愛される学校づくり研究会

★このコラムは、ベテランの先生方によるリレー方式のコラムです。先輩教師として若い先生方に、「こんなことをしたらうまくいかなかった」といった失敗談を語っていただきます。

【第38回】坂野久美 先生
「あわてんぼうの大失敗」

その日は、歯医者の予約がありました。
 虫歯ではなく、歯ぐきの腫れ。ズキズキうずいていました。痛くて、痛くて仕方ありません。授業後は会議が予定されています。おまけに日直です。とにかく、早く終わって歯医者に行きたいと思っていました。
 ところが、そういうときに限って会議は長引き、なかなか終わりません。ああ、早く終わらないかなあと、だんだんイライラが募ってきます。これが終わっても、日直の校内点検がある。いやだけど、ぱっと回ってしまおう。そう思っていました。

日も短くなった秋口、校内を回る頃には、薄暗くなっていました。痛い歯ぐきを押さえながら、急いで回りました。
 よし、やれやれ、これで日直の点検を終わって、歯医者に行ける。後は玄関を閉めるだけ。そそくさと玄関の扉を閉めたそのときです。私の足が、扉の角に当たり、足のかかとに激痛が走りました。玄関は重厚な造りで、扉は重い開き戸になっています。その扉に足をぶつけてしまったのです。かかとから血が流れ始めました。
「ああああ〜」
悲鳴を上げてしまったのです。その声に驚いたのは、職員室でお仕事をなさっていた先生方です。
「どうした?どうした?」
「足が挟まってしまいましたあ〜」
教頭先生は、車いす代わりに手近にあった事務いすを持ってきてくださって、私を乗せて保健室まで運んでくださいました。保健の先生は、子どもを手当てするときと同じように、私を診察台の上にのせ、傷を診てくださいました。
保健の先生曰く、
「こりゃ、医者に行かないかんね。」
その言葉を聞いた瞬間、「いやだあ、傷を縫うかもしれない、いやだあ。本当にいやだあ。」
私は、子どもと同じ状態です。子どもたちのけがを診るとき、
「痛くない!大丈夫!すぐ治る!」
と、いつも偉そうなことを言ってきました。今は子どもより情けない。
 そこへ、騒ぎを聞きつけた校長先生が現れました。会議中のイライラした顔の私、会議後、ばたばたと職員室を出て校内点検に行く私を校長先生はご覧になっていたのだと思います。事の顛末を全てお見通しの上で一言おっしゃいました。
「時間がないときほど、一息つきなさい。大きく息を吸って。」
先生に諭される子どもの気持ちを味わいました。

結局、同じ学年の先生が車で病院に運んでくださることになりました。そして、治療が終わるまで付き合ってくださいました。結局、歯医者には行けず、眠れぬ夜を過ごしました。

次の日、歯の痛みをこらえながら出勤しました。
 学校に行くと、先生方がクスクス笑ってみえたのです。笑ってみえる訳を聞いてみると、日直日誌は未記入、日直の仕事が完了していたのかどうか分からず、私が病院へ運ばれた後、残っていた先生方が、再度校内を回ってくださったのです。そういえば、日直の点検は一通りしたことも伝えずに、病院の後、家に帰ってしましました。
教頭先生曰く、
「昨日のあんたには往生こいたわい。」
「はい、申し訳ありません。」

それ以後、日直になった日は、他の先生方の教室の掲示物はどんな工夫がしてあるか、子どもたちのすてきな作品はないか、いろいろなことを発見する日と決めて日直をすることにしました。かかとの傷も歯も、ともに回復した後、つくづくと自分のあわてんぼうさにあきれ、二度とこうした失敗がないようにしようと心に決めました。ですから、今、若い職員の皆さんがあわてて出張に出かけるときは、「あわてないで!大きく息を吸って!」と声をかけています。

(2011年2月14日)

失敗から学ぶ

●坂野久美
(ばんの・くみ)

昭和57年、教員生活スタート。現在、東海市立緑陽小学校教頭。平成15年度から3年間、東海市教育委員会青少年センター主幹(社会教育主事)として、和太鼓「嚶鳴(おうめい)座」合唱「嚶鳴唄座」青少年劇団「おうめい」踊り「舞美翔(まいびと)嚶鳴」の四座を中心に、青少年文化の創造に携わる。愛知万博で、小学生から社会人まで若者100人と共に舞台に立ち、感動を味わう。
 「明日の日本を背負う子どもたちを育てるのだ」と夢はでっかく、「抽象より具体」「考えたら行動」をモットーに奮闘中。