愛される学校づくり研究会

★このコラムは、日本初(?)の教育コンサルタントとして10年前からご活躍中の大西貞憲さんから、授業を見るための眼力が高まるノウハウをインタビュー形式で学ぶものです。

【第2回】指導案へのメモを知りたい

onishi_small.gif大西貞憲(授業を見るプロ) tamaoki_small.gif玉置崇(インタビュー)
 

tamaoki_small.gif第1回目は指導案の見方を聴きましたが、第2回目はその続編で(笑)。 授業を見る一手法に、付箋紙に時間、気づいたこと、記入者名を書いて、それを時系列にならべて検討することがありますよね。そこに書かれた気づきを読んでみると、同じ授業を見ていても、人それぞれですね。その人のこだわりというか、自分の授業と照らし合わせて感じることというか、当たり前だとは思いますが、その方の授業観が反映されていると思うのです。
 そこでお聞きしますが、大西さんが授業をご覧になっている時に、指導案にメモされている事柄がとても気になるのです。自分の授業を見ていただいている時は、特にです(笑)。大西さんはほとんどその場で記憶されてしまわれる方で、授業後に助言いただくときには、メモを見ながら助言されることはほとんどありません。だからこそ、授業を見ているときに、大西さんは何を書かれているのか、よほどのことを感じられてのことだと思うのです。お答えは「授業によって違います」でしょうが、差し障りのないところで、具体的にお教えいただけるとありがたいのですが。
 


onishi_small.gif誰でもそうだと思いますが、まず自分にとって気になる事実をメモします。具体的に言うと、「Aさんは、さっきまで一生懸命に参加していたのに、突然やる気がなくなったみたいだ」と感じれば、「Aさん、・・・の後やる気なし?」とメモします。「授業者の・・・という発問が、子どもに分かりにくいのでは?」と感じれば、「・・・で子どもは分かるのか?」とメモします。
 私の場合は、ほとんどが子どもの様子とその時感じた疑問、授業者の発問や行動と子どもがその結果どう反応するかという予測になります。ただ、いずれにしてもそのメモが整然と並んでいくことはありません。なぜならメモをしたあと必ずその疑問の答えや、予測が実際にはどうなのかを授業を見ることで確認していきますので、関連したメモがどんどん蓄積されていくからです。

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そして、その事実間に共通性があると思えば、円で囲んでまとめたり、因果関係があると思えば矢印で結んだりして整理をしていきます。この作業を続けていくことで、この授業だけに言えることではなく、他の授業でもいえること、つまり再現性のあることが見つかっていきます。
 ですから、私のメモはグルーピングされた項目間を矢印が行き交うダイナミックなもの(世間ではぐちゃぐちゃと言いますが)になります。参考までに、ある社会科の授業を見たときのメモ(下図)をごらんください。
 

「この課題(グループ活動)で(子どもたちは)何をするかわかる、考えるの? 抽象的!」
「すぐに(一人ひとりが)資料を調べ始めた。すごい。なぜ???」
「調べているけどいつ考えるの?(授業者は)何か仕掛ける? どこで活動を止める?」
 この後、発表場面で
「(授業者が)調べたことを聞く。考えたことではない!」=「知識の共有化」
「必ず、どこ(で見つけた、にあった)と聞く」
「(子どもが)すぐに調べる。受け身でない!」
「知識をベースに考えさせる」←「知識がなければ考えられない」
からに→
 こんな感じで続きます。そして、気づきのまとめとして、
「知識」=「教えるか、調べるかのどちらか!」
「共有」=「結果の共有」or「調べ方・資料の共有」→

 最初の疑問の答として、
「抽象的な課題で子どもが動く」
「今までに何度も経験してどうすればよいか分かっている、指導されているはず」
「(授業者に)要確認」(実際に確認して)OK。
 、 
「危険な課題。子どもの姿を見て、そのまま(他の先生が)まねすると失敗!蓄積が大切!」
「子どもが良いからではなく、過去の指導が良いから」
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このように、私にとってメモをとるということは、授業の事実をもとに、その因果関係や共通性を自分なりの視点で整理する作業になっています。その結果、授業のポイントや再現性のあることが自分としてシンプルな形にまとめることができれば、授業のコメントは特にメモを見なくてもできますね。
 

tamaoki_small.gifなるほど!想像以上に構造的でした。テレビドラマで「事件は現場で起きているんだ!」という言葉がありましたが、まさに授業中に起こっている事実を積み重ねて、その授業の構造が明らかになるように記録されているのですね。付箋紙による授業の記録法は、多くの教員の目による事実が明らかになりますが、それらの情報を結びつけて構造化するまではできません。授業検討会の中で、それらの事実をつなぎ合わせる話し合いが必要だと思うのですが、そういった段階まで話し合いを進める司会役にはなかなかお目にかかれませんね。ましてや再現性のある段階までまとめあげることは教員だけの話し合いでは難しいと思います。だからこそ、大西さんのような授業を見るプロが必要なのだと思います。
 

(2009年7月27日)

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●大西 貞憲
(おおにし・さだのり)

愛知県で公立中学・高校教諭を経て、民間企業で学校向けソフト開発に携わる。2000年教育コンサルタントとして独立。現場に出掛けての学校経営や授業へのアドバイスには「明日からの元気が出る」との定評があり、愛知県を中心として、全国の小中学校や自治体から応援を求められている。また、NPO法人「元気な学校を支援し創る会」理事として「教師力アップセミナー」「フォーラムin東京」を通して実践に役立つ情報の共有化・見える化に注力している。

●玉置 崇
(たまおき・たかし)

1979年、教員生活スタート。小学校教諭3年、中学校教諭16年、教頭6年、校長3年、2007年度より愛知県教育委員会義務教育課へ。ICTを活用した授業や学校経営で実績があり、文部科学省発行「教育の情報化に関する手引」作成委員の一人。大学時代には落語研究会に所属。今でも高座に上がりご機嫌をうかがっている。「やってみなきゃ分から ない」をモットーに、「思いついたら、すぐ動き出す」ところもあって、失敗は数知れず。そのくせ、ちょっとしたミスで、いつまでもくよくよ悩むタイプ。眠れぬ夜も多い。