愛される学校づくり研究会

★このコラムは、ベテランの先生方によるリレー方式のコラムです。先輩教師として若い先生方に、「こんなことをしたらうまくいかなかった」といった失敗談を語っていただきます。

【第35回】近藤 肖匡 先生
「事件はポケベルで起きた  〜困った情報はひとりでかかえない〜」

新任のときの話です。今で言う携帯電話のような画期的なアイテムが中高生の間でたいへん流行していました。そうです。ポケベル(ポケットベル)です。
 当時、私は自宅から勤務校へは、直線距離で50km以上、所要時間片道2時間を必要としたところに住んでいました。その勤務校は、全校生徒1,200人を超える中学校の大規模校で、赴任した私は、うかつにも自分のポケットベルの番号を生徒たちに教えてしまい、一瞬に広まりました。
 これがすべての事件の始まりです。
 四六時中生徒からの情報が入ってきます。

   []19    8810(学校行く はやと)
   []1[71  73  (学校いかない なみ)

と当時問題のあった生徒からの情報が、自分のポケベルに入って、生徒の動向をある程度つかめてうれしい部分もありました。

 あるとき、3連休になる前の日の夜中、日付が変わろうとする時間に

   10 758 2 16  J5(今 なごやにいる じゅんこ)

 とポケベルが鳴ったのです。
自分が担任するクラスや教科で受け持つ生徒のなかに、思い当たる生徒がいなかったので、単なるいたずらのメッセージが入ったと思っていました。その生徒の両親が「子どもが家出した」と、学校に相談に来ているとは思ってもみませんでした。
 明け方にも、同じメッセージが、何回も入るので、怪しいと思い名古屋駅に向かいました。まだ、電車も動いていない時間だったと思います。電話ボックスの前で、隣のクラスの女の子ともう一人が立っていました。
「どうしたの?」と聴くと、「家に帰る電車がなくて困っていた」と言うのです。
 「車で家まで送っていくから。」
 「おうちの人は2人でいること知っているの」という質問に、「うん。」とうなずく2人。これを聞いて安心してしまったのが、私の大きな失敗でした。
 すぐに学校やその生徒の担任または、学年主任や生徒指導主事に連絡をすればよかったのですが、休日でもあるし、自分にきたSOSだから、自分で処理すればよいと考えてしまったのです。

 ご両親は「捜索願い」を出しました。先生方も一緒になってその生徒を捜していたことも露知らず、のんびりその生徒宅へ到着。もちろん留守。学校では休日にもかかわらず、ちょっとした騒ぎになっていて、その生徒と自分が学校に着いたときには、親子げんかが始まったり、教師批判をされたり。電話一本をすれば、こんなことにはならなかったと思いました。
 「自分で何とかしなければ」と思い立った行動で、結局判断が鈍ったり、打つ手が遅れてしまったりして、最終的には子どもだけでなく、ご両親にもマイナスとなってしまいました。
 トラブルは自分で抱え込まずに、すぐに連絡や相談をして、周りに頼ることが大切であると思いました。

(2010年12月27日)

失敗から学ぶ

●近藤肖匡
(こんどう・ゆきまさ)

平成8年に教職をスタート。中学校で15年勤務。現在は大府市立大府中学校でホームページ担当。現職主任。専門は数学。「生徒が、そして学校が元気になる」仕掛けづくりを奮闘中。平成17年に文部科学省で研修してから、ユニバーサルデザインを意識した授業づくりに目覚めた。特別支援教育に関わる著書もいくつか手がけている。