愛される学校づくり研究会

★このコラムは、ベテランの先生方によるリレー方式のコラムです。先輩教師として若い先生方に、「こんなことをしたらうまくいかなかった」といった失敗談を語っていただきます。

【第34回】鈴木 詞雄 先生
「『先生のことをよく思っていませんよ』の一言」

私が最初に赴任した岡崎市はとても教育に情熱をもっている地区であり、学習指導や生徒指導、部活動指導、研究に至るまで手を抜かない教師がたくさんいました。尊敬できる先輩教師や相談できる仲間の教師が大勢いて、今でも最初の赴任地が岡崎市でよかったと思っています。
 ただ、教師としても社会人としても半人前以下だった私は、さまざまな失敗をしました。私と同じ学校に勤めた方は、今の私がどんな偉そうなことを言っても、「ぷっ」と吹き出してしまうに違いありません。今回はバリエーションに富んだ数ある失敗の中から、若い先生方の参考になりそうな失敗を選んでみました。

 私が最初に勤務した小学校は、全員の学級担任が学級通信を出す学校でした。当然私も始業式から学級通信を発行することにし、できるだけ子どもたちのよいところを載せようと努力しました。「学級委員に○○さんが選ばれました。」とか「困っていた給食当番を○○さんが助けていました。」など、いろいろな場面を取り上げて、子どもたちを褒めました。学級通信に載った子どもたちは、目をキラキラさせて喜んでいました。私もその子どもたちを見て、心が満たされました。

 そして迎えた、1学期の保護者会。一人ひとりの保護者と和やかに子どもたちの話をし、最後の保護者と話したときにこんなことを言われました。
「先生が出している学級通信は、子どもたちのがんばったところがたくさん紹介されていて、とてもよいと思います。私の子どもは何回も名前が載って、とてもうれしく思っています。ただ、私の子どもが何回も載っているのに、まだ1度も載っていないお子さんがいます。その保護者の方は、先生のことをよく思っていませんよ。」
と。私は頭の中が真っ白になりました。この保護者で最後ですから、先ほどまでにこやかに話していた保護者の中には、私を快く思っていない方もいたということです。話してくださった保護者に心からお礼を言い、1学期間にどの子が何回載ったかをチェックしてみました。そうすると、数回載っている子どもがいる一方で、1回も載っていない子どもが数名いました。自分は何と配慮のできない人間だろうと、情けなくなりました。もちろん保護者会では一人ひとりの子どものよいところを伝えていますから、見ていない訳ではないのです。ただ、学級通信という枠の中で、全員を褒めるという意識が全くありませんでした。2学期は、1学期に載らなかった子どもをできるだけ早く載せ、全員の名前が載るようにし、回数の差を1学期より少なくしたことは言うまでもありません。
 2学期の保護者会で、教えてくれた保護者にお礼をいうと、
「もう悪く言っている方はいませんよ。でも、これからは気をつけてくださいね。」
と言ってくださいました。

 その後、当時の校長先生から
「私は学級担任をしている頃、毎日子どもが帰った後の教室に行き、一人ひとりの子どもとどんな話をしたか思い出していた。もし思い出せない子どもがいたら、涙が出た。」
という話を聞きました。自分の甘さを痛感しつつ、担任をしているときは、この言葉を目標にしてきました。

(2010年12月13日)

失敗から学ぶ

●鈴木詞雄
(すずき・のりお)

平成3年に教職をスタートし、小学校で13年勤めた後、中学校で7年勤務している。2年目に岡崎市教育論文優秀賞を受賞。9・10年目に愛知教育大学大学院へ派遣され、志水廣教授のもとで算数・数学の指導法を学ぶ。17年目に愛知県教育委員会優秀教員表彰と文部科学大臣優秀教員表彰を受賞。20年目の今年は校務主任となり、壊れた施設の修理と生徒指導に追われている。ただ、算数・数学の授業の魅力からは離れられず、志水教授のもとで勉強するために、休日に大学へ通うようにしている。著書に『ザ・算数科発展問題216選』(明治図書)などがある。