力は、教師が「目指す授業像」や「育てたい子ども像」を持っていることです。新任初の研究授業だからこそ、本人にそこに気づかせるべきであるという主張は、大いに納得できました。
 自分自身を振り返ってみると、このような視点で新任教師の授業を見ていたかというと反省することばかりです。少しでも見栄えがよくなるようにとの思いで、授業技術についての助言ばかりをしていたような気がします。今思えば、初めからあんな細かなことばかり助言しても、それからの新任教師のあり方にどれほど支えになったのかと思いますね。
 いつも自分のフィールドに話をもってきて申し訳ないのですが、落語家も同様だと気づきました。談志師匠だったと記憶していますが、初高座を終えた新弟子に「それでね、あなたはどんな落語家になりたいの」と聞くと言いますね。大目標がなければ、小さな目標達成への意欲がわいてこないということかもしれません。新任教師には、新弟子と同様、まず向かっていくべき方向をきちんと意識させることが大切だと言うことですね。
 

(2009年10月26日)

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●大西 貞憲
(おおにし・さだのり)

愛知県で公立中学・高校教諭を経て、民間企業で学校向けソフト開発に携わる。2000年教育コンサルタントとして独立。現場に出掛けての学校経営や授業へのアドバイスには「明日からの元気が出る」との定評があり、愛知県を中心として、全国の小中学校や自治体から応援を求められている。また、NPO法人「元気な学校を支援し創る会」理事として「教師力アップセミナー」「フォーラムin東京」を通して実践に役立つ情報の共有化・見える化に注力している。

●玉置 崇
(たまおき・たかし)

1979年、教員生活スタート。小学校教諭3年、中学校教諭16年、教頭6年、校長3年、2007年度より愛知県教育委員会義務教育課へ。ICTを活用した授業や学校経営で実績があり、文部科学省発行「教育の情報化に関する手引」作成委員の一人。大学時代には落語研究会に所属。今でも高座に上がりご機嫌をうかがっている。「やってみなきゃ分から ない」をモットーに、「思いついたら、すぐ動き出す」ところもあって、失敗は数知れず。そのくせ、ちょっとしたミスで、いつまでもくよくよ悩むタイプ。眠れぬ夜も多い。