愛される学校づくり研究会

★このコラムは、ベテランの先生方によるリレー方式のコラムです。先輩教師として若い先生方に、「こんなことをしたらうまくいかなかった」といった失敗談を語っていただきます。

【第24回】野中 信行 先生
「失敗はチャンスなのです 〜夏休み作品展での失敗〜」

教師生活37年間で、さまざまな失敗をしてきました。思い出すだけで、冷や汗が出てくることばかりです。それらの失敗の中で、よく思い出すのが、この事例です。

 夏休みの課題として、作品作りをさせる学校は多いと思います。
 夏休みが終わり、子どもたちはそれぞれに自分が作った作品をもって登校してきます。真っ黒に日焼けした手に持たれた作品は、輝いて見えます。
 その作品は、名前とコメント(工夫したところ・大変だったところなど)を書かせて、体育館に学年ごとに飾られます。
 さまざまな作品があります。夏休みの旅行日記、料理日記、研究日記、観察日記、さまざまな工作物、そして、夏休み最後の日に仕方なく作った作品。あるときには、自分が日頃使っている枕が出されたこともありました。(朝、起きがけに夏休みの作品展に持って行く作品を思い出して、周りを見回して「そうだ、家庭科の作品として枕を出そう」と考えたのでしょうか)
 さて、これから出された作品一つ一つに担任のコメントを書くのです。これは大変な作業です。40人もいるのですから。放課後の全ての時間を使わなくては済まないのです。
 学期始めは、それ以外にも忙しい。会議は目白押し。クラスでも、夏休みを経た一部の子どもたちは、落ち着かなくて不安定になっています。きちんと計画を立てて、1学期の落ち着いた状況に戻さなくてはならないのです。
 毎日ばたばたと走り回っている間に、作品にコメントを書く時間がなくなりました。
 「まあ、いいか。忙しいから」と自分に言い訳をしながら、作品を家庭に持って帰らせました。

 次の日。「先生、これっ」と連絡帳を子どもが持ってきました。読みながら愕然となりました。保護者からの連絡です。
「野中先生へ  昨日夏休みの作品を子どもが持ち帰りました。長い夏休みの中で、計画的にがんばって作り続けてきた作品です。せめて、先生の感想の一言ぐらいほしいなあと思いました」
と書かれてありました。ほんとうに頭をひっぱたかれるような衝撃でした。そういう気持ちは、十分持っていたのです。でも、忙しさに紛れてコメントをつけられなかった悔しさは、どう弁解しようもありません。
 私が日頃言っていることと違う行動を取っているのです。
「子どものことが、全てのことに優先します。会議などの教師側の仕事よりも子どものことを最優先にして学級経営をしていきます」と保護者には言っているのです。

 でも、よくぞ保護者も、私に連絡をしてくれたと感謝をしました。もし、連絡をもらえなかったら、きっとずっと同じ事を続けていたと思います。
 それから夏休みの作品は、必ずコメントをつけるようにしました。
 しかし、大変さは変わりません。
 大変なこと、困ったこと、苦労することなどには、必ず工夫する余地があるはずだというのが私の持論でしたので、なんとかできないものかと考えました。
 考え出したことは、次のようなことでした。(向山洋一先生の実践を参考にさせてもらいました)

  1. 夏休みの作品発表会を開く。(子どもたちのコメントは事前に書かせておく)
  2. 作品発表は、工夫したこと、大変だったところを中心に発表させる。
  3. 一人ずつ作品発表をし、発表し終わったら、みんなの間を回って作品を見せる。
  4. その間に、準備した大きい付箋紙(子どもの名前と私の名前の氏名印を押しておく)に、コメントを書く。
  5. コメントは、子どもが発表したことをなぞれば十分。
     「○○ ○○さんへ  作品名 夏休みに作った料理集
      作った料理をさめないうちに写真におさめるのが大変だったのですね。
      よくこんなにすばらしい料理を多く作れましたね。アイデアがとてもいいです。 野中 信行」
  6. すばやく書いたら、発表が終わった子どもにその場で付箋紙を渡し、作品にセロテープで貼り付けるように指示する。

作品発表会は、たっぷり2時間はかかります。でも、その間に担任のコメントも全てできあがるのです。一石二鳥でした。
 体育館での夏休みの作品展には、最初から教師のコメントが作品一つずつについています。これには、他の教師達がびっくりしました。「先生、いつコメントは書かれたのですか。そんな時間がよくありましたね」と。

 最近、さまざまな失敗にすぐへこんでしまう若い先生方が多いと思います。
 失敗を「駄目なもの」「マイナスのもの」と考えてしまっているからです。誰でも人間である限り、失敗はつきものです。失敗のない人生なんかないのですから。
 大切なのは、その失敗を単なる失敗に終わらせないことです。失敗は、「人生の宝庫」なのです。
 失敗したなと思ったら、迷惑をかけた人に正直に謝ることです。正直であることが、人間としてとても大切です。そして、その失敗を二度としないために、どうしたらいいだろうかと考え抜くことです。「失敗はチャンスなんですから」

(2008年10月20日)

失敗から学ぶ

●野中信行
(のなか・のぶゆき)

今年37年間の教師生活を終えました。最後まで、クラス担任をしてがんばりました。著書は、「困難な現場を生き抜く教師の仕事術」「学級経営力を高める3・7・30の法則」(学事出版)「新卒教師時代を生き抜く心得術60」(明治図書)。退職して、初任研担当教師として勤めています。今まで学級作りを中心に研究してきました。その成果を初任の人たちに伝えられたらいいなと考えています。