愛される学校づくり研究会

★このコラムは、ベテランの先生方によるリレー方式のコラムです。先輩教師として若い先生方に、「こんなことをしたらうまくいかなかった」といった失敗談を語っていただきます。

【第39回】野木森広 先生
「予期せぬ事態に肝を冷やした理科の化学実験」

理科の実験には危険を伴うことが多い。「安全第一」は理科教師としての基本中の基本である。その点、理科の教科書には安全な実験が紹介されている。薬品の濃度を間違えるなど、初歩的なミスをしない限り、まず危険はない。
 しかし、同時に理科の本質を教えるためには、教科書どおりの実験だけでは物足りないというのも理科教師の本音である。
 6年生の「水溶液の性質」は、児童を化学変化の不思議へと誘う絶好の機会である。水溶液の性質である酸性・アルカリ性は、そもそも水溶液になって初めて出現する性質である。この本質を理解させるためには、初めから水溶液を与える導入では物足りない。固体や気体(液体)を水に溶かすところから実験を始めたい。
 そう考えて行ったのは、次のような授業であった。

<導入>

13-39-1

<展開> いろいろなものを溶かして、リトマス紙につけよう。

13-39-2

<まとめ>

  • 水に溶けると、リトマス紙を赤く変えるものと青く変えるものと、色を変えないものがある。
  • リトマス紙の色を赤く変える水溶液を酸性、青く変える水溶液をアルカリ性、変えない水溶液を中性という。

この授業では、劇薬である水酸化ナトリウムと塩酸を扱う。安全のため、すべての予備実験を行うとともに、次のような対策をとった。

  1. 水酸化ナトリウムや塩酸は絶対に手で触れない。すべての薬品は薬さじかスポイトで扱う。
  2. 薬さじやスポイトは薬品ごとに専用のものを使い、ガラス棒は実験ごとに水洗いする。
  3. 一度に溶かす量は、水酸化ナトリウムは2粒まで、塩酸はスポイトに2滴まで。
  4. 使い終わった薬品のふたはすぐに閉める。(水酸化ナトリウムは各班フィルムケースに2粒のみ、塩酸は2規定の濃度でガラス瓶に少量のみを渡した。)

このような準備が功を奏して、実験は順調に進み、授業を終えた。

予期せぬ事態は、片づけのときに起こった。ある児童が突然、目の痛みを訴えた。何が起こったかを聞くと、机上の水酸化ナトリウムが入ったフィルムケースのふたがいきなりとび、同時に液体が目についたと言う。見ると、フィルムケースの中に残った一粒の水酸化ナトリウムが、水分を含んで熱をもっていた。

私はすぐに事態が理解できるとともに青ざめた。何かのはずみで水酸化ナトリウムのフィルムケースに水滴が入り、水酸化ナトリウムが水溶液になった。その結果、発熱反応でフィルムケースの中の空気が膨張し、ふたを勢いよくとばした。つまり、目についた液体は高濃度の水酸化ナトリウム水溶液なのだ。

下手をすれば視力に影響する。すぐに流水で洗い流すとともに、眼科に連れて行った。幸い、何の異常も無かったが、肝を冷やす出来事であった。

周到な予備実験で万全の用意をしたつもりでも不測の事態は起こりうる。今回の場合、フィルムケースに水が入ったことや、膨張でふたがとんだことなどは、予想もつかない出来事であった。理科の実験における安全対策は、いくらしてもしすぎるということはない。ちなみに最近では、安全眼鏡を着用することになっている。念には念を入れるとともに、不測の事態には落ち着いて対応できる心構えをもって臨みたい。

(2011年2月28日)

失敗から学ぶ

●野木森広
(のぎもり・ひろし)

昭和55年、教員生活スタート。小学校教諭23年(内、愛知教育大学附属名古屋小学校5年)、教頭4年、平成19年度より愛知県教育委員会義務教育課指導主事として全国学力・学習状況調査を担当。平成21年度から扶桑町立扶桑中学校長。初めての中学校勤務で校長となり、新鮮な気持ちで学校経営にあたっている。専門は理科。科学立国である日本を支える人材を養わなければと考えている。