愛される学校づくり研究会

★このコラムは、ベテランの先生方によるリレー方式のコラムです。先輩教師として若い先生方に、「こんなことをしたらうまくいかなかった」といった失敗談を語っていただきます。

【第49回】安藤誉 先生
 「『単なる手段』が主役になってしまった研究授業」

私が以前勤めていた学校は、市内でもっとも生徒数が少ない中学校でした。もちろん職員数も少なく、30代半ばで赴任し、まだまだ分からないことや知らないことがたくさんある私が、2年目から学年主任を務めなくてはならない状況でした。教科に関しても、理科の正規教員は私一人だけで、ときには3学年分の授業やテスト作成、成績処理をすべて一人でやらなくてはなりませんでした。また、いくつもの校務分掌の責任者の欄に私の名前が入っており、常に複数の仕事を同時進行しながら、数多くの出張に出かける…、そんな生活をしていました。

他の先生方も同じように苦労していらっしゃるのに、自分だけが大変だと思っている時期がありました。また、仕事のペースがつかめてきただけなのに、自分は仕事を処理する能力が高いのではないかと勘違いすることもありました。自分の学年に、若い先生に入ってもらう機会が多かったため、自分自身が未熟者であるにも関わらず、授業の進め方について偉そうに指導することがありました。まさしく「井の中の蛙」になっていたのです。愚かな私の失敗はそんなところから始まります。

3年ほど前、市内の中学校理科部会の代表として授業を行い、その授業内容をビデオで発表する機会がありました。授業で取り扱う内容は、新学習指導要領で復活することになった「地球と宇宙」という単元の「月の満ち欠け」に決めました。授業中に月を実際に観察することは難しいので、モデルを用いて生徒の理解を深めたい。また、興味・関心を高めるために、ダイナミックなモデルを提示したい。こんなことを思いながら、月の満ち欠けを説明するためのモデルを3種類製作しました。かなり満足できるモデルが完成し、授業本番を迎えました。

おとなしくて静かであると評判のクラスで授業を行いましたが、ダイナミックなモデルが登場すると大きな反応がありました。また、いつも以上に発言があり、授業者としては「してやったり」という感じでした。今でいう「どや顔」で授業を終えました。

この授業は、校内現職教育ともリンクしていたため、何人もの先生が授業を見てくださいました。参観してくださった先生方から、「安藤さん、すごい装置だね。」「インパクトのある道具を使うと喰いつきが違うね。」など、声を掛けていただきました。

しかし、ある先生から、「今日の授業のポイントはどこだったの。」と聞かれました。私はすかさず、「モデルによって月が満ち欠けする理由を理解させたところです。」と答えました。するとその先生は、「モデルによって、現象を確認しただけで、生徒の科学的な思考が深まった場面はなかった気がするよ。モデルは単なる手段でしかないからね…。」とおっしゃいました。

その言葉を聞いた私は、冷水を浴びせ掛けられたような気がしました。自分が作ったモデルを見せびらかすことばかりに気を取られ、生徒に考えさせる時間をほとんど取っていなかったことに、やっと気づきました。私の授業は、自己満足のための授業でしかなかったのです。

今、私は「生徒の意見をつなぎながら、生徒の言葉で作り上げていく授業」を目指し、日々、悪戦苦闘しています。イメージ通りの授業はなかなかできません。もしかしたら、満足できる授業はいつまでたってもできないかも知れません。でも、いい授業ができるようになりたいという気持ちだけは、常に持ち続けたいと思っています。

(2011年10月31日)

失敗から学ぶ

●安藤誉
(あんどう・ほまれ)

平成元年4月より岐阜県の私立中学校で教員生活を開始。平成3年4月より、愛知県に戻り、知立市の小学校で5年勤務後、出身地である一宮市の中学校に赴任。平成23年4月より、一宮市内3つ目の勤務校で校務主任となる。授業だけでなく、花壇の手入れや環境整備にも悪戦苦闘中。